東日本大震災の津波で大きな被害を受けた、宮城県石巻市。その中心部に、空き店舗を改修した劇場がオープンした。劇場を開いた男性たちが目指すのは、ふるさと・石巻ににぎわいを取り戻すこと、そして、感謝を伝え続けること。

“1回やったら終わり”ではなく にぎわいの拠点を…空き店舗を劇場に

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真剣な眼差しで、映画に見入る子供たち。上映会が開かれたのは、2022年8月にオープンしたばかりの新しい劇場だ。

映画を見た子供:
とても楽しかったです!おもしろかった

座席には一つ一つ、種類の違うソファが並ぶ、手づくりの劇場。その名も「シアターキネマティカ」。

石巻のまちづくりに取り組む、「石巻劇場芸術協会」の矢口龍太さん(39)と阿部拓郎さん(34)が作り上げた。東日本大震災の前はふるさと・石巻を離れ、関東で暮らしていたが2人だが、震災を機にUターン。

演劇などを通じて被災者の心に寄り添い、にぎわいを取り戻す活動に取り組んできた。活動を続ける中で、継続的にイベントができる「劇場」の必要性を意識し始めたという。

石巻劇場芸術協会・矢口龍太さん:
即時的なイベントはたくさんあった。“1回やったら終わり”みたいな。それが地元民として嫌で、やる側だけが満足して帰っていくような気がした。
(志向が)人の集まるイベント・場所から、ハコ=拠点を持つことに移行していった

被災後わずか3カ月で上映…長年親しまれた劇場の隣に拠点

元々は、ふとん店の店舗兼住宅だったこの建物。この場所で劇場を開くことにも、意味があった。

石巻劇場芸術協会・阿部拓郎さん:
日活パール劇場の館長さんが震災後すぐに、「映画の灯は絶やしていけない。文化の灯は絶やしてはいけない」と言って、すぐに上映活動を再開させた

この建物の隣にあったのは「石巻日活パール劇場」。
往年の名作映画や成人向け映画を上映し、長らく石巻市民に親しまれてきた。東日本大震災では津波の被害を受けながらも、わずか3カ月後に営業を再開。しかし、2017年に支配人が亡くなり、休館した。

石巻劇場芸術協会・阿部拓郎さん:
日活パール劇場のネオン看板の灯も消えてしまって、いよいよコロナに入ってから、夜が真っ暗になってしまった。街に灯をともしていくための拠点としても作っていきたい

津波が押し寄せようとも、映画の灯を守った劇場。
劇場のあった場所は、かつて複数の映画館が並び「文化通り」として栄えた場所だった。

石巻劇場芸術協会・阿部拓郎さん:
映画館がなくなっていってしまって、最後に残った唯一の映画館が日活パール

そうした歴史を知っているからこそ、石巻市の中心部に劇場を建てることを決めた。

2人はクラウドファンディングで資金集めを開始。目標額の300万円を大きく超える、470万円が集まった。
しかし資材の高騰などもあり、そのほとんどが建物の工事代に費やされたため、冷房やトイレ、カウンターテーブルなどはリサイクル品を活用。それでも足りないものは、自分たちで手作りした。

石巻劇場芸術協会・矢口龍太さん:
イメージしながらやっています。ここで子供たちがジュース飲んだり、映画見終わった人たち、お父さんお母さんがコーヒー飲んだりとか、イメージしてやっている

地域の人の協力を仰ぎ、時に徹夜もしながら、作業は進められた。

手伝った人:
“複合エンタメ施設を街中に作りたい”って、思いに共感するところがある。面白い人たちが集まるところになればいいなと

石巻からエンタメを届けていく… 初日から多くの人が

迎えたオープン当日。かつて、「日活パール」で使われていた「のぼり」が掲げられ…矢口さん、阿部さんは準備に追われていた。

最後にステージ上に運ばれてきたのは…館長から受け継いだ、日活パールのネオン看板だ。

石巻劇場芸術協会・矢口龍太さん:
なんだろうね、これ、すごいね

石巻劇場芸術協会・阿部拓郎さん:
今、客観視したらすごい劇場になっている

幅広い世代が文化に触れ、交流できる拠点に。
目指したコンセプト通り、オープン初日から多くの人が訪れた。中には支配人の親族の姿も…。

日活パール館長の親族:
よく頑張ったよ、矢口君と阿部君。夜中までやっていた
ーー日活パールの看板もありますね
涙出そう

そして、いよいよ…。

司会者:
映画と演劇を楽しむ劇場!シアターキネマティカ!みなさん、きょうはどうぞ最後まで楽しんでいってください!

記念すべき最初の上映作品は、劇場改修の歩みをまとめたオリジナルムービー。2人の挑戦に、惜しみない拍手が送られた。

石巻市在住:
この街にとっては大きいこと。このインパクトがさらに広がっていくんじゃないか

イベントの締めくくりに、2人は訪れた人に対して感謝と決意を伝えた。

石巻劇場芸術協会・矢口龍太さん:
でも本当ここからなので。感謝がこの場だけでは伝えられないので、続けていく。小分けにしてちょっとずつ、感謝の借金を返していきます。35年ローンぐらいで。感謝の負債をちょっとずつ返していきます。長く、長くね

石巻劇場芸術協会・阿部拓郎さん:
石巻からエンタメを届けていく。この劇場だけでなく、この石巻という街を、どんどん街の灯りで照らしていけるような施設にしたい

石巻にともった小さな灯り。にぎわいを取り戻す挑戦の幕は、上がったばかりだ。

(仙台放送)

仙台放送
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