「日本が良くなることに少しでも貢献したい。こんなに素晴らしい国ないと思うから」
そう笑顔で語ってくれたのは、「日曜報道 THE PRIME」レギュラーコメンテーター・橋下徹さん(53)。鋭さの中に、どこか大きく包み込むような優しさのある人柄が魅力だ。
この記事の画像(7枚)タレント弁護士として活躍後、2008年に当時全国最年少で大阪府知事に就任、その後2011年には大阪市長を歴任し、信念を持って戦うその姿や、力強く、突き刺さるような橋下さんのメッセージには、炎のような迫力を感じた人も多いであろう。
前編では、現在コメンテーターとしてテレビに活躍の場を移している橋下さんに、その“強さ”と“発信力”は一体どのようにして生まれるのか聞いた。
(【後編】番組出演後には家族から“ダメ出し”ばかりと笑う橋下徹さんの、クレームとの向き合い方と今後の挑戦)
活躍の場にテレビを選んだ理由と強み
2015年5月大阪都構想の賛否を問う住民投票が行われ、結果は得票率差1%未満で否決。その後、橋下さんは政界から引退した。
ーー政治の世界を経験され、なぜ次の活躍の場にテレビを選んだのでしょうか?
正直、政治家を辞めた後、僕は弁護士中心になるのかなと思っていたところに、番組の方から声をかけていただいた。
政治家や元政治家を番組に出すって大変なことで、賛否が必ず出る立場だと思っているので、「なんであいつを出すんや!」というのはずっとついてまわる。それでも僕がやってきた政治経験を基に発言してくれというオファーがあったことは非常にありがたい話だし、嬉しかった。
ーーご自身のこれまでの政治経験をしっかりと活かせる場であると?
自分がやってきたことを、特に政治に物申すという場としては、最高の場じゃないですか。政治家時代もずっと言っていたけど、民主政治の両輪としては、政治とやっぱり報道だから。
政府与党をチェックするのは野党なんだけど、もう一つ民意が政治をチェックするというのが重要な要素。その間を媒介するメディアの存在はとても大事。
テレビは多くの人に言葉を届けることができるから、ある意味、政治を語らせてもらう場としては最高にありがたい場です。
ーー橋下さんは政治側から見たメディア、メディア側から見た政治、両方経験されている強みがあります。そこで何か気が付いたことはありますか?
政治を経験していなかったら、コメントってはっきり言って、やり易いですよ。もう無責任に文句ばっかり、感覚的なものばかり言っていればいいから。
でもやっぱり(政治を)経験すると、コメンテーターや学者もそうは言うけど、そんなこと十分分かっている。ただ、こういう法律と、こういう制度と、こういう状況でここまでしかできないんだよ、とかね。
僕も政治家時代は「そんな思いつきばっかり言ったってできるか!」っていつも思っていました。
「魔法のつえなんかない」アナログな発信力の原点
政治家を経験しているからこそ、“思いつき”ではない発言ができるという橋下さん。その中で意識していることはどんなことなのだろうか。
ーー橋下さんは発言される際にどのようなことを常に意識しているのでしょうか?
今僕が政治のコメントをするときに一番注意して、自分の役割だと思っているのは思いつきや、感情でコメントするのではなく、まず問題点は何か、それを解決するためにはどういうことをやったらよいのかということを、実際に政治家や官僚たちが動けるような“提案”をしていくことに一番重きを置いているんですけどね。
橋下さんによると大事なのは「実現可能性」という視点。政治を経験したからこそ持つことの出来ている視点だという。
実際に番組で感じる橋下さんの強さの一つ、それは圧倒的な知識量に基づいて議論をする姿。しかも、常に幅広い分野をカバーしている。一体どのように準備をし、本番で発揮しているのか。
橋下さんから出た言葉は、「魔法のつえなんかない」だった。
「これは、努力しかないね。とにかく新聞を読み、雑誌を読み、動画を見ては、それらに関連する書物を読む。何か魔法のつえがあるわけではないです。特に新聞を読むことは学生の時からずっと続けています」
ただ新聞を読み続けても、誰もが橋下さんのようになれるわけではない。きっと独自の視点の作り方があるはずだ。
「まず自分の意見が言えるように勉強、情報収集をしている。それは自分の意見、持論をちゃんと言えることに重きを置いているから。
新聞なんかも、デジタルが重要だと言いながらも、きょうも控室で(番組スタッフから)『アナログですね』って言われたんだけど、新聞の気になるところをちぎって、クリアファイルに入れる。それは単なる事実報道のところではなくて、いろんな有識者のオピニオンとかね、それからメディアの社説とか。
『そうは言っているけど、ここはこうちゃうのか』とかいうのをボールペンで書いて、必ず常にそこに問題点の指摘と自分の意見、持論を書いてっていうのを社会人になってから、未だにやっている」
確かに橋下さんの読んでいる新聞を見ると、至る所に書き込みがあるのが分かる。
基本的に毎日欠かさず、忙しい仕事の合間も、新聞、雑誌、本を読み、情報収集を行っているという橋下さん。
最近、家族から呆れられるこんなエピソードがあったという。
「ちょうど昨日ね、うちの次女が数年前に強烈な腹痛で救急車呼んだときに、娘が『パパの様子を薄目開けて見ていたら、救急車の中でも新聞読んでた』って言われてね。
『いやさすがに娘が運ばれているときに、しかも救急隊員の前で新聞なんて読めへんわ!』って言ったら、娘は『いや、パパ黒いカバンの中から取り出して、読んでた』とか言って。
妻からは『やっぱりパパどこかおかしいよね』と(笑)。ちょうどその後また仕事で東京行くから、もしかしたら癖でそうやっていたのかもしれないけど、それくらい徹底してやらないとね」
ーー情報収集の仕方も橋下さん流の方法があるのでしょうか?
あえて他の人と違うところは、単なる情報収集はやらない。僕は解説する立場ではないと思うから。解説するよりも、多くの人が気が付かないと思われるような問題点、自分なりの問題点、それを解決するためにはどうしたらよいのか?というところに力点を置いた情報収集をやっている。
ーーその上で橋下さんの独特の持論はどのようにして作られるのでしょうか?
ある程度の情報が蓄積しないと、論点の設定とか持論を組み立てられない。若い頃から新聞を読みながら、そこに感想ではなく「この人こう言うけど、いやこうじゃないのか」とか意見を必ず書いていた。
やはり努力しながら積み重ねていくと、どこかの時点でいろんな知識が繋がり始めて、そうすると何を言われても「それはこうじゃないか」と段々言えるようになる。ただそれが行き過ぎると屁理屈になるから、詭弁とかには気を付けないといけないけどね。
自らの発言の役割について実現可能性のある“提案”であり、そのために絶え間なく橋下流の情報収集を欠かさないと話した橋下さん。
後編では家族からの“ダメ出し”の裏側や、これからの挑戦について聞いた。
(【後編】番組出演後には家族から“ダメ出し”ばかりと笑う橋下徹さんの、クレームとの向き合い方と今後の挑戦)
(インタビュー・執筆:フジテレビアナウンサー木下康太郎)