「クリスマスの解禁」

トランプ大統領が選挙公約の一つに「クリスマスを解禁する」ことをあげたこともあって、最近米国のラジオで再びクリスマス音楽が流れるようになった。
オバマ大統領時代は「ポリティカルコレクトネス」つまり政治的公正さのために、キリスト教の祭日を崇めるのは信教の自由に反するという考えからラジオ局もクリスマス音楽を自粛していたようだった。
さらに有名な「ホワイト・クリスマス」も、「ホワイト」つまり「白人」のためにクリスマスを讃えているという理屈で抗議の声が上がり、この曲を流さないラジオ局も出てきた。
しかし、トランプ大統領当選後はゆきすぎた「ポリティカルコレクトネス」への反省もあってかラジオ局の多くはクリスマス音楽を解禁し、ニューヨーク州シラキュースのY94のように24時間クリスマス音楽を流しっぱなしにするラジオ局も復活した。
レイプを示唆する音楽?

ところがである。今度は別の理屈から定番のクリスマス音楽を禁止しようという動きが出てきた。
「ベイビー、イッツコールドアウトサイド(外は寒いよ)」という1944年初演のポップスがそれで、その歌詞がレイプを示唆しているというのが反対の理屈だ。その歌詞は、デートをしての帰りに男性の部屋を訪れた二人の会話を歌ったもので「居るわけに行かないわ」「でも外は寒いよ」というたわいもないものだ。
しかしその中に「ドリンクの中に何を入れたの?」と女性が訪ねると、男性は「もうタクシーもないよ」とはぐらかす会話がある。

この曲ができた1940年代であれば、女性を口説くためにアルコールを混ぜたと考えるのが普通だが、ラジオでこの曲を聞いたリスナーの中には「これはドラッグを飲ませることを正当化している」と抗議するものも出てきた。
オハイオ州クリーブランドでクリスマス音楽を流し続けているラジオ局スター102にも「レイプ音楽をかけるな」という抗議が寄せられ、先月30日(現地時間)同局はこの曲を禁止し、他のラジオ局も追随した。
コロラド州デンバーの KOSIも同様に禁止したが、逆に「止めるな」とのリスナーの抗議が殺到したという。このため同局ではアンケートを取ったところ95%の回答者がこの曲を続けるよう求めていることが分かり、4日「ベイビー、イッツコールドアウトサイド」を復活させたと発表した。
これも「#MeToo」運動か
今回の騒ぎは米国の流行語のようにもなった「#MeToo」の考えに沿ったものだったと考えられている。性的被害を受けた女性が「私も被害者だった」と声を上げることを奨励する運動だが、今や70年余り前のクリスマス音楽もその標的になるということなのか。
(執筆:ジャーナリスト 木村太郎)
