台風18号は、今週末、日本の南の海上を東寄りに進む見込みだが、9月は7つの台風が発生している。先週の台風15号では、記録的な大雨により静岡県で道路の冠水や大規模断水など大きな被害をもたらした。

こうした水害への備えは必要だが、交通インフラとして欠かせない地下鉄が浸水する可能性を考えたことはあるだろうか。

例えば中国・河南省で2021年7月、大雨の影響で地下鉄が浸水。車両に残された乗客の肩付近に水が到達する様子がみられた。アメリカ・ニューヨークでも2021年9月、ハリケーンの影響で地下鉄に濁流のような水が流れ込む映像が撮影された。

アメリカ・ニューヨークの地下鉄(2021年9月)
アメリカ・ニューヨークの地下鉄(2021年9月)
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日本の首都圏には多くの河川があり、地下鉄も網の目のようにはりめぐらされている。近年、記録的な豪雨やゲリラ豪雨になることが多くなっているが、大規模な河川が氾濫するなどしたら駅はどう対処するのだろう。

東京都を中心とした地下鉄「東京メトロ」を運営する、東京地下鉄株式会社に聞いた対応を再構成し、改めて紹介したい。

出入口や換気口にも水害対策

――東京メトロはどんな水害対策をしている?

お客様及び社員の生命確保を最優先とするほか、首都の都市機能低下を抑え、早期の運転再開ができるよう被害軽減を図ることを目的とし、国土交通省の「浸水ナビ」や東京都洪水ハザードマップから浸水エリアを想定し、水害対策を実施しております。

東京メトロの営業概要(東京メトロの資料より)
東京メトロの営業概要(東京メトロの資料より)

――駅周辺に備えている設備とその役割を教えて。

駅の出入口には「止水板」「防水扉」を設置しています。止水板は水の流れをせき止めるもの、防水扉は出入口をふさいで浸水を防ぐものです。海抜ゼロメートル地帯などでは、出入口を歩道よりも高い場所に設置しています。

止水板(左)と防水扉(画像提供:東京地下鉄株式会社)
止水板(左)と防水扉(画像提供:東京地下鉄株式会社)

歩道には地下鉄の換気口があり、ここには「浸水防止機」を設置しています。道路の水が浸入することを防ぐもので、内部からフタをするイメージです。駅から遠隔操作で作動させることもできますし、雨量感知器によって自動でも作動します。

浸水防止機。換気口に内部からフタをする(画像提供:東京地下鉄株式会社)
浸水防止機。換気口に内部からフタをする(画像提供:東京地下鉄株式会社)

トンネルにも、坑口(地上に出る開口部分)に「防水ゲート」「防水壁」を設置しています。防水ゲートは水の侵入を防ぐもの、防水壁は周辺の水を流れ込ませないためのものです。坑口の場所はどうしても周辺より低くなるのでカバーしています。

トンネル内の防水ゲート。浸水が広がることを防ぐ(画像提供:東京地下鉄株式会社)
トンネル内の防水ゲート。浸水が広がることを防ぐ(画像提供:東京地下鉄株式会社)

防水ゲートはトンネルの内部にもあります。こちらは浸水が発生した場合、トンネルを通じて広がることを防ぐものです。総合指令所から遠隔操作で作動させることができます。

1000年に1度の降雨による荒川氾濫を想定

――どのくらいの水害を想定して対策している?

2011年に中央防災会議の「大規模水害対策に関する専門調査会」最終報告が公表され、想定最大規模(1000年に1回に発生する規模)の降雨により、荒川が氾濫した場合(荒川流域の72時間総雨量が632mm)弊社路線地下部分の広範囲にて、浸水または冠水による被害を受けることが明らかとなりました。この荒川氾濫を最大の水害リスクとして認識しています。

荒川水系荒川 洪水浸水想定区域図(出典:国土交通省関東地方整備局)
荒川水系荒川 洪水浸水想定区域図(出典:国土交通省関東地方整備局)

なお、2022年度末までに、当社施設における浸水防止対策が必要な出入口および連絡口のうち、約7割の対策が完了予定です。2027年度には全箇所の対策が完了予定です。


――荒川氾濫が発生したときはどう対処する?

