不登校の子どもたちは増える一方だ。
文部科学省によると2021年度の不登校の児童生徒は24万4940人で過去最多だった。教育現場ではいま不登校の子どもたちが学びの機会を失わないように様々な取り組みをしている。
仮想空間など多様な学びの場を作るNPOと自治体の取り組みを取材した。
メタバースが不登校の子どもの学びの場に
「カカオってどんなところに生えているのか見てみよう。アフリカの赤道の辺にあるよ」
「聞いたことあるー」
「遠いよー」
子どもたちとスタッフがやりとりする学びの場はメタバース(仮想空間)だ。
様々な環境下にいる子どもたちを支援している認定NPO法人カタリバは、メタバースを使い不登校の児童生徒を支援するプログラム「room-K(ルームケー)」を行っている。
2021年11月から開始したメタバースには、全国で約110人が参加し、約70人のスタッフが学習支援やクラブ活動運営を行っている。
この記事の画像(6枚)先月筆者はメタバースを自身のアバターを使って取材した。
当日のプログラムはマインクラフト(※)を使って理科を学ぶ「マイクラde 理科」。チョコレートの原料であるカカオを調べようと、カカオの原産地アフリカまでスタッフと生徒が一緒に仮想空間を旅するのだ。
(※)ゲーム感覚で使えるプログラミング教材(※※)Minecraftを用いたプログラムは、room-K内プログラムであり、Minecraft公式のものではなくMojangとは関係ありません
オンラインなら地方でも進度に合わせた支援可能に
カタリバはコロナ禍の一斉休校を受けて、オンラインによる学習と居場所支援を開始。活動の中で不登校の子どもたちの支援には、オンライン活用が有効なのではないかと考えた。この事業を担当する礒崎大二郎さんはこう語る。
「地方の場合支援を届けたくても、交通の便が悪く子どもが施設までリーチするのが難しいですし、スタッフが子どもたちの家に行くにも人手が足りない。こうした課題を抱える中で、『オンラインであれば子どもたちがどこにいても支援を届けられるのではないか』とこの事業が始まりました」
「room-K」では子どもたちの様々なニーズに対して支援を行う。「勉強が苦手だけど頑張りたい」「いつか学校に復帰するため学力をつけたい」という子どもにはスタッフが個別に学習支援を行い、中学3年生であれば高校受験向けの相談に対応している。
「学年別にプログラムをつくっても、年齢と学力がマッチしないことも多く学力レベルは様々です。一人ひとりの進度に合わせて学べるよう、プログラムは小学生も中学生も参加できるようにしています」(礒崎さん)
「自分も仲間の一員だと認められている」
また、相手に自分の気持ちをどう伝えたらいいのかわからないという子どももいる。そうした子どもに対しては、コミュニケーション力を身につけるプログラムもメタバース上で実施している。
「子どもたちは、全く反応がなかったり、チャットだけ参加したり、音声だけ出したり、顔を出したりと多様です。しかしスタッフは、どの子どもにも『自分も仲間の一員だと認められている』と感じてもらえるようにしっかりと声かけをしています」
不登校の子どもはいま全国で約24万人いる。礒崎さんは「すべての子どもがオンラインを求めているわけではありません」と語る。
「しかしこの取り組みを始めてから、多くの子どもが学びにつながることができました。家庭環境によって子どもたちの教育機会に格差が生まれないように、この取り組みは自治体の協力を得て無料にしています。子どもたちが自分にあった学びを選択できるように、このような多様な学びの形が広がっていけばと思っています」
不登校の子どもが増えた理由と現状
カタリバと包括協定を結んで不登校対策に取り組んでいるのが埼玉県戸田市だ。
戸田市においても国や県と同様、不登校児童生徒数は年々増加傾向となっている。そのため戸田市ではカタリバと連携したメタバースのほかにも、積極的に不登校児童生徒への支援を行っている。
戸田市教育委員会の戸ヶ﨑勤教育長は、いま不登校には大きな3つの課題があるという。
「国の調査結果によると、昨年度の全国の不登校児童生徒数は9年連続で増加していて過去最多、増加率は過去最大です。また、小学生の不登校が増えていて9年前の4倍になっています。さらに不登校の児童生徒のうちの36.3%が、学校内外で相談支援を受けていないのが現状です」
支援の目標は学校復帰から社会的自立へ
不登校はなぜいま増えているのか。戸ヶ﨑氏は「社会的な自立がよりクローズアップされたことが背景にある」と語る。
「1992年に文科省はそれまでの “登校拒否”から“不登校”へ呼称を変更しました。これにより不登校支援の目標は、学校への復帰から社会的な自立に変わったのです。それまでは子どもを学校に復帰させることが重視されましたが、いまは学校に行くことよりも社会的に自立することを目標としています。この考えが学校や保護者に浸透したことが、不登校児童生徒数が増えている背景の1つです。また、平成28年12月に教育機会確保法ができたことによって、国の不登校対策の大前提が変わったことも背景にあるのかも知れません」
戸田市のカタリバとの連携協定は、全国の自治体の中でトップレベルに早かった。
現在「room-K」には数人の子どもが登録している。また、戸田市では「だれ一人取り残されない教育の実現」を目指して、不登校児童に多様な学びの場の選択肢を用意している。全国でも珍しい県立高校と連携した中学生の学習支援を行う「いっぽ」や、早期からの支援として小学生の不登校児童を対象にした校内サポートルーム「ぱれっとルーム」を先月から市内のすべての小学校に設置した。
多様な学びの先にある社会的自立をどうするのか?
さらに特筆すべきは「不登校を科学する」取り組みだ。
「戸田市では子どもたちのSOSを早期に発見してプッシュ型支援を行うために、子どもたちの就学前の状況から生徒指導、健康、学力などのデータを、市内の関係部局で共有しています。これまでこうしたデータは行政の縦割りによって共有できませんでした。こうした取り組みは全国でも極めて珍しいと思います」(戸ヶ﨑氏)
ではカタリバや戸田市のように学びの多様性を広げることで、不登校は解消されるのだろうか。戸ヶ﨑氏は「やればやるほど課題が見つかって、もやもやは尽きません」と語る。
「学校に行かない子どもが社会的に自立するのは難しいのが現実です。多様な学びはあくまで通過点でしかなく、多様な学び自体が目的化するのは危険です。学びの先をどうするのか。いまは義務教育が終わると『あとは自分でやってください』と放任になっています。その先に支援する場があるのか、社会全体で考えないといけません」
不登校の子どもたちを誰1人取り残さないために多様な学びの場を作る。しかしその先に子どもたちの社会的自立はあるのか。教育現場の苦悩は続いている。
次回【年々増える不登校を考える】では、神奈川県鎌倉市教育委員会の不登校の子どもたちへの取り組みを紹介する。
【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】