2022年シーズン限りで現役引退を表明した元広島東洋カープ・安部友裕さん(33)。第2の人生の挑戦の一つとして…リポーターに挑戦!スポーツ用品などを手がける世界的メーカーを真っ向から取材した。

第2の人生も「覇気!」でスタート

安部友裕さん:
覇気です!

現役時代、ヒーローインタビューで球場を沸かせた安部さん
現役時代、ヒーローインタビューで球場を沸かせた安部さん
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自分自身を鼓舞する「覇気!」をモットーに、カープの2016年~18年のリーグ3連覇に貢献した安部さん。

安部友裕さん:
基本的に野球のことばっかり考えてやってきたので、これから恩返しというか、受けた恩を広島で還元できるように動いていきたいという思いです

安部友裕さん(33)
安部友裕さん(33)

そんな安部さんにもっと広島のことを知ってもらいたい。人生の次なるステージに進むため、広島の人や企業からその極意を学ぶ新コーナー「覇気!安部友裕のツイセキ」がスタート。今回は広島が誇る世界的メーカーへ向かった。

タクシーに乗り込み、取材先へ
タクシーに乗り込み、取材先へ

ディレクター:
サッカーW杯は見ましたか?

安部友裕さん:
これは正直に言わないとおかしいことになるんですよ。サッカーW杯は、ほとんど見ていません。サッカー好きなんですけど、時間帯が寝とる

ディレクター:
今回はW杯ゆかりの広島の企業に行きます。モルテンです

安部友裕さん:
モルテン!もちろん知っていますよ

モルテン新本社に、なぜヒツジ?

到着したのは、広島市西区にあるモルテンのテクニカルセンター「ザ・ボックス」。分かれていた開発拠点を集約し、広島西飛行場の跡地へ11月に移転したばかりの新本社だ。

世界に通用するメーカーにふさわしくスタイリッシュな外観とは裏腹に、ある変わった仕掛けが…

安部友裕さん:
え?ヒツジおるやん?

ヒツジに逃げられる安部さん
ヒツジに逃げられる安部さん

なぜ、モルテン本社にヒツジがいるのか?安部さんは「ヒツジのことも、何でも聞きましょう!」と取材意欲たっぷり。その理由は後ほど明らかになるのだが、その前にディレクターから…

ディレクター:
小型カメラをお渡しします。安部さんの言葉と目線で企業の思いを掘り下げてください

突然、ディレクターから小型カメラを手渡され…
突然、ディレクターから小型カメラを手渡され…

安部友裕さん:
わかりました。まあまあ、むちゃぶりですね

いざ、モルテンの社内へ!

吹き抜けのある近代的なエントランスで迎えてくれたのは、モルテン広報室の中森真太郎さん。

安部友裕さん:
外にヒツジが3匹いたんですけど。それに、野菜も育てられていて…あれはどういった意図で?

モルテン 広報室・中森真太郎さん:
このテクニカルセンターには百数十名のエンジニアが駐在しているんですけど、そのエンジニアが庭に出て刺激を受けて「新しく物を作ってやろうぜ」という気持ちでまた仕事へ戻っていくためです

モルテン新本社の敷地内にある野菜畑
モルテン新本社の敷地内にある野菜畑

W杯で歴史的勝利を告げた”音”

大きな階段を上って2階へ移動すると、モルテンが開発したさまざまな競技用のボールが展示されている。

安部友裕さん:
サッカーW杯でモルテンの製品が使われていると聞いたんですけど、紹介してもらえますか?

モルテン 広報室・中森真太郎さん:
レフェリー専用のホイッスルを使っていただいています

安部友裕さん:
ホイッスルですか!

モルテン 広報室・中森真太郎さん:
これがW杯で使っていただいている弊社の「バルキーン」というサッカー専用のホイッスルです。ホイッスルはレフェリーの好みで選ばれますので、すべてではないんですが

安部友裕さん:
規定があるわけではないんですね

W杯に使われていたのはボールではなくホイッスル。2010年の南アフリカ大会から世界のレフェリーに選ばれるようになり、実に4大会連続でモルテンが「出場」している。広島市西区の工場で生産されている”メード・イン・広島”だ。

2022年のカタール大会で、日本代表が歴史的勝利をおさめたグループリーグ初戦のドイツ戦。その試合でレフェリーが吹いていたのがバルキーンだった。コート全体に通るクリアな高音。安部さんが吹くとどんな音がするのか、特別に吹かせてもらうことに…

