夏休みの家族連れに人気の動物園。舞台裏で活躍する女性獣医師に密着した。

治療だけでなく「飼育」も…獣医師の重要な仕事

福岡・北九州市小倉北区到津の森公園。休園日だった8月23日、夏休みに訪れる家族連れもおらず、園内で生活する90種類以上の動物たちもリラックスムードだ。

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そんな中、汗をかきながら、せわしなく動きまわる女性の姿があった。

到津の森公園・二井綾子獣医師:
きょう休園日なんで、結構(予定を)詰めてます。やっぱり普段できないことをやっちゃいたいので

園専属の獣医師、二井綾子先生。

二井先生は大学卒業後、獣医師免許を取得。犬や猫を診る動物病院に勤務し、2019年に到津の森にやってきた。

総面積約11ヘクタールを誇る園内では、移動も一苦労。息を切らしながらの移動になる。
文字通り「森」をイメージしてつくられた園内。二井先生は、雑木林をかき分けながら最短距離で動物の元へと向かう。
「おはよう」と声をかけた場所は、チンパンジーハウス。
一般的な獣医師は「治療」に専念するが、動物園では餌やりやおりの中の掃除などの「飼育」も含めて対応する。

到津の森公園・二井綾子獣医師:
私も犬猫の病院でずっと勤務していたので、(犬や猫は)触れて痛みが分かる。皮膚とかもしっかり見られたり、状態も把握できたりする。猛獣は基本的に触れないので、触らずして病気を見つけたりとか、予防していくというのが一番大事なので

健康状態を把握するため、「飼育」も獣医師の重要な仕事だと二井先生は語る。

ライオンの不妊治療 ご機嫌斜めの人気者にとった作戦は…

次の仕事は、百獣の王の治療だ。

到津の森公園・二井綾子獣医師:
ライちゃんです。ライオンの雌、ライオンのライちゃん。準備が整えば…

ライオンに不妊治療を施すという。初めての治療というだけに、緊張の表情は隠せない。
園で屈指の人気者ライちゃんは、せっかくの休みを邪魔されて、少しご機嫌斜めのようだ。

到津の森公園・二井綾子獣医師:
何でー,立つん? ごめん、ごめん、ごめん、ごめん。いいよ、座って

大好物の肉を食べさせて、ライちゃんの気をそらしている間に注射を打つという作戦なのだが…。なかなかいうことを聞いてはくれない。

到津の森公園・二井綾子獣医師:
食べとってよー。刺さらないんですけど,遠くて、ええー。ああ、刺さった

ほえるライちゃん。気付いたようだ。

到津の森公園・二井綾子獣医師:
ああーん、ばれた? もうちょっと食べてて下さい。はい、はい、はい、おしまいでーす

無事、初めての注射が終わり、時間に追われた午前中の仕事は片付いた。
そしてお昼休み。二井先生は、手作り弁当をしっかり食べて,午後に備える。
昼食を食べながらも続けるデスクワーク。

到津の森公園・二井綾子獣医師:
午後にやることがあると、準備とかもあるので…

この日は、午後から大がかりな手術が待ち受けているのだ。

命の危機も…プレーリードッグの大手術

器用に前足を使ってエサを食べる姿が、なんとも愛くるしい人気者のプレーリードッグ。

ハウスのそばには、青く小さなケージが置かれている。ケージの中には、背中が黒くなっている個体が…。
プレーリードッグのレタスくんは、食事の際にエサが気管に入ってしまい、緊急手術を受けた。

しかし、その痕を自分で引っかいてしまい、炎症を起こしてしまったのだ。
体が小さいだけに、一歩間違えば命の危機となる。

到津の森公園・二井綾子獣医師:
ちょっと結構シビアなやつなので。麻酔かけたりするんで…

麻酔で眠り始めたレタスくん。手術室には緊張感が漂う。

到津の森公園・二井綾子獣医師:
あー、こっち怪しい。こっち、だめかも…膿んでるね

病状は、二井先生の予想以上に深刻だった。

今後のさらなる手術も視野に入れなければならないが、度重なる手術はレタスくんに多大な負担がかかる。

到津の森公園・二井綾子獣医師:
このまま同じ処置をしていると、ストレスがかかりすぎて、今度は食べなくなって命を落とす危険性が考えられたので、あえてリスクもある処置を選択しようかと思っています

再手術をすれば、レタスくんはストレスで死んでしまうかもしれない。レタスくんの繊細な性格も踏まえて、二井先生は「きょうで処置を終わらせる」という大がかりな手術の決断を下した。

場面場面で常に難しい選択が迫られる中、1時間に及ぶ大がかりな手術は無事終了。
あとは、レタスくんが麻酔から目を覚ますのを待つだけだ。

到津の森公園・二井綾子獣医師:
動いてきた! 動いてきた!

レタスくんの足がピクピクする。レタスくん、痛みに耐えて頑張った。
そして時刻は、午後5時半。慌ただしく動き回った忙しい「休園日」も間もなく終了する。

到津の森公園・二井綾子獣医師:
動物園に来た最大の理由は、子どもたちの教育に関わりたかったからですね

到津の森公園・二井綾子獣医師:
町の犬猫病院でも、すごくやりがいがあったんですけど、唯一欠けていたのが(子どもたちへの教育)。動物が好きだから、動物を飼ってて、心配だから(動物病院に)連れてきてくれる。でも、全然動物を飼ったことない子どもとか、そんな興味がない子ども、命の素晴らしさに気づいてない子どもには、(私から)伝えられる窓口が何にもなかったんですよ

たどり着いた動物園。

到津の森公園・二井綾子獣医師:
「動物ってこんなに素晴らしいんだよ」って教えられるところは、こういうところなんじゃないかなと思ってたので

忙しい休園日から一夜明け、開園した到津の森公園。園内は多くの子どもたちでにぎわいを見せていた。
動物園専属の獣医師・二井先生は、きょうも「命の素晴らしさ」を伝える動物園を陰で支えている。

(テレビ西日本)

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