日本は77回目の終戦の日を迎えた。戦後77年の間に世界の安全保障環境は大きく変化したが、特に中国は経済力でアメリカと肩を並べる存在となり、軍事力を増強しアジアの平和と安定を脅かす存在となっている。

BSフジLIVE「プライムニュース」では、元防衛大学校長の五百旗頭真氏と中国現代政治が専門の加茂具樹氏を迎え、戦後の国際秩序を俯瞰しながら今後の安全保障について議論した。

靖国参拝を批判し“お説教”の中国 自国の軍拡は反省せず

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反町理キャスター:
終戦記念日に合わせ、閣僚3名を含む多数の国会議員が靖国神社を参拝。中国側からの反応として、汪文斌報道官は「歴史問題に対する日本側の誤った態度を反映」「日本は平和発展の道を堅持してこそ正しい位置を見つけることができる」「隣国や国際社会の信頼をさらに失わないよう求める」と発言。どう解釈すればよいか。

加茂具樹 慶應義塾大学教授:
8月15日の発言として毎年行われるトーン。中国側が関心を持つ日本の憲法改正、反撃能力などの話が「日本が平和発展の道を堅持してこそ」「隣国や国際社会の信頼をさらに失わないよう求める」に繋がっている。

加茂具樹 慶應義塾大学教授
加茂具樹 慶應義塾大学教授

反町理キャスター:
最近の日中関係では、日中外相会談の中国側からのドタキャンがあり、訪日した米ペロシ下院議長に岸田総理が会ったことを指摘して事実上の批判。あれでも中国は関係改善したいのか。

加茂具樹 慶應義塾大学教授:
中国は今、いわゆる政治の季節。秋の党大会を踏まえ、短期的には近隣諸国との安定した関係を見せたい。対話の可能性を中国側も模索をしていると考えていいと思う。

五百旗頭真 元防衛大学校長 兵庫県立大学理事長:
「日本は平和発展の道を堅持せよ」とお説教くださるわけだが、日本が平和発展の道を堅持してきた間に中国が大変な軍拡をやった。自身の行為についてあまり反省することはない。大国とは概してそういうもの。国際社会がしっかり言わないといけない。

「奮発有為」の習近平時代 中国のロシア化は世界大戦の危機

新美有加キャスター:
太平洋戦争の終結から77年。その後の主な戦争・紛争としては、朝鮮戦争、ベトナム戦争、キューバ危機、1989年には米ソ冷戦が終結。その後は湾岸戦争、アメリカ同時多発テロ発生後のイラク戦争。2022年のロシアによるウクライナ侵攻はいまだ続く。この変遷について。

五百旗頭真 元防衛大学校長 兵庫県立大学理事長:
第二次世界大戦までの人類は、外交交渉で話がつかなければ力で勝った方が正義だった。だが、第二次大戦で核兵器が出てきて戦争のコストが大きくなり、従来のやり方ではダメだと出てきたのが国連体制。5大国が国際安全保障を管理し、それ以外の国は平和に普通に暮らせるように、と不十分ながら変わった。

反町理キャスター:
なるほど。

五百旗頭真 元防衛大学校長 兵庫県立大学理事長:
朝鮮戦争やイラク戦争など、地域覇権を求める国がいた場合は国連秩序でおさめることができた。だが今度は、5大国のうちのロシアが自ら侵略した。国連体制を根本から潰す大変な秩序破壊。ロシアと中国がエコーし合って、もし中国が台湾に対して行動を起こすと、第三次世界大戦が不可避となりかねない。大変な危機。

新美有加キャスター:
中国の建国は1949年、毛沢東が天安門広場で建国宣言。1971年に国連加盟、翌年にはニクソン大統領訪中で対立から和解へ転じ、日本とも国交正常化。1978年に鄧小平のもと、市場経済と資本主義を柱とした体制転換である改革開放へ。2001年にWTO(世界貿易機関)に加入し輸出が大幅増。2012年に習近平指導部が発足。

五百旗頭真 元防衛大学校長 兵庫県立大学理事長:
3段階がある。大躍進政策や固い中ソ同盟があった毛沢東時代。市場経済の中で発展する大変革を鄧小平が行った時代。WTOにも入り、アメリカにはオバマ政権まで、経済発展を助ければ中国は民主化するという幻想があった。それが違うと明らかになった今の習近平の時代。アヘン戦争以来100年の屈辱を跳ね返し、アメリカに負けない強国になるという路線を突っ走っている。

反町理キャスター:
鄧小平時代には「韜光養晦(とうこうようかい)」=才能を隠して内に力を蓄える、とよく言われた。だが、習近平主席になってからは「奮発有為(ふんぱつゆうい)」。奮起して成果を上げる、力を隠さなくてもいいと国のスタンスが大きく変わったように見える。