モルテン 広報室・中森真太郎さん:
多分、ちゃんと吹けないですよ

W杯で使用されたホイッスルを吹く安部さん
W杯で使用されたホイッスルを吹く安部さん

ヒュヒュー。キレのない音が鳴った。中森さんが言った通り、きちんと音を出すのは難しい。安部さん、負けじともう一度吹いてみるが…

モルテン 広報室・中森真太郎さん:
ダメです。ダメです。選手にバカにされますよ

では、お手本はどんな音色なのか。
中森さんに吹いてもらうと「ピッ、ピー」と大きな音が響いた。

モルテン 広報室・中森真太郎さん
モルテン 広報室・中森真太郎さん

しかし…

モルテン 広報室・中森真太郎さん:
僕でもダメです。選手にバカにされます

安部友裕さん:
今のもダメなんですか?

モルテン 広報室・中森真太郎さん:
ダメです。管楽器と一緒で、タンギング(舌を使う技法)がちゃんとできないと吹けないんですよ。しかも90分間ずっと走り続ける中でこれを吹くために、レフェリーの方はトレーニングをされています

モルテン 広報室・中森真太郎さん(左)と安部さん
モルテン 広報室・中森真太郎さん(左)と安部さん

社名ロゴにひそむ「炎」の謎

試合をつかさどるレフェリーの一瞬の判断。それを瞬時に伝えるホイッスルの音。その音にもレフェリーの努力があることを知った。
モルテンが開発するスポーツ用品には選手が身につけるものはほとんどなく、試合を運営するために必要なものばかり。そこには”正確さ”で選手のより良いパフォーマンスを引き出したいという一貫した思いがある。

モルテン 広報室・中森真太郎さん:
きっかけは、バスケットボールのレフェリーの笛とサッカーのレフェリーの笛が同じものだったんです。全く違う環境で全く違う動きをするレフェリーが同じ笛を使うのってどうなのよというところから。じゃ、サッカーの笛を作ってみようぜと作り始めた笛です

もう1つ、安部さんには取材をしながらずっと気になっていることがあった。

安部友裕さん:
「molten」の企業のロゴ。なぜこのロゴにしたのか。「O」の中にあるのは炎ですか?英語のmoltenは「(熱で)溶かされた」などという意味らしいですが…

安部さんが気になっていたロゴマークの謎に迫る
安部さんが気になっていたロゴマークの謎に迫る

モルテン 広報室・中森真太郎さん:
「O」の中にあるマークは”情熱の炎”です。古いものから新しいものに生まれ変わっていこうぜという思いが込められています

安部友裕さん:
その情熱が企業の開発力の根源なんですね。すっきりしました。ありがとうございます!

モルテンの情熱の炎が安部さんの「覇気!」を燃やす
モルテンの情熱の炎が安部さんの「覇気!」を燃やす

社名とロゴに宿る”変革の精神と情熱”が、海を越えて愛用されるモルテンのブランド力を作っていた。

自分で組み立てるサッカーボール

さらに、モルテン新本社の内部を追跡する安倍さん。

安部友裕さん:
なんじゃこりゃ!想像もつかんような機械が9つもある

次にやってきた部屋は「ザ・スタジオ」。

安部友裕さん:
ここは体験スタジオということですか?

ディレクター:
はい。これから30分間で、安部さんにいちからボールを作っていただきます

ディレクターから新たなミッションを告げられる安部さん
ディレクターから新たなミッションを告げられる安部さん

安部友裕さん:
30分でボールが作れるん?じゃあ、この機械を駆使して?

ディレクター:
機械は使いません。安部さんの手作りです

安部友裕さん:
完全に手作業で?メード・イン・安部?

室内に入った安部さんに用意されていたのは、まるでパズルのピースようにバラバラになったプラスチック。

その名も「マイフットボールキット」。自分で組み立てて作る体験型のサッカーボールである。2021年に子ども用に開発された製品で、再生プラスチックのパーツ54個をはめると球体が出来上がる仕組みだ。

安部友裕さん:
ちょっと持たせてもらっていいですか?これって実際に蹴れるんですか?

モルテン スポーツ事業本部・内田潤さん:
蹴れます

安部友裕さん:
蹴ったときにバーンとならないんですか?ロベルト・カルロスが蹴ったら?

モルテン スポーツ事業本部・内田潤さん:
ロベルト・カルロスが蹴ったら2~3枚パネルは飛びますけれども、はめ直すだけです。ある程度の耐久性はあります。

慎重かつ着実に13分で完成

安部さんも「マイフットボールキット」の組み立てに挑戦!「覇気!」がモットーの安部さん。かなり前のめりだ。

安部友裕さん:
はいはいはい、そういうことね。これなら30分以内にできそうです

子どもが組み立てる目安時間30分より早く仕上げようと必死!口先も手先も調子が良さそうだ。内田さんに「センスがある」と褒められ、照れ笑いと共に自虐ネタも…

安部友裕さん:
センスある方ですか?野球はセンスなかったけど。なんでやねん!

