FIFAワールドカップカタール2022は、メッシ率いるアルゼンチンが優勝し、12月18日に閉幕した。日本代表は“強豪”のドイツやスペインを破り、日本中がその戦いぶりに熱狂した。

今回の大会は、初の中東開催ということでも注目されたが、なかでも当初から話題になっていたのが、「酒の販売ができるのか」という点だ。

記念カップに注がれたビールは1杯1900円

カタールは厳格なイスラム教の国で、公の場所での飲酒が禁止されている。酒が飲めるのは、いわゆる高級ホテル内にあるレストランやバーに限られる。

ワールドカップにはスポンサーとしてバドワイザーが入っているため、どこで酒が販売されるか注目されていたが、開幕2日前になって突然、FIFAが発表していた「スタジアム周辺での酒の販売」が取りやめになった。真相は不明だが、カタール側の意向が反映された可能性が高いとみられる。

ファンフェスティバルのビール販売所
ファンフェスティバルのビール販売所
この記事の画像(7枚)

一方、パブリックビューイング会場である「ファンフェスティバル」では、公の場所として唯一、酒の販売が許可された。ファンフェスティバルでは酒を飲みながら大画面で試合を楽しむことができるため、多くの外国人が訪れていた。

ビール1杯の価格は50カタールリヤル(約1900円)。それも生ビールではなく、500ml缶のビールをコップに注いだものだ。日本の相場からすると高いが、公の場所での飲酒が禁止されているカタールでは通常の価格ともいえる。

ビールを購入するともらえるW杯記念カップ
ビールを購入するともらえるW杯記念カップ

高い価格の代わりの意味もあるのか、ビールを買うと記念カップがもらえる。真ん中にW杯の優勝トロフィーが描かれていることから、記念カップ欲しさに何杯も飲んでいる人も多くいた。

「ファンフェスティバル(PV会場)」でビールを7杯飲んでいたモロッコサポーター
「ファンフェスティバル(PV会場)」でビールを7杯飲んでいたモロッコサポーター

ピースサインで写真撮影に応じてくれたモロッコサポーターは、カップを7つ持っていた。合計で約1万3000円になる。日本ではビール7杯で1万円超えは考えられないが、これもカタールならではの思い出なのかもしれない。

酒が買える“秘密の店” 事前予約、IDチェックで厳重管理

大会期間中に、突然、FIFAから報道陣に対して「予約して店に行けば酒が買える」とする通達がきた。それまで半月ほど酒がほとんど飲めないカタールで取材していたこともあり、信じられない状況だった。

店は事前予約制で当日予約はできず、2日後以降であれば予約ができた。さらに入店時間の予約も必要で、例えば「10時15分から10時30分まで」といった形で、その15分の間に店に入らなければならなかった。

店の敷地内には生ビールの樽が山積み
店の敷地内には生ビールの樽が山積み

酒を買いたい欲求とともに、本当にカタールにそんな場所があるのか確認すべく店に向かった。店の入り口には、予約した人の名前と予約番号が書かれた紙を持った警備員がいて、厳重にIDで本人確認も行っていた。

店の敷地内に足を踏み入れると、そこにはカタールとは思えない光景が広がっていた。生ビールの樽が山積みされていて、生ビール自体が珍しいカタールのどこで販売されているのかと思うほどであった。

店内にはビールやワインなどが並ぶ
店内にはビールやワインなどが並ぶ

さらに店内へと進むと、大量のビールが目に飛び込んできた。バドワイザーの500ml缶は11カタールリヤル(約418円)と、ファンフェスティバルの約5分の1の価格だった。

最安値はトルコの国民的ビール「エフェス」で、9カタールリヤル(約342円)だった。筆者はイスタンブールで飲み慣れていることもあり、このエフェスを購入して飲んでみたが、味はトルコで売られているものと変わらなかった。ビール以外にも、ワインやスパークリングワイン、ウイスキーなども販売されていた。

カタールの街中では見ることはない豚肉が冷蔵庫に並んでいる
カタールの街中では見ることはない豚肉が冷蔵庫に並んでいる

また、イスラム教では禁じられている豚肉のコーナーもあり、そこには豚のブロック肉やベーコンなどが大量に並んでいた。それまで、レストランでも豚肉のメニューを見たことがなかったので大きな驚きだった。酒や豚など表向き禁止されているものの、公の場ではない、人目につかない場所で楽しめるようになっていたのである。カタールに住む人は外国人が9割を占めるため、酒や豚を完全に禁止してはいないということだろう。

中東初の開催となったワールドカップは、限定的な場所で、かつ高い価格での飲酒が認められ、規制があるなか観客は楽しんでいた。しかし、酒の販売についての詳細はぎりぎりまで決まらず、最後まで混乱した。

カタールでも酒や豚肉を楽しんでいる人がいるというのであれば、もう少し柔軟に対応できたのではないか。選手やサポーターのことを考えるのであれば、大会を招致する段階である程度、詳細を決めて、公表する必要があったのではないか。今後も中東での開催があるなら、FIFAに一考していただきたい。

【執筆:FNNイスタンブール支局 加藤崇】

加藤崇
加藤崇