シリーズ「名医のいる相談室」では、各分野の専門医が病気の予防法や対処法など健康に関する悩みをわかりやすく解説。

今回は循環器内科の専門医、九州大学大学院医学研究院の筒井裕之教授が、「肥大型心筋症」について解説。症状がないことも多い肥大型心筋症による突然死を防ぐための、植込み型除細動器や薬を使った治療法などを解説する。

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肥大型心筋症とは

肥大型心筋症は、「心筋症」という心臓の筋肉の病気の一つです。心臓の筋肉が厚くなる心肥大が起こって、これに基づいて心臓の左心室の拡張機能が低下する病気です。

心臓は4つの部屋があります。

肺から戻ってきた血液は左心房、そして僧帽弁という心臓の中の弁を通って左心室に血液が溜まります。この左心室に溜まった血液が収縮することによって大動脈に駆出されます。

従って、肺から戻ってきた血液を全身に運ぶ、最も血液を駆出する上で重要な働きをしているのが左心室ということになります。

心臓の肥大は、エコー検査などで心臓の壁の厚さが15mm以上ある、もしくは、家族歴がある場合には13mm以上と定義されています。

患者さんの多くは小児期から壮年期に発症して、それ以降も進行しています。男女比は、男性の方が2.3:1と多いことが知られています。

全国の疫学的な調査では、現在推計されている患者数は、2万1900人と言われています。世界的にはこれまでの高度研究で肥大型心筋症の有病率は500人に1人と想定されています。

肥大型心筋症の患者の多くは症状がなく、検診の心電図検査などで偶然発見されることが多いです。

肥大型心筋症の分類

肥大型心筋症は左心室の形態によって4つに分類されます。

左心室の中に閉塞を伴っているものを閉塞性肥大型心筋症と言います。これは主に左心室から大動脈にかけて血液が出て行く流出路の閉塞を伴うものです。

この流出路の閉塞を伴わないものを非閉塞性肥大型心筋症と呼んでいます。

そしてこの心筋の肥大によって閉塞の起こる部位が、左室の流出路ではなくて、左室の中部・真ん中あたりに肥大が見られる患者さんは、心室中部の閉塞性肥大型心筋症と呼んでいます。

さらに、心室の心尖部という先の方に肥大が限局している患者さんもいて、それは心尖部肥大型心筋症と呼ばれます。

肥大型心筋症の患者の一部ですが、肥大した心筋がむしろ薄くなって左心室の内腔が拡大して収縮が低下することによって肥大型心筋症とは違うタイプの拡張型心筋症に類似した形態に移行していく患者さんもいて、それは拡張相肥大型心筋症と呼ばれています。

このように肥大型心筋症は、左心室の形態と機能によっていくつかの表現型があります。

肥大型心筋症の症状

患者さんの多くは症状がありません。

特異的な症状はないんですが、心臓の左心室から大動脈にかけて流出路に狭窄がある患者さんは症状を訴えられる方が多いです。

典型的な症状は、動作時の息切れ呼吸困難ですが、それ以外に胸痛胸部圧迫感動悸といった症状がよく見られます。

また、立ちくらみや目の前が暗くなったり、失神といった脳の虚血を思わせるような症状もあって、この場合は肥大型心筋症の突然死に至る前駆症状として重要な症状と考えられています。

突然死は、想定していない心臓の病気で突然亡くなることですが、肥大型心筋症で亡くなった患者さんの約40%は突然死と報告されていて、最も重大な死因の1つです。

突然死を起こす危険性の高い患者さんは、心停止や心室細動、持続性心室頻拍といった致死性の不整脈から蘇生した患者さんで、そのような患者さんは再発の可能性が高いと知られています。

それ以外に、そのようなイベントがなくても、肥大型心筋症による突然死の家族歴がある患者さん、また原因不明の失神、そして著明な左室肥大、非持続性の心室頻拍といった不整脈、運動した時に血圧の異常な反応が見られるといったことが、肥大型心筋症の突然死の危険因子となります。

肥大型心筋症の予防と治療法

肥大型心筋症は多くの場合は遺伝子変異を伴う疾患で、高血圧や糖尿病などから発症してくる循環器疾患とは異なりますが、日常生活の中ではやはり多くの場合、過度な競争を伴う運動は避ける必要があります。

肥大型心筋症の治療は、薬物治療が基本になります。

心臓の中に閉塞がない場合は、一般的にはベータ遮断薬、カルシウム拮抗薬の中のベラパミル ジルチアゼムといった心臓の拡張機能を改善する薬を飲んでいただきます。

さらに心臓の中に閉塞を伴う閉塞性肥大型心筋症の患者さんは、ベータ遮断薬、カルシウム拮抗薬に加えて、Naチャネル遮断薬、ジソピラミドやシベンゾリンという薬を飲んでいただきます。

そして突然死の予防には、不整脈を抑える薬も用いますが、最も有効な治療は植込み型除細動器というペースメーカーと同じような機器を挿入して、致死性の不整脈が起きたときはそれを感知してペーシングや電気ショックで不整脈を止めて突然死を予防します。

肥大型心筋症とコロナ感染

新型コロナウイルス感染症に感染しますと、肺炎によって呼吸機能が障害されますし、発熱等によって心臓に対する負担も加わるので肥大型心筋症による症状がより強くなる可能性があります。

従って、肥大型心筋症の患者さんは新型コロナにかからないように日常の感染対策、さらにワクチン接種を進めていただく必要があります。

筒井裕之
筒井裕之

昭和57年九州大学医学部卒業、九州大学医学部付属病院研修医、平成2年米国サウスカロライナ医科大学留学、平成7九州大学医学部循環器内科助手、平成12年九州大学医学部循環器内科講師、平成16年北海道大学大学院医学研究科循環病態内科学教授、平成28年九州大学大学院医学研究院循環器内科学教授、北海道大学産学・地域協働推進機構客員教授(併任)現在に至る。
専門は循環器内科、心不全、心筋症。
日本心不全学会理事長。日本循環器学会・日本心不全学会の心筋症診療ガイドライン(2018年)作成班班長。
研究テーマは心血管病の病態解明と効果的・効率的な治療の開発。