美しい能登の海岸を走る、馬。奥能登・石川県珠洲市では、馬と海に入る体験が人気を集めている。
この体験を企画・運営しているのは、金沢市出身でJRA(日本中央競馬会)の元調教師・角居勝彦(すみい・かつひこ)さんだ。天皇賞優勝の経験を持つ角居さんが、調教師を引退後に、故郷の石川で描いた夢を追った。

自然豊かな奥能登だからこそできる 馬たちとの共存

石川県珠洲市蛸島町(たこじままち)。ここで信号待ちをしているのは…

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馬だ!

石川テレビ取材班:
公道を歩いても、大丈夫なんですか?

珠洲市内を馬と移動する角居さん
珠洲市内を馬と移動する角居さん

元調教師 角居勝彦さん:
一応、馬は自転車扱いで、本当は車道歩かなきゃいけないんですけど、いま歩いていた道は自転車OKの歩道。軽車両になるので、ヘルメットは被らないといけないです

金沢市出身の角居さん(58)は、日本中央競馬会の元調教師。2008年秋の天皇賞を制したウオッカなど、数多くの名馬を育てたレジェンドだ。

2008年天皇杯で武豊騎手と並ぶ角居さん(左)(画像:JRA提供)
2008年天皇杯で武豊騎手と並ぶ角居さん(左)(画像:JRA提供)

元調教師 角居勝彦さん:
まあまあ…私が活躍したんじゃなくて馬が活躍したんですけどね。ははは

役目を“失った”馬に終のすみかを…“一緒にいればそれでいい”ロケーション

角居さんは2021年に調教師を引退し、珠洲市で、ある取り組みを始めた。

元調教師 角居勝彦さん:
この子は競走馬から引退して「乗用馬に」っていうことで、トレーニングをしていたんですけど、トレーニング中にちょっと軽い足の骨折があって…

角居さんのもとに集まっているのは、競走馬を引退し、競走馬としての役目を失った馬。こうした馬の「終のすみか」を作る取り組みを進めているのだ。

元調教師 角居勝彦さん:
この子たちは役割がなくなっちゃたので、ここにいる。「乗馬」とまでは言わないけど、「馬遊び」とか、できるようになればいいなと思って…

馬たちの新たな役割として始めたのは、観光客などが馬に乗り珠洲のロケーションを楽しむ体験だ。

石川テレビ取材班:
すごい、気持ちいいですね!

馬に乗って眺める珠洲の海は、一段と絶景に感じる。

のんびり馬に揺られ、潮風も心地いい!(乗馬した目線カメラ)
のんびり馬に揺られ、潮風も心地いい!(乗馬した目線カメラ)

元調教師 角居勝彦さん:
この子は乗馬クラブで背中を傷めてしまって、並足で歩くしか役割はなくなったんです。
でも、ロケーションがこれだけいいと、馬と一緒にいられればそれでいいという人がけっこういるので、この子たちの生きる道ができたって思います

そして、人を乗せ終わった馬は…

石川テレビ取材班:
草を食べてるんですね!?

実はこれも、馬に与えられた新しい役割だ。

元調教師 角居勝彦さん:
草刈りが、どんどん終わっていってますね。この子たちがご飯として食べてくれるので、この辺はキレイになってます

馬が1日に食べる草の量は、約30キロ。依頼を受け、耕作放棄地などの草を食べる「草刈り」も行っているのだ。

元調教師 角居勝彦さん:
高齢化が進んで、土地を手放さなきゃいけないっていう方がたくさんいます。でも、土地がジャングルみたいになっちゃうと、新規で来る若い人たちもなかなかスタートできない。
今後、珠洲にやってくる人のためにもなったらいいなと思って

けがした馬は肉になる世界…「恩返ししたい」元調教師の思い

角居さんの取り組みの裏には、調教師時代のある思いがある。

元調教師 角居勝彦さん:
競走馬を引退すると、地方競馬へいくか、乗用馬にっていう転用の道が得られる。でも、大きなけがをしていたりした馬は、基本的には肉になってしまう世界なんです

競走馬は、2歳でデビューし、1年の間に1勝をあげないと淘汰されてしまう厳しい世界にいる。JRAによると、競走馬を引退する馬の数は、年間5000頭以上にのぼる。

(画像提供:JRA)
(画像提供:JRA)

その後、地方競馬に行く馬や、乗馬クラブで乗用馬になる馬もいるが、けがなどで行き先がなく、多くの馬が処分されている現状があるのだ。

元調教師 角居勝彦さん:
僕は馬たちのおかげで、たくさんの名誉とたくさんのお金をいただいた。なにか恩返ししなきゃいけないと思って

引退した馬の居場所をつくるには、馬によって「継続的にお金を稼げる仕組み作り」が必要だ。
そこで角居さんは、馬の魅力で人を呼び込もうと考えたのだ。

馬遊びを体験した人:
いやもう最高ですよ!

元調教師 角居勝彦さん:
また、新しい遊び方をつくっていきたいなと思っているんです。例えば、冬に新雪の中を歩くのも、楽しいと思うんです

角居さんは、馬の能力や性格に合わせ、地域のためになる役割を模索している。

馬たちに恩返しをしたいと話す角居さん
馬たちに恩返しをしたいと話す角居さん

元調教師 角居勝彦さん:
最初は物珍しいからいいけど、本当に「馬がいてほしい」のか…。ちゃんと地元の方に喜んでもらえる、地元の方が潤う活動にならないと意味がない。
「馬の助かる道」を増やせる可能性はあるので、ここで成功例をつくるのが、一番の目標です

故郷で馬たちと共に歩み続ける角居さん
故郷で馬たちと共に歩み続ける角居さん

角居さんのもとには、いま3頭の馬がいて、近いうちに30頭まで増やす予定だという。調教師を引退しても、消えない馬への思いを胸に、角居さんは馬と地域が輝く取り組みを目指す。

(石川テレビ)

石川テレビ
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