子どもたちはサイエンスに興味や関心があっても、成長とともに離れて行ってしまう。子どもがサイエンスの楽しさ、面白さを大人になるまで感じ続けるにはどうすればいいか?ロボットやイベントを通じた取り組みを取材した。
子どもが楽しすぎて会場から離れなかった
「子どもから大人まで科学技術に親しんでもらう。そうしたきっかけになる」
11月都内で開かれた科学イベント「サイエンスアゴラ2022」で、文部科学省の山本左近大臣政務官はこう語った。このイベントは2006年から開催している一般市民から研究者までが参加する日本最大級の科学イベントだ。

会場では科学の楽しさを伝える実験プログラムから、社会課題解決を考える高校生の取り組みまで様々な出展やプログラムが行われた。研究者から理系進学を予定する親子連れなどが会場に集まり、オンライン参加も含めると8千人以上が訪れた。小学生の子どもを連れてきた母親は、「子どもが楽しすぎて会場から離れなかった」と語っていた。

小学生まではサイエンス嫌いの子はほぼいない
17回目となるサイエンスアゴラが今回掲げたテーマは、「まぜて、こえて、つくりだそう」だ。主催者であるJST(=国立研究開発法人科学技術振興機構)の橋本和仁理事長は、この理由をこう語る。
「新しい発見、イノベーションは多様性の中から生まれるのは世界共通の認識です。ですからサイエンスは科学者だけがやるのでなくて、一般市民の方々も興味を持ってほしい。年齢性別関係なく科学の面白さを知ってもらうのがサイエンスアゴラの目的です」

橋本理事長はこうしたイベントを通して、子どもの理系離れを食い止めたいという。
「小学生くらいまでは、サイエンスを嫌いという子どもはほとんどいませんね。子どもの時にサイエンスに興味を持ってくれた人たちを、大人になるまでどうやって引っ張っていくのか。特にアゴラのような体験型のイベントは、子どもたちの記憶に残るので意義があると思います」

弱いロボットによる体験型サイエンス教育とは
いま学校現場では科学技術をより子どもたちに身近にしようと「STEAM教育」など様々な取り組みが行われている。こうした中で異色といえるのが、「弱いロボット」による“体験型サイエンス教育”だ。「弱いロボット」を開発する豊橋技術科学大学の岡田美智男教授は、20年ほど前から子どもの学習をサポートするロボットの開発を行っている。

当初岡田さんがつくったロボットの「む~」は、何もできない“ポンコツ”ロボットだった。岡田さんは子どもたちの反応を見るため、ある幼稚園にそのロボットを持っていった。しかしそこで予想しなかったことが起こったという。
「なぜか子どもたちの人気の的になって、みんなでそのロボットのお世話を始めたんですね。それがすごく面白いなあ、何もできない弱さには積極的な意味があるのだなあと思いました」

子どものウェルビーイングを引き出す
たとえば岡田さんが開発した「ゴミ箱ロボット」は、自分ではゴミを拾えない。しかしゴミ箱のかたちをしてヨタヨタ歩く姿を見ていると、子どもたちはゴミ拾いを手助けし始める。
「このロボットは他者のアシストをうまく引き出して、結果としてゴミを拾い集めてしまう、まさに他力本願ロボットです。しかしロボットの不完全さや弱さが、むしろ子どもたちのやさしさや強さを引き出すんです。ゴミを拾い集める子どもの表情がすごくよくて、子どもが幸せな状態、今風にいうと“ウェルビーイング”になるのですね」(岡田さん)

「弱いロボット」は子どもの自己肯定感や達成感も引き出すと岡田さんはいう。
「トーキング・ボーンズというロボットがあるのですが、子どもに昔話を語り聞かせようとするけれど、時々大切な言葉を忘れてしまう。そうすると子どもの目が輝きはじめて、手助けをしてあげる。子どもは自分より小さい子どもの世話をすると、成長するとよく言われますね。強いロボットは子どもが活躍する場がないのですが、弱いロボットは子どもの役割を引き出し自己肯定感や達成感につながるのです」

弱いロボットが障がいのある子どもを支援する
また岡田さんは、「弱いロボット」がコミュニケーションの苦手な子どもに、「他者との関係を拓くための足場にならないだろうか」と考えた。
「胸のポケットに入るサイズのロボットが、広汎性発達障がい(※)の子どもに代わって夏休みの作文を学校で発表してくれる。その発表を聞いた他の子どもたちが拍手を送ったりすると、その子どもは自分ではうまく話せないけれど自信を持つことができたりします」
(※)対人関係の困難、パターン化した行動や強いこだわりの症状がみられる障がい

「弱いロボット」は今後、療育支援(※)に活用される可能性も広がる。
「2人の子どもが同時に手を上げないとロボットも手を上げない仕掛けにすると、これまで協調したことがない自閉症の子ども2人が一緒に手を上げたりする研究があります。またダウン症の子どもが、先生に教えてもらったことを弱いロボットに教えようとして、保護者が驚いたということもありました」(岡田さん)
(※)障がいのある子どもの発達の状態や障がい特性に応じて、社会的自立を支援すること

サイエンスが子どもに身近になれば、子どもの可能性を広げることができる。そしてサイエンスの力で、だれ一人取り残さない学びの場も可能になるのだ。
【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】