誰もがモータースポーツを楽しめるように、レース観戦のバリアフリー化に向け、今さまざまな取り組みが進んでいる。

挑戦!モータースポーツ観戦をバリアフリー化 手話で強弱も伝える

フジテレビ・竹下陽平チーフアナウンサー:
このコースの最高スピードが出るところ、バックストレート。ここからヘアピンカーブに向けては、フルブレーキングになっていきます。ここからブレーキング

アナウンサーのレース実況に合わせ、ろう者が手話で表現する。

実況する竹下陽平アナウンサー(左)と、手話実況に挑戦する早瀬憲太郎さん(右)
実況する竹下陽平アナウンサー(左)と、手話実況に挑戦する早瀬憲太郎さん(右)
この記事の画像(11枚)
手話実況に挑戦する 早瀬憲太郎さん
手話実況に挑戦する 早瀬憲太郎さん

手話実況に挑戦する 早瀬憲太郎さん:
わたしもろう者のみんなも実況を聞いたことがない。(手話実況は)今までにない新しいスポーツの楽しみ方

モータースポーツ観戦のバリアフリー化への挑戦は、10月15・16日の2日間、岡山県美作市の「岡山国際サーキット」で行われる。市販車を改造したマシンで勝敗を争う「スーパー耐久」レースで実施される予定だ。
これは東京の一般財団法人「トヨタ・モビリティ基金」の助成を受けて行われるもので、誰もがモータースポーツを楽しめることを目指す。

一般財団法人トヨタ・モビリティ基金 石川貴規 事務局長:
障害がある方と、一見すると遠いところにあると思えるモータースポーツを、掛け合わせて取り組みを推進しています。誰もが移動を超えて、自分のやりたいことに挑戦できる社会の実現に、少しでもお役に立つことができればと考えています

国の内外の応募から採択されたのは17のチームで、手話実況などを提案したOHK(岡山放送)のアイデアも、その1つだ。

そして、手話の実況を実現するために、東京・フジテレビで初めて勉強会が開催された。オリンピックやF1の実況で経験豊富な、竹下陽平アナウンサーが講師を務める。

フジテレビ・竹下陽平チーフアナウンサー:
臨場感を伝える方法は、声の大きい小さい。
(小さい声で)「お兄ちゃんは強かった」(大きい声で)「お兄ちゃんは強かった!」
声の大きさの違い。声の大きさは、だいたい5段階に分けている

手話実況に挑戦する 早瀬憲太郎さん:
そういった時、わたしだったら手話でこうする。
(大きく力強い動きで)「本当にお兄ちゃんは強かった~!」

手話実況に挑戦する早瀬憲太郎さんは、ろう者のオリンピック「デフリンピック」に自転車競技で出場した、横浜市のアスリート。
手話だからこそ伝わるスポーツの魅力があるという。

手話実況に挑戦する 早瀬憲太郎さん:
字幕を見るだけでは気持ちが伝わってこない。強く言ったのか、弱く言ったのか、わからない

手話での実況は、アナウンサーの音声を手話通訳し、それを見た早瀬さんが意味をつかみ、自分が感じたレースの様子と組み合わせ、より伝わりやすい表現に変え届ける。
早瀬さんはさらに、声の強弱や緩急を、竹下アナの“ある様子”からも読み取っていた。

手話実況に挑戦する 早瀬憲太郎さん:
竹下アナの顔を見ていた。アナウンサーは声が仕事だが、声プラス表情、体の動き方、体全体を使っている

フジテレビ・竹下陽平チーフアナウンサー:
今まで字幕でしかわからなかったものが、テンションを変えることによって、もっとスポーツが魅力的に伝わるとおっしゃっていたのを聞いて、これは音のある世界も、音のない世界も同じなんだということを知ることができました

視覚障害も対象 “備前焼”で頭の中にコースを描く

モータースポーツ観戦のバリアフリー化は、聴覚障害だけでなく、視覚障害も対象だ。
この日、サーキット場でしゃがみ込んで地面を触る、2人の男性がいた。

備前焼作家・藤森信太郎さん:
多少凹凸があって、公道とは違いますね

国立民族学博物館・広瀬浩二郎 准教授:
意外にでこぼこしている。歩いていると全然わからなかったが、触るとわかった

こう語るのは、大阪の国立民族学博物館で准教授を務める、全盲の広瀬浩二郎さん。

接触、触ることを通じ、文化を理解しようという“触文化論”が専門。今回、備前焼作家と協力してコースの縮尺模型を製作し、サーキットを訪れた観戦者に実際に触ってもらうことで、コースをより具体的にイメージできる体験を提供する。

岡山放送の篠田キャスターが、広瀬さんの指をつかみ、コースの地図をなぞりながら説明する。

岡山放送・篠田吉央キャスター:
ここで長いストレートがあります。ここで最高速度になるそうです。またここから小刻みにコーナーがある

国立民族学博物館・広瀬浩二郎 准教授:
複雑ですね

岡山放送・篠田吉央キャスター:
13のコーナーがあるそうです

サーキットのカーブや勾配も再現し、視覚障害者の頭の中にコースを描いてもらう。
そのために、岡山県の特産品・備前焼は最適だと、広瀬さんは考えている。

国立民族学博物館・広瀬浩二郎 准教授:
もちろん色はわからないけど、手触りは素晴らしいですね

備前焼作家・藤森信太郎さん:
うわぐすりをかけずに土だけで焼くので、ザラザラしている感じが備前焼の特徴ですね

特に手触り感にはこだわり、通常の土に粗い土を混ぜ、ざらざらした路面を表現する。

国立民族学博物館・広瀬浩二郎 准教授:
お~こんな感じですよね。サーキットのざら・ぼこの感じが出ている

国立民族学博物館・広瀬浩二郎 准教授:
モータースポーツは、見て楽しむものと思われがちだが、触覚の要素が加わると、ユニバーサルになり、バリアを取り除くだけでなく、普段目で楽しんでいる人たちの楽しみ方も広がっている

進む様々な取り組み 二次元バーコードで遠隔手話通訳も

このほかにもOHKでは、美作市の湯郷温泉にある旅館と連携し、二次元バーコードを読み取ると離れた場所にいる手話通訳者と、テレビ電話で結ぶことができる「遠隔手話通訳」を設置する予定。
宿泊するろう者に、湯郷温泉の魅力など、より多くの情報を届ける。

ゆのごう美春閣・永山久徳 社長:
ほかのお客さまと全く同じ情報を、普通にお伝えできるのはありがたい

健常者も障害者もともに楽しめるモータースポーツ。情報のバリアフリー化へ、また1つ大きな一歩を踏み出す。

(岡山放送)

岡山放送
岡山放送

岡山・香川の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。