FIFAワールドカップ2022の舞台カタール。 世界中で歓喜の渦が巻き起こる中、実はもうひとつのW杯が開幕していた。

中東ならでは“ラクダ”のW杯
そのW杯とは、「ラクダのビューティーコンテスト」。ラクダの“美しさ”を競うものである。 カタールのアルシャハニヤ地域で11月23日から9日間開催されている。
審査基準は大きさ、姿勢、こぶの大きさ、唇など多岐にわたる。

実際現場で見ても、素人目では、違いが全く分からないが、関係者は「こぶは純粋な大きさではなく、キリっと盛り上がっていること。唇は下にだらりと垂れ下がっているほうが美しい」と話す。
そして、取材した日にちょうど行われていたのが「ミルク部門」。
ラクダから搾ったミルクの“量”を競いあうものだ。

優勝したラクダのミルクは会場で加熱処理をしてミルクティーとして振る舞われる。 私も試飲したが、少々の塩気と酸味があったが、さっぱりしてミルクティーによく合う。
原油国ならではの賞金額 “美容整形”で失格も
さすが資金が潤沢な中東、と言わんばかりに莫大な賞金が与えられる。 各部門の優勝には、日本円で約800万円、準優勝でも600万円ほどだそうだ。 賞金・商品の合計は日本円にして約4億円にも上る。

それだけに、近年、多額な賞金と優勝の栄誉がもたらすラクダの市場価値の向上を目当てに“不正”が横行しているという。
国営サウジ通信社によると、2021年12月に行われたサウジアラビアのコンテストではラクダの美容整形で43頭が失格になる事態が起きた。 ラクダにボトックス注射、ホルモン使用、ゴムを使って体を膨らませるなどの施術をしたからだ。

当然ラクダへの美容整形はコンテストで禁止されており、厳密な検査が行われ、違反者には多額の罰金も科される。 “動物虐待”との批判もあり、人間の勝手な都合で動物にメスを入れることは許される行為ではない。

ラクダは“砂漠の船”
カタールにとってラクダ産業は、伝統と歴史、そして観光を担う大きな役割を果たしており、年間数億円にも上るという。
カタールを含めた中東では、ラクダは「砂漠の船」と呼ばれ貴重な移動手段として愛されてきた。

現在もカタール国内で最も大きな市場「スークワキーフ」でも数十頭ものラクダが見られ、観光客が乗ることもできる。
砂漠の中で行われる究極のスポーツ
砂漠を疾走しレースをするラクダもいる。
場所はドーハ市内から車で約1時間のアルシャハニヤ地域。 砂漠の中にぽつりとラクダのレース場「キャメル レーシング トラック」がある。

会場に移動している間には、ラクダを運ぶ「駝運車」にも遭遇。

この日の気温は35℃を超え、照り付ける日差しは痛さを感じるほどだった。 スタート前のラクダには近づいて写真も撮ることができ、観光客に大人気だ。
さあそしていよいよ、レースが始まる。

ゲートが開くとともに、一斉に走り出すラクダたち。まるで競馬さながらのスタートである。ラクダは漢字で「駱駝」と書くことから、ラクダレースは「競駝」と呼ばれる。

1週8キロのコースを全力疾走するラクダたち。 観光客は車で並走して、観戦する。砂埃が舞い、車の窓を開けると、カラッとした砂が車中に入り込んだ。

並走する車の時速は30キロほど。 馬ほどではないが、疾走感は相当あり、かつ8キロもの距離をそのスピードで走り続ける。
ジョッキーは人間ではなく「ロボット」
しかし気になるのはとても“小さなジョッキー”だ。
ラクダの背中をよく見るとジョッキーはなんと「ロボット」。 小さな軽量ロボットが腕をくるくると回し、ラクダに鞭を打つ。
これなら落馬(ラクバ)、、いや、落駝(ラクダ)の心配もない。

現地ではテレビ中継もあり日本の競馬中継さながらにアナウンサーの実況もある。 私を案内してくれた現地のスタッフもスマートフォン片手に中継を眺めていた。
賭け事は禁止
イスラムの掟にのっとり、賭け事は禁止されているが勝利したラクダに賞金はあるという。 このラクダレースは10月から3月までの金・土曜の昼過ぎから行われる。
ラクダが全力疾走する姿は中東ならではの光景で、爽快感がある。 世界中の人々が訪れるのも納得する観光地であった。
(執筆:フジテレビアナウンサー 木村拓也)