台風シーズンで大雨による災害が心配される中、全国で770万人以上いるとされているのが、高齢者や身体が不自由な人たち、いわゆる「災害弱者」だ。危険が迫っていても避難所に行くことができない、災害弱者の人たちが置かれている現実を取材した。
11年前の紀伊半島大水害 足の不自由な友は自宅と濁流に
これは自治体のアンケートに寄せられた、重い病気を抱えた人たちの切実な声だ。
災害弱者のアンケート:
ダメな時は死ぬしかないと思っています。災害が起こっても無理に生き延びたいとは思わない
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彼らが自力で避難することは簡単なことではない。
難病患者:
この人工呼吸器が付いた時点で停電は駄目でしょ。限られている時間では、もしかしたら生き延びられないだろう
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2011年9月、台風による記録的な豪雨が紀伊半島を襲った「紀伊半島大水害」。和歌山県新宮市では2500棟以上の住宅が浸水し、14人が犠牲となった。被害を受けたのは多くの“災害弱者”たちだった。
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9月4日、和歌山県新宮市で紀伊半島大水害犠牲者追悼式が行われた。
新宮市で飲食店を営む竹田愛子さん(81)。一緒に働いていた下地千代子さん(当時75)を水害で失った。
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竹田愛子さん:
この方が下地さんです。足を悪くしてみんなで見舞いに行ったんです。大きな声で笑う人やったよ
当時、下地さんは自宅がある高台まで水が押し寄せたため、夫と共に裏山へ避難しようとした。しかし、足が不自由だったため斜面を登ることができず、1人で引き返し水没した自宅で亡くなった。
![足が不自由だったため避難できず、水没した自宅で亡くなった](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/7/2/700mw/img_72f19914f891ca8ac4a2320fb0b5e5f4179539.jpg)
竹田愛子さん:
あそこくらいから上がれるようになっているから、山の中歩くっていったって雨の土砂降りの中やからきつかったんだろう。みんなによくしてくれた人やから、思い出すと寂しいわ
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避難したくてもできない過酷な現実。災害弱者の中には、状況がさらに深刻な人たちもいる。
人工呼吸器が必要な難病患者「いざという時は他の人優先して」
大阪府寝屋川市は、寝たきりの患者約50人を対象に、災害時の避難行動について尋ねるアンケート調査を実施。調査の結果「避難しない」「分からない」と回答した人は、あわせて8割にのぼることが分かった。
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寝屋川市で夫と2人で暮らす、中井ハルノさん(75)。3年前に全身の筋肉が徐々に動かなくなる難病ALSと診断された。症状が進行し、口からは水分しか取れなくなったため、胃に穴を空けてチューブから栄養をとる。生きていくためには人工呼吸器が必要だ。
中井ハルノさん:
台風とか嫌だ
ヘルパー:
寝屋川は水害もあるからね。午前中に行った家で土のうを作っていました。あそこの家、何年か前に浸かっていたからね
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言語聴覚士:
発音練習していきます。挨拶を少ししていきます。おはよう、おはよう、こんにちは、こんにちは、こんばんは、こんばんは
これは筋肉を弱らせないよう、声を出して行うリハビリ。毎日、これが欠かせない。
中井ハルノさん:
人と接したら楽しいですよ。1人でいたらついつい、いらんことを考えてしまう
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寝屋川市のアンケートに、ハルノさんは「災害が起きたら、だめな時は死ぬしかない」と答えていた。医療機器の運搬は難しく、避難所に行けたとしても医療のサポートはない。自分よりも他の人を優先して助けてほしいと、避難を諦めるような気持ちになっていた。
中井ハルノさんの夫:
ここ全体が災害で避難するようになるなら最後になる。最後というのはみんな、健常者よりは後に行かないといけない。僕はそう思うけどね、本人も納得しています。結局、元には戻らないし
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災害弱者を取り残さない…病院への避難を
避難せず自宅にとどまることが、どれだけ危険な選択肢か、寝屋川市保健福祉センターの担当者には分かっていた。
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ハルノさんの住む集合住宅は河川のすぐ近く。大雨などで川が氾濫した場合、5メートルから10メートルの浸水が想定されている。部屋まで水が来なくても、停電が起きれば命綱の人工呼吸器が止まってしまう。
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災害弱者を支えるため、寝屋川市は2022年に新たな取り組みを始めた。台風が来ると予想される時などに、避難所ではなく病院に避難してもらおうというのだ。
病院での滞在費や移動にかかる介護タクシー代など、1日2万円、最大2週間分の費用を市が補助する。
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寝屋川市の職員:
ハルノさんが「災害になったら私より若い人、元気な人」って言ったから、涙が出て。いやいや、そんなことはない。病院でお元気で過ごしてもらって、少しでも自宅と同じように過ごせるよう一緒に考えますので
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いざという時、スムーズに避難できるのか。市は避難訓練を実施した。
介護タクシー:
しんどい?
中井ハルノさん:
大丈夫です
介護タクシー業者:
ちょっとドキドキするね。ごめんね。いち、にの、さん
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負担をかけないよう、できるだけ体をまっすぐにして運ぶ。室内から外へ向かうことは簡単ではない。持ち出した人工呼吸器のケーブルが絡まりそうになる場面も。
介護タクシー業者:
ちょっと引っ張ってないかな。お父さん、酸素引っ張っている
呼吸器は命を守る最後の砦。細心の注意を払って扱う。
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介護タクシー業者:
お母さん、足元寒くない?
大きなトラブルもなく無事、病院に到着。自宅からわずか10分で避難することができた。
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中井ハルノさんの夫:
ありがとうございました
中井ハルノさん:
安心できました。協力してもらえたらすごく助かります
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9月6日、台風のニュースをテレビが伝えていた。
TVの音声:
大型で強い台風11号は島根県沖の日本海で北上を続けていて…
台風で1人が死亡したことが伝えられた。ハルノさん夫妻には、他人事とは思えなかった。
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いつか必ずやってくる災害。懸命に生きようとする人たちを取り残さないために、どうすればいいのか…模索が続く。
(関西テレビ「報道ランナー」2022年9月12日放送)