荒川氾濫を想定した有事の際には、以下のような対策を実施します。

1.気象情報などから荒川氾濫の危険性が高くなると判断した場合は、あらかじめ全線で列車の運行、駅の営業を休止し、お客様の安全を最優先に避難誘導を行い、完全にお客様がいない状態とします。それ以降は駅や重要施設の浸水防止処理を先行して行うなど、車両・施設の保全の対応に特化します。
2.車両退避とそれに続く防水ゲート閉扉、社員退避は、荒川岩淵観測所及び埼玉県内の観測所における水位情報(予測情報を含む)などから状況を総合的に判断し、実施します。
3.被害が発生しなかった場合でも、荒川岩淵観測所での水位の下降又は氾濫危険情報が解除されたことが確認されてから運転再開を判断します。


――河川氾濫の可能性はどのように把握している?

ゲリラ豪雨の可能性もありますので、一般的な河川は気象情報を参考にしつつ、現場駅員の判断となります。当社のお茶の水駅と中野富士見町駅は駅近くに河川が流れていることもあり、水位計を設置して推移を把握しております。

水位計も設置している場所もある(東京メトロの資料より)
水位計も設置している場所もある(東京メトロの資料より)

荒川は台風などの災害が発生すると、河川管理を行う「荒川下流河川事務所」が氾濫可能性の情報発信をします。そちらを参考にしつつ、行政機関とも連絡を取り合い情報収集をします。

実際は、水が到達する前に駅構内や列車内にお客様はいない状況

――地下鉄が浸水した場合はどうなる?

浸水があった駅は営業再開に時間を要することを想定しています。車両は大型台風の接近などにより荒川氾濫が発生する恐れがある場合、社内規定及びマニュアルに基づき、全ての車両を浸水想定区域外に退避させることとしているため、浸水時に列車が走行していることはありません。ただ、運転再開までには時間を要するものと想定しております。


――乗客はどのように避難させる?

水防法の規定に基づき策定した「洪水危機時の避難確保・浸水防止計画」(浸水想定区域内にあるすべての地下駅(当社管理駅)にて策定済み)に基づき、駅構内への浸水が発生、または発生する恐れがある場合は、駅社員の誘導によりお客様を地上部の安全な箇所へご案内いたします。荒川が決壊する可能性があるほどの台風などが予想された場合は、少なくとも24時間前には計画運休を行うため、実際は水が到達する前に駅構内や列車内にお客様はいない状況となります。

ゲリラ豪雨などで中小河川が急激に増水するような場合でも、避難確保のため可能な限り運行は続けつつ、浸水が予想される区間は事前に一時運休し、区間内にある車両も退避させることを想定しています。この場合も状況に応じて、浸水が発生する前にお客様に駅構内や列車内から退避いただくよう避難誘導します。地下で被害に遭われないことを基本としています。

駅の出入口も閉鎖される(画像提供:東京地下鉄株式会社)
駅の出入口も閉鎖される(画像提供:東京地下鉄株式会社)

地下鉄の排水方法は?

――地下鉄に流れ込んだ水はどう排水する?

ゲリラ豪雨などの小規模な浸水は、ずい道(トンネル)内に設置された排水ポンプにより排水を行います。一方、荒川氾濫などの大規模水害によりずい道内に浸水した場合は、ポンプによる排水ができないことから、協定を締結している協力会社または自治体が所有する大規模なポンプを用いて排水を行います。復旧までの見込みは規模にもよるために一概に言えませんが、大規模な浸水であれば、かなりの時間を要することを想定しております。


――乗客として水害に遭遇したときの注意点は?

駅構内や列車内で大規模な浸水に遭遇する可能性は生じ得ないものと想定しておりますが、発生する恐れがある段階での避難誘導時には、当社社員の指示に従っていただき、決して慌てることなく行動していただければと思います。



突然の豪雨などに直面すると慌ててしまいがちだが、東京メトロの場合は、駅周辺の備えや事前の計画運休により、乗客が地下鉄や電車内で浸水に遭遇しないことを前提とした対策をしているとのことだった。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。