2019年の台風19号で被災した長野市のパン店。店は再出発して1年余りになるが、自宅の修復はほぼ手つかず。それでも旬のフルーツを使った新作を発売するなど、被災地で挑戦を続けている。
姉がパンを作り、妹が接客
広がる焼きたてのパンの香り。店頭に並ぶのはクロワッサン、ベーグル、そして具だくさんの総菜パン。

常連客:
たまごサンドとエビカツ、もう1個
こちらは長野市赤沼の「ベーカリー ホッペパン」。店主の天利若葉さん(50)がパン作りを、妹の岡野可愛さん(47)が接客を担当している。

かつての店は、3年前の台風19号で被災。場所を変えて再出発してから1年余りが経過した。

天利若葉さん:
新しいことにも挑戦しているので、まだまだという感じ
挑戦の一つが新商品の開発。モモのコンポートをのせたパンはこの夏の新作だ。

記者:
やわらかい。甘さもちょうど良くて、クリームチーズとの相性もぴったりです
天利若葉さん:
水害にあったことと仕事のことも含めて、もう3年も経つのかと。あっという間だなと
月日の経つ早さを実感する天利さん。3年間は挑戦の連続だった。

「ホッペパン」は2009年、アップルライン沿いにあるスーパーのテナントとしてオープン。多くの買い物客が立ち寄る店となった。
しかし、2019年10月、台風19号による堤防決壊でスーパーも濁流にのみ込まれた。高さ2m以上まで浸水したという。

天利若葉さん(再オープン当時):
機材自体が高額なので全部廃棄するとなると、これから再開するかどうか不安はあった

常連客に支えられ パンの種類も5倍に
近くの赤沼地区にある自宅も被災。片付けに追われ、しばらく店のことまで考えられずにいた天利さん。ある日、常連客に声をかけられた。
天利若葉さん(再オープン当時):
「またパンを焼いてください」という方もいたので、そういう方の声にも支えられて「じゃあ、やってみようか」と

被災した自宅の一角を新たな店舗に改装。2021年5月、再オープンにこぎつけた。

店の再出発に多くの住民が訪れた。
天利若葉さん(再オープン当時):
オープンできて、お客さんと話ができてとてもうれしい。長沼や豊野の皆さんに少しでも愛されるようなお店にしていきたいなと
堤防決壊から10月で3年。
天利若葉さん:
再オープンの時に比べたら、注文をいただいてバタバタ…
再出発当初は10種類ほどだったパンは、今や50種類ほどに増えている。

店を支えているのは常連客たちだ。
常連客:
本当においしいパンで、卵サンドが大好きですね。楽しみで、こちらの方が力いただくような感じ
常連客:
ありがたいですよね。いつも楽しみにしてるんです、おいしくて。近くで来やすいし、何でも作ってくれるので
妹・岡野可愛さん:
毎日来てくださる方もいらっしゃって、ありがたい。こんな場所でも少しずつ知って来てもらって、少しでもここがにぎわってもらえばなと

店のある自宅にはまだ住めず…地道に一歩ずつ
店がにぎわう一方、自宅はまだ住める状態になっていない。
天利若葉さん:
一部は手を加えているんですけど、住めるような形には…

店の改装を急いだため資金繰りが厳しく、新型コロナの影響で資材の搬入も遅れているという。市から補助が出るいわゆる「みなし仮設」の期間が終わり、今、天利さんたちが住んでいるアパートは自己負担だ。
天利若葉さん:
仕事の方を優先させると、自宅の改装はなかなか手がつかない。まずは住める場所が早く落ち着けばいいなと思っているが、金銭的にも厳しい状態
それでも、チャレンジは続けている。
妹・岡野可愛さん:
趣味程度に作っているので自慢できるものではないですけど…

そう言って見せてくれたのは、父親が管理している畑。そこで収穫した旬の果物を使ってこの夏、新作のパンを出した。モモを使ったデニッシュに、ブルーベリージャムのドーナツだ。

天利若葉さん:
こちらで再オープンとなって、何か新しいものを皆さまに提供したいと考えた時に、おいしい時期のものを味わってほしいなと
この秋にはナシやリンゴを使ったパンも登場するという。少しずつ復旧・復興へ。被災地と共に歩むホッぺパンだ。

天利若葉さん:
私たちにできるのはパンをたくさんの皆さんに食べていただくこと。恩返しの一つかなと思っているので、できることから手をつけていく感じで、地道に一歩一歩、皆さんに知ってもらって軌道にのっていけたらなと
(長野放送)