新型コロナウイルスの感染拡大で、”マスク着用”が続く保育の現場。表情が伝わりにくいだけでなく、子どもの発達への影響が懸念されている。

子どもが保育者を”人ではなく物”と認識

乳児期の子どもに、親がマスクを取って顔を見せると…にこっと表情豊かになる子どもが多い。これについて専門家は?

比治山短期大学 幼児教育科・七木田方美 教授:
「子どもがうれしい、大人もうれしい」「子どもが笑う、大人も笑う」という、お互いの感情の引き合い(共鳴動作)が、マスクを外すことで長く続く。マスクをしていないから引き出せる子どもの心の発達はたくさんあると思います

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しかし保育園や幼稚園の現場では、感染対策で2年以上にわたりマスク着用の保育が続いている。

比治山短期大学 幼児教育科・七木田方美 教授:
マスクをつけることで、子どもたちは保育者を”人というより物”だと認識していることがあると思います。アタッチメント(心理的な結び付き、愛着)の形成が、乳児期、特に0~2歳にはとても大事です。マスク着用の保育では、アタッチメントが形成されにくいのではないかと思います

七木田教授が広島県内の保育士を対象に行ったアンケート調査では、「マスク着用で子どもの反応の変化を感じている」という回答が84%にのぼった。

「おしっこのにおい気づきにくい」「あーんで口を開けてくれない」

実際に、東広島市の「あい保育園寺家」で現場の声を聞いてみた。

保育士:
普段から表情を意識して保育していますが、マスクをつけていると目元の変化しか伝わりません。口角を上げて笑顔を作ったり、言葉を伝えるときには口の形を意識して話しかけていますが、それが伝わらないのが残念ですね。おむつ替えのタイミングも、”におい”を頼りにしていることがあります。マスクでおしっこのにおいを感じにくいことも…

子どものおむつのにおいを確認する保育士
子どものおむつのにおいを確認する保育士

調査では「マスク着用で便のにおいに気づきにくくなった」など、保育に支障を感じている保育士が65%を占めた。

食事の時間にも保育士は苦悩を抱えている。

保育士:
口を開けてほしい時に「あーん」と言っても、マスクで口の表情が見えない。マスクを取って、もう一度「あーん」ってしたら口を開けてくれる。食事面では、マスクがあるのとないのとで全然違うと思います

絵本の読み聞かせでも工夫が必要だという。

保育士:
口元の動きでは伝わらないので、絵本を読みながら体を揺らしたり、絵本を持っていないほうの手で動作をつけるようにしています。マスクがなければ、子どもたちは保育士の表情を見ながら絵本を楽しめるので、できれば外したいですね

手や体を動かして絵本を読み聞かせる保育士
手や体を動かして絵本を読み聞かせる保育士

マスクを取ったら子どもが泣くことも…

一方で、専門家はマスクを外すタイミングや方法には考慮が必要だとしている。子どもたちは2年以上、マスクをした保育士だけを見てきた。保育士へのアンケートでは、食事や絵本の読み聞かせでマスクを外した時「きょとんとした」が25%、「凝視した」が58%にのぼった。

比治山短期大学 幼児教育科・七木田方美 教授:
「子どもが怖がってしまった」という回答も5%ありました。子どもにとっては、ある日突然、さっきまでいた保育士が別人のように見える。同じところもあるけれど、違うところがある。これをどう理解すればいいのか、子どもは戸惑います。マスクを外した最初の印象で「怖い」と思ってしまうと、永遠に怖いと感じてしまう。子どもが「おもしろい、うれしい」という感情を持っている時にマスクを外せば、受け入れることができると思います

ポストコロナ時代を見据え、七木田教授がすすめるのが「太陽作戦」。

七木田教授が提案する「太陽作戦」とは?
七木田教授が提案する「太陽作戦」とは?

感染対策をした上で、楽しみながらマスクを外す「太陽作戦」の検証を行った。
まず、子どもが保育士と楽しい時間を過ごす。そして、双方が笑顔の瞬間にマスクを外すと…

子どもは一瞬戸惑った様子を見せたが、次第に笑顔が戻ってきた。

マスクを外した保育士にも笑顔を向ける子ども
マスクを外した保育士にも笑顔を向ける子ども

また、人より物に興味がある子どもでも検証。最初はマスクを外した保育士から顔を背けたり、「どうすればいいのかな」と言わんばかりにスタイ(よだれかけ)を口にくわえたりしていたが、だんだん保育士の顔に興味を持ち始めた。その様子を見ていた七木田教授は、「物よりも人の方がこんなにおもしろいんだっていうことを、子どもが認識できた瞬間だったと思います」と話す。

保育の現場で「太陽作戦」を検証する七木田教授
保育の現場で「太陽作戦」を検証する七木田教授

比治山短期大学 幼児教育科・七木田方美 教授:
楽しい時に保育士のマスクが外れたら、子どもは楽しい感情のまま「人はこんなにも刺激をくれる」と分かります。マスク保育では受け取れない刺激がある。それが積み重なると、将来、人の顔を見ることが恥ずかしいとか、動くものの情報をどう処理していいか分からないといった影響が出てくるのではないかと思います

”楽しい感情”のまま保育士を受け入れる子ども
”楽しい感情”のまま保育士を受け入れる子ども

マスクをつけない方が子どもたちの発達を支えられるということを、社会全体で認知していく必要がある。

(テレビ新広島)