加茂具樹 慶應義塾大学教授:
奮発有為のような考え方が出てきたのは胡錦涛時代の末期からだが、実際に政策として実施されてきたのは間違いなく習近平時代。

反町理キャスター:
アヘン戦争以来のいわば復讐心と、喧嘩しても幸せになれないという経済的合理性。そのバランスは中国の中でどう消化されるのか。

五百旗頭真 元防衛大学校長 兵庫県立大学理事長:
2008年の北京五輪の成功と、同年にリーマンショックがあり、胡錦濤政権が巨大財政出動で世界経済を底支えしたことで、中国のナショナリストが自信を持ち始めた。韜光養晦は卒業する時だという議論が出てきて、習近平はそれに乗っている。

五百旗頭真 元防衛大学校長 兵庫県立大学理事長
五百旗頭真 元防衛大学校長 兵庫県立大学理事長

反町理キャスター:
奮発有為として国民を引っ張ってきた政権が、経済的合理性に基づいて方針を修正したいと仮に思っても、そこに至るまでの国民世論への働きかけが恐らく自分たちの手足を縛る。どう乗り越えるのか。それは可能なのか。

加茂具樹 慶應義塾大学教授:
中国の人たちと話をすると、やはり一番の困りごとは世論。世論に突き動かされて外交の選択肢が狭まっているという認識は中国自身も持っている。

五百旗頭真 元防衛大学校長 兵庫県立大学理事長:
どこの国も世論は怖いが、中国の場合は世論に働きかけて禁止、弾圧あるいは誘導したりする力は相対的に強いのでは。

香港の出来事を考えれば、中国の台湾への「一国二制度」はまやかし

新美有加キャスター:
8月10日、中国は習近平政権で初めて、22年ぶりに台湾統一に関する白書を発表。「『平和統一と一国二制度』が問題解決に向けた基本方針」「二制度は一国に従属するもの」「平和的統一のために努力し続ける。しかし、武力の行使を放棄することを約束するものではない」「台湾の独立勢力や外部勢力の挑発や威圧がレッドラインを越えれば断固たる措置」。

五百旗頭真 元防衛大学校長 兵庫県立大学理事長:
この一国二制度がいかにまやかしかということは、香港で暴露してしまった。世界での中国のイメージをずいぶん下げた。意外に賢明でないところがある。

加茂具樹 慶應義塾大学教授:
香港では一国二制度の一国の方に力点を置いた政策転換をした。我々はその経験から、中国がどういう考え方で台湾と向き合っているのかを読み取らざるを得ない。

反町理キャスター:
中国の言うレッドラインとは? 

加茂具樹 慶應義塾大学教授:
独立、「一つの中国」を否定することでしょう。

防衛力整備や多国間連携で中国の「計算」を難しくさせることが必要

新美有加キャスター:
岸田政権の防衛方針。防衛費はGDP比2%以上も念頭に、5年以内に防衛力を抜本的に強化。反撃能力の保持。また憲法改正をできるだけ早く発議し、国民投票へ。中国からどう見えるか。

加茂具樹 慶應義塾大学教授:
中国の外交青書では、日本社会が脅威への対抗のために行動をとっているとして、それなりに理解している。だがその先で、日米同盟と中国との関係を過剰に悪化させ危機を煽っている、という説明をしている。

反町理キャスター:
おかしくないですか。中国脅威論が先にあってこういう状況になっているのに。

加茂具樹 慶應義塾大学教授:
共通言語を探す努力が必要。それは力の体系を重視すること。

五百旗頭真 元防衛大学校長 兵庫県立大学理事長:
いずれにしても我々は中国の行動に対し、アメリカや世界と協力して、ウクライナにおけるロシアのようなことをできないようにしていく。中国に合わせて軍拡していくことは不可能だが、まず尖閣諸島を守ること。中国が台湾や尖閣諸島で力を発揮して支配しようという時、その最初を止めないと駄目。

加茂具樹 慶應義塾大学教授:
中国がある行動をしようと思った時、その計算を難しくさせる努力を日本はしなければいけない。その一つが防衛力の整備。そして複数の国と連携しながら、軍事力以外の方法も用い、計算を難しくしていく。

新美有加キャスター:
「クアッド」「ファイブアイズ」「オーカス」「TPP(環太平洋パートナーシップ)」といったインド太平洋をめぐる枠組みは、そのような抑止力に繋がるか。

加茂具樹 慶應義塾大学教授:
まさにこのこと。

反町理キャスター:
どれも軍事連携ではない。だが先ほどの話では、中国との共通言語は力。安全保障の点からは、ワルシャワ条約機構に対するNATO(北大西洋条約機構)のように、力による圧迫感や恐怖心を与えるほうが有効なのでは。

加茂具樹 慶應義塾大学教授:
中国に対する温度感は、世界各国で同じではない。日本には問題意識や脅威感をなるべく多くの国々と共有していく地道な作業が必要。中国はそれが嫌だと思う。

五百旗頭真 元防衛大学校長 兵庫県立大学理事長:
多くの国が同盟に加われば強くなるとは限らず、ぎくしゃくもする。だから、このような同盟に至らないが強いメッセージとなる枠組みで、力による現状打破外交を慎めと言う。日本がその中心にいることは、中国にとってやはり侮りがたいという要因になる。

BSフジLIVE「プライムニュース」8月15日放送