梓、ハマナス、ゴヨウツツジ。

この3つの言葉を目にしてピンと来る方はいらっしゃるだろうか。これは、天皇皇后両陛下と愛子さまのそれぞれの「お印」を表している。

今回は皇室の方々の「お印」について、由来や意外なエピソードをひもといてみたい。

愛子さま 初の帽子姿に”ゴヨウツツジ”

1年前の2022年元日、成年皇族になったばかりの愛子さまが、上皇ご夫妻に新年の挨拶に向かう際、帽子姿を初めて披露された。
その帽子にあしらわれていた可憐な花が”ゴヨウツツジ”、すなわち愛子さまの「お印」だった。

帽子は成年した女性皇族が、日中に公的な外出の際に日よけとして着用されるアイテム。

二十歳になった愛子さまの初めての帽子姿に注目していた記者として、さりげないながらも目を引くワンポイントが「お印」のゴヨウツツジだったと知り、成年皇族としての愛子さまの品格のある優しい佇まいそのもののように感じられた。

愛子さまのお印 ゴヨウツツジ
愛子さまのお印 ゴヨウツツジ
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「お印」とは 植物や文字、雪や星なども

そもそも「お印」とは、皇室で身の回りの品につけられる記章、いわばシンボルマークのようなもの。

その昔、高貴な方の名前を直接的に口にするのは畏れ多い、ということで出来た風習と言われている。皇室で誕生した赤ちゃんは名前と共に、また結婚により皇室に入る女性皇族にも「お印」が決められる。

男性皇族は植物、女性皇族は花であることが多いが、文字や雪、星といったものもあり、ある皇族の方が、ご自身のことをお印で表現されているのを耳にしたこともある。

「お印」とはどんなものなのか、天皇家の皆さまのものを列挙してみよう。

上皇さま:榮(文字)
上皇后美智子さま:白樺
天皇陛下:梓
皇后雅子さま:ハマナス
愛子さま:ゴヨウツツジ
秋篠宮さま:栂(つが)
紀子さま:檜扇菖蒲(ひおうぎあやめ)
佳子さま:ゆうな
悠仁さま:高野槙(こうやまき)

上皇さまは文字の”榮”で、明治天皇も同じく文字で”永”だった。

皇后雅子さまのお印 ハマナス
皇后雅子さまのお印 ハマナス

ちなみに三笠宮家の彬子さまは12月生まれで”雪”、10月生まれの瑶子さまは”星”で、姉妹の「お印」には植物とはまた違った趣がある。

両陛下から愛子さまへ「純真な心を」 

愛子さまの”ゴヨウツツジ”。五枚の葉(五葉)が特徴で、両陛下は栃木県の那須御用邸で5月に咲くこの花がお好きで、「純白の花のような純真な心を持った子どもに育ってほしい」との願いを込めて選ばれたという。

成年皇族として初めて記者会見に臨まれる愛子さま(3月17日)
成年皇族として初めて記者会見に臨まれる愛子さま(3月17日)

愛子さまは今年3月の成年にあたっての記者会見で、那須御用邸の縁側のソファで朝まで眠ってしまったエピソードを披露されたが、ご家族の思い出がたくさん詰まった那須を象徴するゴヨウツツジと共に、年の初めの外出に臨まれていたことが分かる。

悠仁さまのお印 高野槙
悠仁さまのお印 高野槙

一方、高校1年生の悠仁さまのお印”高野槙”は、日本固有の常緑の高木。
「大きく、まっすぐに育ってほしい」という秋篠宮ご夫妻の願いが込められている。悠仁さまはすでに母紀子さまの身長を超え、植物や自然が好きな青年に成長されている。

お祝い事に欠かせない「お印」

皇室では、お祝い事の際に「お印」を描いたボンボニエールという小物入れを作る慣例がある。

上皇ご夫妻のご結婚25年のボンボニエール 上皇さまのお印「榮」の文字
上皇ご夫妻のご結婚25年のボンボニエール 上皇さまのお印「榮」の文字
内ブタには美智子さまのお印「白樺」
内ブタには美智子さまのお印「白樺」

例えばこちらは、上皇ご夫妻が結婚25年の銀婚式の際に作られたボンボニエール。表には上皇さまのお印の”榮”の文字が、内側には美智子さまのお印の”白樺”が描かれている。

黒田清子さんの結婚式の引き出物のボンボニエール  上フタに黒田家の家紋にちなみ柏、側面に清子さんのお印「未草」
黒田清子さんの結婚式の引き出物のボンボニエール  上フタに黒田家の家紋にちなみ柏、側面に清子さんのお印「未草」

黒田清子さんの結婚式の引き出物のボンボニエールには、表面に黒田家の家紋にちなんだ”柏”、側面には清子さん(紀宮さま)のお印の”未草”(ひつじぐさ)が描かれている。

「お印」はその方を示すシンボルマークとして、お祝い事には欠かせないものなのだ。

美智子さま流 粋な「お印」使い

「お印」にまつわるエピソードがある。
美智子さまは平成の時代、ご自身の誕生日の午後、お住まいだった皇居の御所にご家族や近しい方、側近を招き、小さな音楽会を催されていた。報道陣には非公開のプライベートなミニコンサートだ。

12月8日撮影・赤坂御用地
12月8日撮影・赤坂御用地

時には音楽家も加わり、美智子さまはピアノや歌を、長女の黒田清子さん(当時の紀宮さま)は歌を披露されていた。

15年以上前のことだが、ある年のプログラムに、
「ピアノ 白樺 
 歌   未草(清子さんのお印)」と記載されていた。

上皇后美智子さまのお印 白樺
上皇后美智子さまのお印 白樺

お名前や”皇后”というお立場ではなく、「お印」が記された紙面からは、お身内でのコンサートの温かい雰囲気が伝わってきた。
「お印」にはこうした粋な使い方がある。

「白木華子」とは? 「お印」の意外な使い方

美智子さまの粋な「お印」使いにはもうひとつエピソードがある。

宮内庁の職員が作品を持ち寄り展示する職員文化祭でのこと。ある作品に「白木華子」と記名されていた。

お分かりだろうか。

当時皇后だった美智子さまは、ご自身のお印”白樺”を分解し、ペンネームのようにして使われていた。分かる人には分かる、ウィットに富んだ表現。直接お名前やお立場を書かないところに奥ゆかしさも感じられ、「お印」の使い方の応用編、上級者編とも言える。

上皇さまは在位中、金婚式の記者会見で「皇后はまじめなのですが面白く楽しい面を持っており、私どもの生活に、いつも笑いがあったことを思い出します」と述べられていたが、美智子さまのユーモアのセンスの一端を垣間見たように感じた。

皇室の方々の歩みと共にある「お印」。お名前やお立場とは違う「お印」を通して、それぞれの方を感じ取ってみてはいかがだろうか。

(執筆:フジテレビ社会部 宮内庁担当・解説委員 宮﨑千歳)

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宮﨑千歳
宮﨑千歳

天皇皇后両陛下や皇族方が日々取り組まれる様々なご活動をより分かりやすく、現場で感じた交流の温かさもお伝えできるような発信を心がけています。
宮内庁クラブキャップ兼解説委員。1995年フジテレビジョン入社。報道局社会部で警視庁クラブなどを経て、2004年から宮内庁を担当。上皇ご夫妻のサイパン慰霊の旅、両陛下の英エリザベス女王国葬参列などに同行。皇室取材歴20年。2児の母。