電子機器など搭載し、昆虫を制御する“サイボーグ昆虫”

“サイボーグ昆虫”をご存知だろうか?
昆虫に電子機器やセンサなどを搭載して、昆虫の行動を制御し、遠隔操作するものだ。動きを生み出すのに昆虫自身の筋肉を使うため、ロボットと比べ、電力消費量は格段に少なくて済むという。将来的には災害が起きた時の人命探索などに使うことを目指している。

サイボーグ昆虫(画像提供:理化学研究所)
サイボーグ昆虫(画像提供:理化学研究所)
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今回、サイボーグ昆虫を開発したのは、理化学研究所、早稲田大、南洋理工大の研究チームだ。
研究チームは、厚さ4マイクロメートル(1マイクロメートルは1000分の1ミリ)の非常に薄い超薄型有機太陽電池をマダガスカルゴキブリの腹部に貼り付けて、再充電可能なサイボーグ昆虫を実現した。無線通信による行動制御回路とバッテリーも昆虫に搭載し、遠隔での行動制御と、バッテリーがなくなったときに太陽電池を使って再充電を行うことができる。

サイボーグ昆虫 イラストイメージ(画像提供:理化学研究所)
サイボーグ昆虫 イラストイメージ(画像提供:理化学研究所)

研究チームの一人である理化学研究所の福田憲二郎専任研究員は、「目指している応用例は災害が起きた時の人命探索。がれきに埋もれた人をサイボーグ昆虫が探索し、居場所をいち早く知らせるようなシステムを構築したいと考えている」と話す。

サイボーグ昆虫という言葉自体、初めて聞いた人も多いだろう。
では、昆虫をサイボーグ化することでどんな利点があるのか?また、どんな昆虫がサイボーグ化しやすいのか?理化学研究所の福田専任研究員に詳しく話を聞いてみた。

昆虫をサイボーグ化することで消費電力問題を克服

――なぜサイボーグ昆虫を開発した?

サイボーグ昆虫の駆動時間拡大が人命探索のタスク遂行に必要であると考え、その可能性を理研・早稲田大・南洋理工大のチームで議論しておりました。太陽電池の性能や安定性が担保できてきたので、このような融合研究を進めるに至ることができました。


――昆虫をサイボーグ化することでどんな利点がある?

ロボットの動きを生み出すアクチュエーターの消費電力は非常に大きいです。現在の技術では少なくとも100mW以上の消費電力がアクチュエーターの駆動に必要です。このような大きい消費電力を必要とするアクチュエーターで小さなロボットを作ろうとすると、バッテリーがすぐになくなってしまいます。

一方、昆虫をサイボーグ化すると、電気刺激による筋肉の動かし方を制御するだけでよくなります。この場合の電気刺激の消費電力は100μW程度になるため、アクチュエーターの消費電力は1000分の1になります。こうすると、他の無線通信やセンサなどの消費電力だけを気にすればよくなるので、長時間の活動が可能になります。

研究の様子(画像提供:理化学研究所)
研究の様子(画像提供:理化学研究所)

――今回のサイボーグ昆虫の開発で、画期的な部分は?

無線通信を行えるくらいの10mWの発電を生きている昆虫上で行い、かつそのような発電素子が昆虫の動きを損なわない、という点が世界初の画期的なポイントです。
超薄型の有機太陽電池を利用することと、腹部節の動きを邪魔しない接着方法を確立したことでこのようなことが実現可能になりました。


――ここまでの研究で苦労したことは?

コロナパンデミックの影響で海外渡航が完全に制限された中で、どのようにして共同研究を進めるか、というところに非常に苦労しました。南洋理工大学(シンガポール)の佐藤先生のグループはより洗練された制御回路をおもちですが、それらを習得・利用することができなかったため、代わりに佐藤先生のアドバイスをいただきながら日本側の研究グループが自作で無線通信回路をくみ上げて実験をすすめました。

カブトムシをサイボーグ化する研究も

――なぜマダガスカルゴキブリが選ばれた?

マダガスカルゴキブリは体長が大きい(成虫で6~7cm)、羽が無いために飛ばない、比較的寿命が長い、という理由から行動制御や載せる回路の許容度が大きいことが選ばれた理由になります。


――どんな昆虫がサイボーグ化しやすい?

回路や太陽電池などを載せる必要がありますので、ある程度大きいサイズの昆虫のほうがサイボーグ化しやすいです。南洋理工大学の佐藤先生のグループではカブトムシをサイボーグ化する研究も行っております。


――この先、サイボーグ昆虫に関してどんな研究を行っていく?

太陽電池の高効率化やさらなる高寿命化、「充電」と「探索モード」の切り替えのためのアルゴリズム構築を行い、上記の目標に近づけていきたいと考えております。

 

さらに今回の発表では「昆虫の寿命が続く限り、電池切れの心配なく長時間かつ長距離における活動が可能となり、サイボーグ昆虫の用途が拡大すると期待できます。」とまとめている。サイボーグ昆虫が人命救助する日が訪れるかもしれない。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。