続落する内閣支持率
師走は政治が激しく動いた。
旧統一教会をめぐる被害者救済法を臨時国会最終日に成立させた岸田政権は、間髪を入れず「反撃能力」の保有を打ち出し、防衛増税の議論を推し進めた。
この記事の画像(9枚)防衛力の強化と財源問題で首相自ら陣頭に立ち指導力の回復を狙ったが、自民党内の対立が表面化。増税に対する世論の反発も強く、内閣支持率は軒並み過去最低を更新。
「政治とカネ」の問題も相次いだ。岸田文雄首相は政権浮揚への決め手を欠いたまま、立て直し策を思案している。
「戦後の安保政策を大転換」
政府は23日の臨時閣議で、一般会計総額114兆3812億円の来年度予算案を決定。
このうち防衛費は今年度当初予算比26.4%増、過去最大の6兆7880億円となった。1兆4192億円の増額だ。500~600億円程度だった近年の伸びから大幅に拡大した。
日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、岸田首相はかねて「防衛力の抜本的強化」に言及してきた。中国は東アジアで覇権主義的な動きを強め、北朝鮮は性能を向上させたミサイル発射を重ねている。
5月に行われたバイデン大統領との日米首脳会談で岸田首相は、「日本の防衛力を抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費の相当な増額を確保する」との決意を伝えていた。
外交・防衛の基本方針を定める「国家安全保障戦略」など「安保関連3文書」改定の閣議決定は12月16日。
「反撃能力」の保有や防衛関連の予算を2027年度に対GNP比2%へ倍増させることを明記し、23年度から5年間の防衛費総額を現行計画の1.6倍に当たる43兆円とすることを盛り込んだ。
岸田首相は記者会見で「戦後の安全保障政策を大きく転換するものだ」と強調した。
1兆円増税に自民紛糾
国土と国民を守るための防衛力の整備と防衛費の増額は必要だ。そのための財源の確保も。だが、財源確保策をめぐっては、岸田首相の方針に閣僚や自民党議員から異論が噴出した。
岸田首相が示したのは年間1兆円強の増税方針だ。27年度以降に毎年4兆円の追加の財源が必要だとし、このうち3兆円は歳出改革などで賄うが「残りの1兆円強は国民の税制で協力をお願いしなければならない」と増税を検討するよう与党に求めた。
これに噛みついたのが高市早苗経済安全保障担当相だ。「賃上げマインドを冷やす発言をこのタイミングで発信された真意が理解できない」とツイッターに投稿。
西村康稔経産相も記者会見で、「大胆な投資のスイッチを押そうとしている時であり、増税は慎重にあるべきだ」と異論を唱えた。
自民党の政調全体会議では「バカヤロー」と怒号が飛び交う事態に。
「拙速だ」、「プロセスに問題がある」など発言者の7割が反対の意見を述べた。また、党内有志議員の会合では「内閣不信任案に値する」といった過激な発言も飛び出していた。
最終決着を先送り
激論の末、自民党税制調査会は増税反対派に譲歩する形で決着を図った。
岸田首相の指示通り税目と税率を税制改正大綱に記載するものの、実施時期は明示せず。判断は来年に先送りとなった。岸田首相がこだわった防衛力強化の内容と予算、財源を「三位一体」で年内に決着させる方針は、あいまいな部分を残す結果に終わった。
政府は27年度に法人税で7000~8000億円、所得税とたばこ税で各2000億円、合わせて1兆円強を防衛費増額のための財源として確保することを目指している。
しかし、FNN世論調査(17、18日実施)では、防衛費増額の財源の一部を増税で賄うことを決めた岸田首相の方針について、「評価しない」が69.5%と「評価する」の25.6%を大きく上回っている。
自民党内の対立が再燃するのは確実で、増税を実現できるかは不透明だ。
「政治とカネ」で議員辞職
岸田政権では「政治とカネ」をめぐる問題が続いている。
収支報告書への不適切な記載が原因で寺田稔総務相が11月に辞任。秋葉賢也復興相は選挙運動費をめぐる疑惑が指摘され、野党から厳しい追及を受けている。
こうした中、自民党の薗浦健太郎衆院議員が「政治とカネ」をめぐる問題で議員辞職。政治資金パーティーの収入を収支報告書に実際より少なく記載したとして政治資金規正法違反の罪で略式起訴された。
岸田政権へのさらなる打撃は避けられそうにない。
記載しなかった金額は合わせて4900万円に上る。罰金刑が確定すれば、原則5年間、公民権が停止され全ての選挙に立候補できなくなる。
薗浦氏は当初、報道陣の取材に対し「会計責任者が全部やっていた」と説明していた。しかし、東京地検特捜部の事情聴取には一転、「秘書から事前に聞いて知っていた」と自身も認識していたことを認めた。
議員辞職の際、「私にも一定の責任がある。国民の政治不信を招きかねないもので、誠に申し訳なく、心より反省している」とコメントを発表したが、公の場には姿を見せず、説明責任から逃げたままだ。
当選5回、麻生太郎副総裁の側近として知られ、首相補佐官や外務副大臣を歴任したベテラン議員にしては極めて無責任な対応だと言わざるを得ない。
通常国会を乗り切れるか
秋葉復興相をめぐっては、ここに来て政府・与党内で交代論が浮上。来年1月下旬召集の通常国会で野党から追及を受ける前に交代させ、政権運営を安定させたいとの狙いだ。時期も含め岸田首相が最終判断するが、早ければ年内にも交代との見方が出ている。
通常国会は正念場だ。予算案の審議を通じて野党の攻勢にさらされるのは必至。岸田首相の真価が問われる場になる。政権の立て直しなくして150日間の長丁場を乗り切ることはできないだろう。
第二次岸田改造内閣が掲げる基本法方針は「国民の信頼と共感を得る政治」だ。防衛力強化をはじめとする重要課題や「政治とカネ」の問題に改めて正面から向き合い、国民に対する説明責任を果たす。このことに全力を挙げるべきだ。「信頼と共感」はその先にある。
【執筆:フジテレビ 解説委員 安部俊孝】