3年連続の定員割れなどで府立高校を廃校対象にするという「大阪府立学校条例」により、10年で17校が廃校へ。当時の橋下大阪府知事が「教育改革」として推し進めた改革の真価が、今再び問われている。

教職員団体が廃校に「待った」 約1万人分の反対署名

11月8日、大阪府教育委員会は、4年連続定員割れとなっている大阪市の平野高校、東大阪市のかわち野高校、堺市の美原高校の府立高校3校の入学者の募集を、2024年度で停止することを教育委員会会議で決定した。
3校はそれぞれ近くの高校に統合し、授業の特色などを継承する。

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会議の前日、大阪の教職員たちで作る団体は、3校の廃止反対を求める約1万人分の署名を教育委員会に提出。減りゆく公立高校に「待った」をかけた。

大阪の高校を守る会 岩佐朋三さん(平野高校教師):
(廃校対象に)名前が上がっている学校は、地域の“最後のとりで”ともいえる役割を果たしている学校だと思っているし、中学のときになかなか学校に行けなかった子が、高校に入って大いに力をつけて卒業していった。「平野高校だから卒業できた」と言ってくれた子も何人も見てきた。逆説的な言い方だが、定員が割れているからこそ、来られたという生徒もたくさんいたと思っている

平野高校の教師で団体に所属する岩佐朋三さんは、中学時代に勉強や人間関係などでつまずき、高校で「やり直したい」と考える子供たちが選ぶ学校が先んじて廃校対象となり、受け皿が減っている現状に危機感を抱き、条例の見直しを求めた。

議論の背景は、2011年。当時の橋下知事が、教育委員会と激論の末に推し進めた維新の「教育改革」だった。

橋下徹 大阪府知事(当時):
経営者のためになるような制度設計じゃなくて、保護者のためになるような制度設計にしてほしい。公立も私立も同じようにですね、だめなところは申し訳ないけれども、退場していただく

当時の橋下知事が、教育委員会と激論の末に推し進めた維新の「教育改革」。翌年、大阪府は3年連続で定員割れした改善の見込みのない府立高校を「閉校」、いわゆる「廃校」の検討対象にする「条例」を制定した。

教育委員会は再編整備計画に基づき統廃合を進め、今回の3校を含めて、10年間で府立高校(旧大阪市立高校含む)17校の廃校を決定した。

大阪府教育委員会 橋本正司教育長:
規模を確保して子供達がいろんな経験ができ、活力のある学校を維持するというのが再編整備の目的です。少子化になって子供が学校を選ぶ時代になってきている。志願数に満たない学校は、自校の取り組みを見つめ直して、魅力ある学校づくりをこれまで以上に厳しく問い直して、それを求めていってほしい

大阪府教育委員会は、再編整備を進めたとしても、“行く学校がなくなる”という事態には現時点でならないとの見解を示している。

廃校が決まった高校は

阪南市にある唯一の府立高校・泉鳥取高校は、3年連続の定員割れなどにより、2025年3月に廃校になることが決まった。

泉鳥取高校の教員は、「廃校決定後も130人の入学者がいた。公立高校は採算性が取れなくても存在する意味がある。廃校には今でも腹立たしい思い」と憤る。

大阪府内で唯一、公立高校も私立高校もない市となる阪南市。水野謙二市長は、2度に渡り高校の存続を求める要望書を大阪府に提出したが、決定を覆すことはできなかった。

大阪維新の会に所属する水野市長は9月、関西テレビの取材に対し、維新が行った「教育改革」は自治体の“街づくり”を否定したものだと批判した。

阪南市 水野謙二市長:
大都会を中心にして周辺の市町から高校がなくなってしまうようなルール(条例)なんです。(人口の)ベクトルが減っていってるときに、どんな風にして町が成り立つのか、そのときに府立高校がどういう役割を果たすのかという風に議論を切り替えていかないといけない。今のルールが時代に合っていない。少なくとも、今阪南市で起こっていることは我々は認めにくい

廃校と隣り合わせの条例に葛藤を抱えながら働いていた教師もいる。2016年から6年間、府立高校で生徒募集などの広報活動を担当していたAさんは、当時をこう振り返る。

廃校が決まった府立高校の教師Aさん:
中学生向けの説明会の前などは準備に追われ、自分の担当する授業の準備がおろそかになることもあった。本来なら、目の前の生徒に向き合いたいのに、なぜこんなに生徒集めに必死にならなくてはいけないのか

教師としての本来の仕事ができない。それでも、廃校にしないためには定員を満たす入学希望者を集めるしかなく、葛藤の日々が続いたという。

Aさんの勤務する学校は、その後3年連続定員割れとなり、廃校が決定した。
「このままでは大阪の府立高校が足りなくなってしまう。少子化の中で、学校をなくすのではなく、小規模学級を取り入れることなども検討すべきではないか」とAさんは話す。

大阪府教育委員会は“廃校”の検討に当たり、当該の高校に通う生徒の住む自治体の中学生の卒業者数の推移や進路希望調査をもとに、定員割れ改善の見込みがあるかどうかや、“廃校”になった場合の影響を事前にシミュレーションしている。

しかし、“廃校”となった場合に実際に進学を諦める生徒がいるのかどうかや、“廃校”後の高校への進学率や就職状況などの追跡調査は行っていない。

教育格差を専門とする龍谷大学の松岡亮二准教授は、行政は「学校がなくなることの具体的な影響」をデータで示し、必要に応じて対策を打つべきだと言う。

龍谷大学 社会学部社会学科 松岡亮二准教授:
廃校は大きなことで影響は多岐に渡り得るので、(廃校)前後で学校や地域がどう変わるのか、行政は廃校の前からデータをとって把握するべき。例えば、市内に高校がなくなったことで通学時間に時間がかかり、経済的な事情で必要なアルバイトができなくなったり、交通費が余計にかかるから進学を諦めたり通信制にしたといった生徒が何人ぐらいの規模感でいるのかなどを調べて、(影響があるなら)大阪府でも時限的にでも交通費を補てんするなど、援助制度を設けるという話なら(反対派とも)建設的な議論ができるのではないか。調べて、どんな層にも不利益がない結果が出たらそれを示せばいい。特に社会経済的に恵まれない家庭出身者や、学校がなくなる地域の生徒に対する短期的・長期的な影響を明らかにできるまっとうなデータを取らぬまま『既に決まったことだから』と進めるのであれば、強引な感じに見えてしまう  

松岡准教授は一方で、学校が残れば学ぶ機会が必ずしも維持できるとは限らず、中途退学者の数なども調査し、再編の判断材料にすべきだとも指摘する。

現在の再編整備計画は、10年間で15校程度という当初の計画を遂行し、2022年度をもって終了する。大阪府教育委員会は、来年度からも統廃合を進めるべく、新たな再編整備計画を前倒しして、2022年度中に策定する予定だ。

大阪府教育委員会の試算では、公立中学校の卒業者数は、今後10年で約1万人の減少が見込まれている。

少子化が進む中、全ての高校を存続させることは現実的ではない。
しかし、条例の下進む再編整備の中で、聞き逃している子供たちの声はないのだろうか。たとえ少人数でも、学ぶ機会が失われることはあってはならないはずだ。

(大阪府政担当記者 菊谷雅美)

記事 881 関西テレビ

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