ママ友による母親への支配はあったのか、なかったのか。福岡県篠栗町の5歳児餓死事件の裁判で、検察はママ友の女に懲役15年を求刑した。
支配を否定「碇被告に嫌われるのが怖くて」
2020年4月、篠栗町で当時5歳の碇翔士郎ちゃんが餓死した事件。
この記事の画像(25枚)起訴状などによると、無職の赤堀恵美子被告(49)は、生活全般を支配していたママ友の碇利恵被告(40)に指示して、碇被告の三男・翔士郎ちゃんに十分な食事を与えずに死亡させた保護責任者遺棄致死などの罪に問われている。
9月8日、福岡地裁で開かれた論告求刑公判で検察側は懲役15年を求刑した。
8月29日から始まった赤堀被告の裁判員裁判。争点になったのは、ママ友だった赤堀被告による「支配」が本当にあったのかどうかだ。
2022年6月の碇被告への判決では、赤堀被告が碇被告を支配下に置いて行われた犯行だったことが認定されていた。しかし…。
赤堀恵美子被告:
指示はしていません。お金をだまし取ったということはない
裁判冒頭、赤堀被告は起訴内容を否認。完全な無罪を主張した。
対する検察側は、冒頭陳述で「ママ友の碇被告に嘘をついて生活全般を支配し、翔士郎ちゃんが低栄養状態と認識していたのに餓死させた」と指摘。一方、弁護側は「碇被告に嫌われるのが怖くて仲良く付き合っていた」などと主張した。
「ボスと面識ない」涙を流す場面も
裁判では、支配されていたとされる母親の碇被告が検察側の証人として出廷し、赤堀被告と相まみえることもあった。
検察側:
最初の印象は?
碇利恵被告:
正直、言っていいですか? ダサいなと思いました
2016年春、次男が通う保育園の説明会で出会った赤堀被告と碇被告。その後、赤堀被告は様々な嘘を重ねて碇被告を周囲から孤立させただけでなく、碇被告の夫の浮気の調査費用名目などで、合わせて約200万円をだまし取るなどしたとされている。
金銭を要求する際、赤堀被告は「ボス」と呼ぶ第三者の女性を登場させていた。
検察側:
ボスとは?
碇利恵被告:
ボスはヤクザの元奥さんで、何でも子どものトラブルを裁判して金で解決してくれると
検察側:
浮気調査の金額は?
碇利恵被告:
ボスが旦那の調査費用を出してくれていて、「家が一軒建つくらいの額」と。3500万円くらいだと思っていた
この碇被告の主張に赤堀被告は…。
弁護側:
(ボスとの)面識は?
赤堀恵美子被告:
ありません
弁護側:
碇被告に聞かされていた?
赤堀恵美子被告:
はい、そうです。「男性の方」と
弁護側:
関係性は?
赤堀恵美子被告:
一緒になりたいと思っていると聞いたが、詳しい名前を聞いたことはないです
赤堀被告は、ボスと呼ばれる人物は碇被告が持ち出してきた存在で、「面識はない」と主張した。
また弁護側から、亡くなる1カ月ほど前の翔士郎ちゃんについて聞かれた赤堀被告が突然、涙を流す場面もあった。
弁護側:
翔士郎ちゃんの体を見て、感想は?
赤堀恵美子被告:
びっくりしました。初めて体を見て…すごく…(涙) 小さくなっていて、細かったので…。ショックでした…
赤堀被告の矛盾追及 夫も証言台に
碇被告の主張をことごとく否定する赤堀被告。対して検察側は、様々な矛盾を追及していく。
検察側:
捜査段階で「ボスに会ったことある」と話してない? 取り調べで話した?
赤堀恵美子被告:
はい
検察側:
特徴、話した?
赤堀恵美子被告:
身長、普通
検察側:
ボスのこと見たことないんじゃないの? この話、なに?
赤堀恵美子被告:
人違いでした。後で聞いたら
検察側:
会ってもないのに具体的に話してる。これ嘘ですね
赤堀恵美子被告:
嘘…?
検察側:
人違いと分かって、訂正してないよね?
赤堀恵美子被告:
聞かれてないので、言ってない
さらに検察側は、赤堀被告の不可解な金の動きも追及した。
検察側:
志免町の美容院、2年間で80万円使った。違う?
赤堀恵美子被告:
言われた金額の中には、私がシャンプーを買ったりとかも入っていると
検察側:
それだけお金があった?
赤堀恵美子被告:
兄弟からも親からも助けてもらうことが多かったので、行けてました
8回目となる8日の公判では、赤堀被告の夫への証人尋問が行われた。
弁護側:
赤堀被告と碇被告の関係を見て、支配していたかどうか、率直にどう思う?
赤堀被告の夫:
私は、あり得ないと思います
弁護側:
支配関係が?
赤堀被告の夫:
ないと思います。普通の関係にしか見えなかった
弁護側:
証人として出ること、お子さんに伝えてる?
赤堀被告の夫:
知ってます。いつもテレビの報道見て「違う、違う」と言ってて
また赤堀被告の夫は、パチンコ好きの赤堀被告のおかげでプラスの収入が多く、生活が助けられていたとも話した。
”自己の欲望満たす行為”との指摘に「全て母親の責任」
そして、法廷では碇被告の心情意見陳述が読み上げられた。
碇利恵被告:
私からだまし取った金でぜいたくに暮らしていたくせに、罪悪感を感じておらず、人間ではない。私はママ友、母親、姉、児相、警察など全ての人を疑い、被告人の嘘を信じた。被告人が社会に出れば、また被害者が出る
また被害者参加制度を使って、碇被告の母親が意見を述べた。
碇被告の母親:
翔ちゃんが4歳になる前に利恵の様子がおかしくなって、そこにはいつも赤堀がいました。赤堀と出会っていなければ、翔が亡くなることはありませんでした。赤堀は普通の人間ではありません。赤堀さん、私たちに翔ちゃんを返して下さい。それができないなら嘘はやめてください
赤堀被告に懲役15年を求刑した検察側は、その理由を次のように説明した。
検察側:
碇被告の証言はいずれも具体的で、嘘とは言えない
検察側:
体験した者にしか語れない内容。碇被告が家族に食事を与えないとする事情がない。碇被告をだまして金を取る「金銭欲」の現れ、「支配欲」の現れ。自己の欲望を満たす自己中的な行為で酌量の余地はない
さらに、「保護遺棄としては相当重い部類に値する」「赤堀被告の支配がなければ、碇被告が保護責任者遺棄致死の犯罪を犯すことはなかった」と説明した。
一方、弁護側は「碇被告には嘘をつく動機がある」「碇被告の証言は不合理」と主張し、改めて無罪判決を求めた。
公判の最後に裁判長から意見を求められた赤堀被告は…。
赤堀恵美子被告:
金をだまし取ったということはありません。生活が苦しいと言われていたので、一生懸命助けていたつもりです。全て母親の責任だと思います。以上です
ママ友による「支配」はあったのか。判決は9月21日に言い渡される予定だ。
(テレビ西日本)