福井県の南西部に位置する人口約8,200人のおおい町。名田庄地区では、毎年冬に特産のジネンジョの収穫が最盛期を迎える。このジネンジョに魅せられた女性が、町内にその味を楽しめる専門店を開いた。
長女と次女の3人で切り盛りする店舗に密着した。
「ジネンジョの味、絶やしてはいけない」
名田庄特産のジネンジョは、強い粘りと甘みが特徴で、県内外から買い求める客が訪れる。

新鮮なジネンジョの魅力を堪能できる店「自然薯とろろiheee(いへえ)」が2022年、おおい町内の複合商業施設内にオープンした。

オーナーは、名田庄出身の下野幸世さん(53)。熱々の麦飯にジネンジョをかけたどんぶりや、ジネンジョが練り込まれたそばを使った「とろろそば」、ジネンジョが入ったアイスクリームなど14品目を販売している。
店舗を手伝うのは、下野さんの長女・紗都己さん(27)と次女・夢穂さん(23)だ。親子3人で地元の特産の魅力を提供している。

下野幸世さん:
ジネンジョを食べられる店がどこにもない。こんなにおいしいものを皆さんに食べてもらいたいと思って店を開いた

下野さんが嫁いだ井上地区は、地域おこしのためにジネンジョ栽培に取り組んでいる。故人となった義理の父・隆春さんが発起人となり、地域の人たちと栽培方法などを試行錯誤した歴史があり、長年かけて特産化に成功した。

毎年、収穫期には家族総出で作業し、下野さんは、懸命に取り組む義理の父母の後ろ姿を見てきた。
下野幸世さん:
手伝っている時は大変な作業だし、やりたくないと思っていた。でも、せっかくお父さんたちが作り上げたジネンジョだし、守っていかないといけないという気持ちに変わってきて。絶対に絶やしてはいけない
地域の味を“次の世代”へ
下野さんは、自らも2021年からジネンジョ栽培を始めた。一から育てるのは初めてで、日々勉強中だと話す。
次女・夢穂さん:
去年掘った時に愛着が湧いて。自分たちで植えてお世話してやから、“べっぴんさん”の色白のジネンジョが取れるとうれしい

11月中旬、待ちに待った初収穫が始まった。
義母・テルノさん:
昔は栽培する人が10人くらいいたけど、だんだん高齢化して、今は寂しくなった。続けてくれるので、ありがたいと思っている

取れたてのジネンジョを店に運び、すぐに料理の仕込み作業を始めた。すりつぶすと、餅のように伸びる。かつおと昆布のだしで割ったとろろが店の売りだ。

下野幸世さん:
理想と現実は違うし、苦労することもあるけど、お客さんから「おいしかった」と言われると励みになる。ジネンジョのおいしさを分かってもらえると、また頑張ろうと思う

この専門店は原則2年間のチャレンジショップで、下野さんは、将来は地元の名田庄地区で店を開きたいと構想を膨らませる。
義理の父が開発し、今や地域の宝となったジネンジョ。下野さん親子はその味を次の世代へと受け継ごうと奮闘している。
(福井テレビ)