自分にツッコむ安部さん
自分にツッコむ安部さん

迷った瞬間もあったが、説明書を見ながら着実にパーツとパーツをはめ込んでいった。

モルテン スポーツ事業本部・内田潤さん:
今までたくさんの子どもたちを見てきましたけど、安部さんは一番慎重な作り方をしますね

モルテン スポーツ事業本部・内田潤さん(左)と安部さん
モルテン スポーツ事業本部・内田潤さん(左)と安部さん

安部友裕さん:
そうなんですよ。石橋を叩いて渡っています

時々、冗談を言いながら本当は慎重な安部さん。地道に手を動かし、目標の半分以下13分で完成させることができた。

サッカーW杯のテーマ曲を歌って上機嫌
サッカーW杯のテーマ曲を歌って上機嫌

ディレクター:
安部さん、このボール蹴りたくないですか?

安部友裕さん:
ロベルト・カルロスが蹴るとちょっと壊れると聞いて、”アベルト・カルロス”はどれくらい壊せるのか。ぜひ、お願いします

”エアレス”だから壊れても元通り

内田さんに案内してもらった部屋の名前は「ザ・コート」。なんと、会社の中にバスケットボールコートを備えた研究施設がある。

モルテン社内の研究施設「ザ・コート」
モルテン社内の研究施設「ザ・コート」

「えー!すごい!」と安部さん驚愕のバスケットボールコートで、出来立てほやほやのボールを蹴らせてもらった。

組み立てたばかりの”メード・イン・安部”のボールを蹴る
組み立てたばかりの”メード・イン・安部”のボールを蹴る

安部友裕さん:
このボール、感触すごい!硬いと思いきや蹴ったときは全然痛くないです

2022年シーズンまで野球一筋だった安部さん。実はサッカー大好き少年だったという。

安部友裕さん:
最初はサッカー選手になりたかったんです。小学校3年で本格的に野球を始めたんですけど、それまではサッカーがやりたくて

リフティングも華麗にこなす安部さん。その腕前がわかったところで、本気モードに切り替えた”アベルト・カルロス”の登場だ。今度は助走をつけ、ボールを破壊する勢いで思い切り蹴った。
すると…

安部さんが本気で蹴ったボール
安部さんが本気で蹴ったボール

本家のロベルト・カルロスには及ばないかもしれないが、組み立てたパネル1枚が外れた。でも大丈夫。はめ込むと再びボールは元の姿に。

外れたパネルをはめ込む安部さん
外れたパネルをはめ込む安部さん

モルテン スポーツ事業本部・内田潤さん:
これは空気が入っていないボールです。ボールは空気が抜けてしまうと結局ゴミになってしまうので、空気を入れないエアレスのボールを作りました

安部友裕さん:
壊れても元に戻せるし、最高ですね

世界の「体験格差」が開発の原動力

そもそも、なぜモルテンは組み立て式のボールを開発したのだろうか。

モルテン スポーツ事業本部・内田潤さん:
海外出張でカンボジアに行ったときに、子どもたちは楽しそうにサッカーをしているんですよ。だけど、現地でアテンドしてくれた人が「この子は結局大人になったらお父さんがやっているバイクの修理屋になるんだ」と。子どもの時から将来が決まっているんですね

海外出張でカンボジアを訪れた内田さん
海外出張でカンボジアを訪れた内田さん

モルテン スポーツ事業本部・内田潤さん:
私自身サッカーをやっていて、夢を通して成長することを体験しているので、この「体験格差」の問題をモルテンとしてどうにかできないかということが開発のきっかけになりました

ボールを組み立てるカンボジアの子どもたち
ボールを組み立てるカンボジアの子どもたち

安部友裕さん:
そこからスタートして、今の組み立て式サッカーボールができたということですね。野球は道具がいる、お金がかかる。サッカーって広場とボールがあればどこでも遊べるんですよ。そこがいい所なんですよね。野球人口が減っているとか、サッカー人口が日本で伸びているのはそれも要因だと思うので。このボール、いいですよ

組み立てたボールをお土産に…とはいかず、「ボールはここに置いて帰るんですね」と少し残念そうな安部さん。しかし、自分の夢を通して成長してきた安部さんだからこそ、共感できる思いがあったはず。モルテンの”ものづくりに対する熱意”を肌で感じられる取材だった。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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