東日本大震災で被災し閉館した九段会館が、歴史をしのばせる重厚なたたずまいを残しながら、テクノロジーを活用してスマートに生まれ変わった。

国内オフィス初のAIスマートガラス

建て替えが進められていた東京・千代田区の旧九段会館。「九段会館テラス」として10月1日の開業を前に9月8日、報道陣に公開された。

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玄関ホールには、1934年創建当時の扉や金属製の装飾も活用するなど、かつての特徴的な装飾が活かされている。

重厚感漂うゲストルームの壁には、解体前、塗装を剥がす際に見つかった金糸刺繍のクロスを使用している。

東急不動産・伊藤悠太さん:
旧九段会館の歴史的価値は創建当時にあると考え、なるべく創建当時の様相を復元することにこだわっています。

一方、併設する17階建てのオフィスビルには最新テクノロジーがちりばめられている。

エレベーターホールに混雑状況が一目でわかるような表示を設けたり、国内のオフィスビルで初めてビュースマートガラスを導入し、エネルギー消費量を最大で20%削減できるという。

屋上に設置したセンサーとAIによって、太陽の位置や天候に合わせてガラスの透過率が4段階で自動調整できる「スマートガラス」を採用。 屋内に差し込む光や熱量が自動で最適化され、結果、空調や照明によるエネルギー消費量を削減できる仕組みだ。

そして、2011年の東日本大震災の際、天井が崩落する事故が発生したこの場所は、オフィスロビーや店舗、会議室にアクセスできる 「ターミナル」に生まれ変わった。

地震の際には、構造が異なる新築オフィスと保存部の境界線に隙間ができる工夫をするなど免震化も図られている。

東急不動産・榎戸明子常務執行役員:
この九段会館の歴史の重みを受け止めながら、運営して参りたいです。

日本の新しいモノづくりの指標に

Live News αでは早稲田大学ビジネススクール教授の長内厚さんに話を聞いた。

内田嶺衣奈キャスター:
テクノロジーを活用して歴史的な建物が新しく生まれ変わりましたが、どうご覧になりますか?

早稲田大学ビジネススクール教授・長内厚さん:
オリジナルの九段会館がつくられたのは約90年前で、古い日本のアナログなモノづくりに現代のデジタルのモノづくりをかけあわせているのが今回の取り組みのポイントです。この九段会館テラスは、「古いもの」と「新しいもの」 あるいは「ソフト」と「ハード」など 異なるものを掛け合わせる意欲的な試みで、今後の日本の新しいモノづくりの指標になってくれるといいなと思います

内田キャスター:
新しいモノづくりの指標となるような掛け合わせが行われているということですが、具体的にはどういったものですか?

早稲田大学ビジネススクール教授・長内厚さん:
先程のVTRにもあったAIスマートガラスは、透過率を変えられるスマートガラスというハードと自動調節のためのAIというソフトウェアの掛け合わせから生まれています。太陽の位置や天候によって光の加減を調整して照明のエネルギー消費の削減にもつながるといいます。スマートガラスはすでに会議室の窓を半透明にしてプライバシーを守ったり、プロジェクターのスクリーンに応用され、さらにはB787型旅客機の窓ガラスのサンシェードにも採用されています。

内田キャスター:
この九段会館テラスではエレベーターを待っている間に混雑状況が分かるということですが、これもエレベーターという以前からある技術とデジタルを掛け合わせたものですよね?

早稲田大学ビジネススクール教授・長内厚さん:
そうした「ソフト」と「ハード」を掛け合わせるモノづくりこそ、今後の日本が進むべき道を示しているように思います。AIやITの技術はソフトウエアで実現されます。この分野で日本は米国のGAFAに遅れをとっているといわれますが、一方でGAFAは自分たちでハードウエア、つまりモノを作ることはできません。日本のテック企業の多くは現在、AIやIoTなどデジタルやソフトウエアの取組みに一生懸命で、こうした動きを「モノからコトへ」とややモノを軽視する動きもあります

早稲田大学ビジネススクール教授・長内厚さん:
しかし日本の優位性は、コトが重要な時代におけるモノを作る技術です。AIやIoTのソフトウエアを実装するハードウエアも日本でつくることができるのが、日本の強みで、モノもコトも重要だということです。今後もそうした強みでGAFAと同じ土俵で戦わないことが、戦略的に正しい方策だと思いますし、今回の九段会館テラスはそうした道を示してくれているのではないでしょうか

内田キャスター:
歴史的建造物というのはおもむき豊かで心ひかれる一方、地震や火災などの備えについてやはり心配な面もあります。 今回の試みから得たモノをこれから世界に誇れる日本のモノづくりに活かしていって欲しいと思います

(「Live News α」9月8日放送分)