岸田首相は19日から22日にかけてアメリカ・ニューヨークを訪問する。新型コロナの影響で、3年ぶりに対面での出席となる国連総会で演説する予定だ。長期化するロシアによるウクライナ侵攻などで国際秩序の根幹が脅かされている中、国連改革などで日本の取り組みを発信し、国際社会への貢献をアピールしたい考えだ。
岸田首相は「ロシアによるウクライナ侵略をはじめ、国連は試練のときを迎えている。国連がより大きな役割を果たせるよう積極的に働きかけを行っていく」(14日)と国連総会出席への意気込みを語っており、どのような成果を残せるか注目される。
岸田首相のライフワーク“核軍縮”で議論主導できるか
国連総会にあわせて岸田首相は「包括的核実験禁止条約」(=CTBT)の会合を主催する予定だ。CTBTとは地下から宇宙まであらゆる場所での核兵器の実験的爆発などを禁止する条約だ。しかし、アメリカ、中国、インド、イランなどの条約批准の見通しが立っておらず、発効に至っていない。
条約発効への機運を高めるため、これまで外相レベルで会合を重ねてきたが、岸田首相が8月に訪米した際に「CTBTの議論を今一度呼び戻す」と宣言し、今回初めて首脳レベルに格上げする形だ。

政府関係者は「核軍縮・不拡散は総理のライフワークだ」「灯を絶やさないようにできることは何でもやる」などと意気込むが、ウクライナ情勢の緊迫が続く中、条約発効への道のりは厳しい状況だとの見方も強い。各国首脳が集まる国際会議の場で、被爆地・広島出身の岸田首相が核軍縮の議論をどう主導していくのか注目される。
トップ会談でウクライナ情勢打開は
訪米中には各国首脳とのバイ会談(2国間の会談)も調整されている。首相周辺は「安全保障上重要となる各国の首脳と、個別の対話の時間を持つことが必要だ」と話していて、岸田首相の得意分野とされる外交の舞台で存在感を発揮したい考えだ。複数の外交関係者によると、アメリカのバイデン大統領のほか、イギリス、ドイツ、カナダなどの主要国に加え、トルコ、フィンランド、フィリピンなどとの個別の会談や協議が調整されている。

相次ぎ予定されるトップ会談の念頭にあるのはロシアだ。ロシアによるウクライナ侵攻後、フィンランドは、従来の「軍事的中立」の立場から大きく舵を切り、北大西洋条約機構(=NATO)への加盟手続きに入っているほか、トルコはロシアとウクライナとの停戦協議を仲介する立場にある。岸田首相としては、国連総会の大きなテーマであるウクライナ情勢の打開に向けた協議を各国と深めたい考えだ。
さらに、イランやパキスタンといったCTBTを批准していない国との個別会談も検討している。岸田首相は「イラン核合意の遵守に向けた対話の進展に向けて貢献していく」(8月の訪米時)との決意で、首相自身が主催するCTBT首脳級会合に加え、個別にトップ会談を行うことで「核軍縮・不拡散」の機運を着実に高めたい考えだ。

守勢の岸田首相 得意の外交で存在感発揮は
複数の政府関係者によると、アメリカ訪問の最終日には、ニューヨーク証券取引所での講演を調整しているという。温室効果ガスを排出しないエネルギーに転換することによる成長戦略(=GX)や、デジタル技術活用による新たなビジネスモデル創出の促進(=DX)、スタートアップ企業支援など岸田政権の取り組みをアピールし、日本がこれからも成長できるということを海外の投資家に発信するものとみられる。
さらに寿司、和牛、日本酒などでニューヨークの政財界の要人に「おもてなし」を行うことで、日本食の魅力を世界に発信するイベントも予定されている。新型コロナの水際対策が緩和される中、インバウンド消費回復の呼び水にしたい狙いがある。
首相就任からまもなく1年となる中、旧統一教会を巡る問題や世論を二分する国葬などで内閣支持率は下落傾向にある。首相周辺は「発信はしているが、総理の掲げる『新しい資本主義』がどういうものか、いまひとつ浸透していないことが課題だ」との認識を示した。10月には臨時国会を控え、野党の厳しい追及が予想される中、得意分野とされる外交でどこまで存在感を示せるか、岸田政権の今後を占う意味でも、重要な舞台となる。
(執筆:フジテレビ政治部・亀岡晃伸)