受け継がれる喫茶店文化。長野県松本市の古い店舗を借り、若い男性が新たな店を始めて6年。前の店からの常連客やレトロ好きの女性たちに支持され、店は街のオアシスとなっている。
裏路地にあるレトロな喫茶店…60年来の常連客
女鳥羽川から上土通りを北へ。裏路地にレトロな雰囲気の喫茶店がある。店名は「かめのや」。

スタッフ:
おはようございます
常連客・沢田吉雄さん(85):
はい、おはよう
開店してすぐに、男性客が入ってきた。
常連客・沢田吉雄さん(85):
もう、60年来ここ(この席)。日課です

近くに住む沢田吉雄さん(85)。「指定席」につくと、もうスタッフがコーヒーを入れていた。
スタッフ:
お待たせしました

常連客・沢田吉雄さん(85):
(いつも注文されない?)そうそう、日課だから。こっちも日課で出すんじゃない?(笑)
スタッフ:
そうですね、来るだろうなと思うと入れ始めてるので
常連客・沢田吉雄さん(85):
こちらで出してくれれば何でもいいの。しょうゆでもなんでも出してくれれば(笑)

ここは元々、約60年続いた「翁堂茶房」という店だった。1年半ほど休業していたが、2016年、「かめのや」として生まれ変わった。オーナーは斉藤博久さん(34)だ。
「かめのや」を経営・斉藤博久さん:
ほっとしますよね。ずっと通ってらっしゃるので、私の前からなので、残せて良かったと
沢田さんは前の店からの常連。120年続いた老舗餅店の3代目として、忙しい日々を送ってきた。若いころからここで息抜きをしてきたと言う。
常連客・沢田吉雄さん(85):
それまでゆりかごから墓場まで、餅ついてまわったんだけど、誕生餅だ、葬式餅だって。忙しかったですよ
体力の限界から2013年に店を閉め、午前中はこうして店でゆっくり過ごす毎日だ。
いつものメンバーと会話が楽しい
ここにはコーヒー以外にも楽しみがある。
常連客・沢田吉雄さん(85):
(楽しみは)男の井戸端会議だ

日を改めて店を訪れると、沢田さんの周りに同世代の男性が集まってきた。
常連客・田口勝さん:
(前の)翁堂の時代に、結構みんな集まったんですよ。結局、またここへ里帰り
元市職員の田口勝さんは絵画教室も開く腕前。店に飾られた水彩画は、田口さんの作品だ。

こちらは、定年後に訪れたと言うイギリスの風景を描いた作品。
常連客・田口勝さん:
こういうお店に飾るのは、うれしいよ。クラシックな雰囲気と(合う)

常連客・田口勝さん:
松商、負けちゃったじゃん、サッカー
常連客:
松本国際は強いわ
よもやま話に情報交換。沢田さんたちの変わらぬ過ごし方だ。
常連客・田口勝さん:
規則とかそういうものはなくて、寄りたければ寄ればいいっていうね
常連客・沢田吉雄さん:
こいつなら、こいつの顔を見れば安心するだけでさ。いなければいないで心配してね。あの野郎、どうしてるかなって
常連客:
よかったですよ。(店を)引き継いでくれる人があったからね
こだわりのコーヒー、喫茶店らしいメニュー

店をよみがえらせた斉藤さん。大の喫茶店好きだ。奈良の実家の近くに喫茶店があり、子どもの頃から店を持つことに憧れていた。
「かめのや」を経営・斉藤博久さん:
地元に喫茶店があって(客の)おじいちゃんたちがしゃべってる感じとか、こっちにもしゃべりかけてくれる柔らかい感じがすごく好きで
大学を出て会社勤めをしたが、後悔したくないと26歳で店を開くことを決意。場所は、仕事で度々訪れ、気に入っていた松本にした。
今の店に決めた理由は…

「かめのや」を経営・斉藤博久さん:
中に入ると…庭がね、あれが見えちゃったので、すごいなと思って。絵画的なつくりになっていて、水が、動きが出るので、いいですよね。世界が変わるというか、そんな物件はないなと思って
喫茶店と言えばコーヒー。斉藤さんはこだわりのコーヒーを作り出している。

この日、用意したのはシャインマスカットと白ワイン。生豆を果汁とワインで漬け込み、発酵してから焙煎すると、香りを楽しむ新たなコーヒーになる。

「かめのや」を経営・斉藤博久さん:
コーヒーっていうのが地域性とか季節感がない商品なので、その辺をプラスしてあげるともっと面白いものができるんじゃないかなと思っているんです
これまでにリンゴ果汁やブランデーに漬け込んだコーヒーを作り、観光客向けのコーヒースタンドもオープンさせている。
挑戦を続ける一方で、オープン当初から提供しているのはシンプルなナポリタンに、ちょっと固めの手作りプリンやメロンフロートなどの懐かしいメニュー。喫茶店らしさも大切にしている。

「かめのや」を経営・斉藤博久さん:
ここは変わらない、変わらないっていうことを続けるということですね
レトロな雰囲気…ほっとする 女性に好評
今はレトロブーム。若者や女性が「喫茶店メニュー」を目当てにやってくる。
東京から(実家が松本市):
(知ったのは)インスタグラムですかね。ナポリタンの味がすごい濃くて。甘いのかな、おいしいです
伊那市から:
すごくレトロな雰囲気で、あまりこんなところないので、すごくいいなと思います
伊那市から:
娘(20歳)に、ここのプリンがおいしいと聞いて来ました

こちらの女性2人は、ナポリタンのあとデザートにお目当てのプリンを。
伊那市から:
レトロでかわいい!固いプリンがおいしいです
伊那市から:
手作り感があって
辺りが暗くなると、また常連客がやってきた。
常連客・能勢智子さん:
週に3回、コーヒーを飲んだり、ハイボールを飲んだり
隣でメガネ店を経営する能勢智子さん。仕事を終え、ほっと一息だ。
常連客・能勢智子さん:
(魅力は)店内のすてきなインテリアですとか、スタッフの皆さんがよくしてくださいます。気が抜けるというか、ほっとします

仕事を忘れ、気持ちをリセットして家路へ。
常連客・能勢智子さん:
じゃあすいません、ありがとうございます
受け継がれた喫茶店文化。店は昔も今も、さまざまな人を受け入れる「街のオアシス」だ。

「かめのや」を経営・斉藤博久さん:
来たときに、ほっとすると思うんですよね、こういう店って。自分一人じゃなくて、誰かとお店をつくったみたいな、おおらかさというか包容力が出るのかなと思っていまして、“帰ってくる場所”であればいいかな
(長野放送)