“奇跡”を体験 当時の中学生が語り部に

2011年3月11日。東日本大震災で、600人が一斉に高台へと避難し、「奇跡」とも呼ばれた岩手県釜石市の子どもたち。
この春からそのうちの1人が伝承施設の語り部として第一歩を踏み出した。

釜石市の津波伝承施設でこの春から職員となった川崎杏樹さん(23)。4月2日が初めての出勤日。

いのちをつなぐ未来館・川崎杏樹さん:
初めて(電話)取りました。大丈夫かな

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2019年3月にオープンした「いのちをつなぐ未来館」。これまで6万7,000人以上が訪れているこの施設で、川崎さんは語り部ガイドを務める。

いのちをつなぐ未来館・川崎杏樹さん:
ずっとやりたかった仕事の1つなので、ワクワクしているけれど、やっぱり、ちょっと緊張しています

小中学生600人が避難 “奇跡”と呼ばれた出来事

展示の柱となるのは、 東日本大震災直後に「釜石の奇跡」とも呼ばれた出来事。

あの日、海に近いこの地区では小中学生約600人がみんなで高台へと移動し、難を逃れた。
川崎さんもそのうちの1人。

いのちをつなぐ未来館・川崎杏樹さん:
スタジアムの席があるあたりの少し海側に校舎がありました

当時、釜石東中学校2年生だった川崎さん。
その校舎は、鵜住居小学校とともに現在のラグビー場の場所に建っていた。

避難訓練が体に染み付いてたからできたこと

2つの学校では震災前から防災教育に力を入れていて、合同で津波避難訓練を行うなど、備えの意識を高めていた。

いのちをつなぐ未来館・川崎杏樹さん:
(地震後)今までやってきた防災教育を踏まえて、これは逃げたほうがいいと、すぐ思った。中学生が小学生の手を取って。正直怖かったけど、大丈夫だよとひたすら言っていたと思う

あの日、児童・生徒は避難していた坂道の途中で背後に迫る津波を目撃した。

いのちをつなぐ未来館・川崎杏樹さん:
すごい土ぼこりが見えて、見てみたら、鵜住居の街が全部、波にのまれている状態。自分が死ぬかもしれないと、初めてここで津波を見て思った

そしてさらに坂を登り、その後学校から峠道まで避難した全員の無事が確認された。

いのちをつなぐ未来館・川崎杏樹さん:
やっと、ここまで着いてほっとできた。すぐ行動に移せたのは、日頃の訓練や防災教育の授業のおかげ

しかし、その一方で、釜石では指定避難場所ではない防災センターに多くの人が逃げ込んで津波にのまれるなど、市全体で1,064人が犠牲となった。(うち関連死106人)

防災教育の大切さを伝えたい

いのちをつなぐ未来館・川崎杏樹さん:
同級生の家族、兄弟とか両親を亡くした子はたくさんいて、(事前の防災に)足りない部分・課題があったということになるので

大学時代、川崎さんは卒論のテーマに防災教育を選んだ。
当時の地元の小中学生に自ら話を聞くことで、学びの効果を確信するとともに、子どもだけでなく地域全体で意識を高めることが大切と感じたという。

いのちをつなぐ未来館・川崎杏樹さん:
避難訓練に関しては、毎年繰り返し行っていたことで、意識しなくとも自分の体にしみこんでいた。備えていくことが大事と伝えたい

先輩語り部も同じ奇跡の子

いのちをつなぐ未来館・菊池のどかさん:
小学生と中学生が手をつないで逃げていた、中学生も怖いんですよね

いのちをつなぐ未来館では、これまで川崎さんの先輩がガイドを務めてきた。
震災当時、釜石東中3年生だった菊池のどかさん(24)。同じ道を歩む後輩ができたことを心強く感じていた。

いのちをつなぐ未来館・菊池のどかさん:
同じ経験をして伝えてくれる人が1人でも増えて、すごくうれしい。より真実を伝えられるんじゃないかと思っています

ーー当日の避難行動について

いのちをつなぐ未来館・川崎杏樹さん:
わたしは疲れなかったけれど、のどかさんはどうでした?

いのちをつなぐ未来館・菊池のどかさん:
わたしは疲れた

いのちをつなぐ未来館・川崎杏樹さん:
人それぞれですね

学習することで未来の命を助ける

川崎さんはこの日、ガイドとしての心構えを教わった。

いのちをつなぐ未来館・菊池のどかさん:
犠牲になられた方はたくさんいるし、もう帰ってはこないけれども、学習することによって未来の命を助けることはできるから。釜石が(防災教育を)やったんだよというゴリ押しじゃなくて、みんなでやっていこうねという説明ができればいいと思います

教訓を風化させず、未来の命を守るために。

震災から9年余り、被災地の若者がまた1人、その一歩を踏み出した。

いのちをつなぐ未来館・川崎杏樹さん:
わたしの経験によって、防災意識を少しでも高めるきっかけにしてほしい。地元釜石から発信していきたい

(岩手めんこいテレビ)

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