ギターは「ボディ」が楕円形で、弦を押さえる「ネック」が細長いのが一般的だ。このデザインを採用したハサミを、刃物メーカーの「ニッケン刃物」(岐阜県関市)が開発した。
それが「Seki Sound」(セキサウンド)。ハサミの持ち手や刃をギターの部位に見立てたほか、刃にフレットや弦を描いたり、保護キャップがギターヘッドになっていたりもする。関市は“刃物のまち”として有名だが、このハサミも刃物職人が1本1本丁寧に刃付けを行っているという。
製品は全長20cm(刃渡り約7.5cm)で、カラーはブラック、レッド、メタリックブルー、パールホワイトの4種類。立てかけるスタンドも付属し、インテリアとして飾ることもできる。
Seki Soundは2021年12月9日、クラウドファンディングサイト「Makuake」で先行発売し、2日で目標金額を達成。終了までの約2カ月で約1700丁を販売し、応援購入総額は約500万円にのぼった。応援コメントには「音楽好きには堪らない企画ですね」などの声も寄せられた。
2022年7月28日からは一般販売も始まり、Makuakeストアやヴィレッジヴァンガードオンラインストア、博品館TOY PARK銀座本店、岐阜関刃物会館などで取り扱っているという。価格は税込で、ブラック、レッドが2200円から、メタリックブルー、パールホワイトが3850円からとなっている。
楽器店のギターに「ワクワク」を感じた
遊び心を感じるが、ギターの形状にしようと思ったのはなぜだろう。ハサミとしての使い心地も気になるところだ。ニッケン刃物の代表取締役・熊田祐士さんに聞いてみた。
――ハサミにギターの形状を採用したのはなぜ?
2020年春ごろ、私が楽器店でギターを見たことがきっかけです。ボディがハサミの持ち手になりそうなこと、インテリアとしても映えることに心が動き、ワクワクするかもと感じました。社内の若手担当者が趣味でギターを持っていたため、デザインなどを任せることもできました。
――開発期間と製造の主な流れを教えて。
開発期間は約1年半です。製造の流れは、クラウドファンディングと現在で若干異なります。現在の主な工程は、持ち手をプラスチック成形の金型で、刃体はプレスの金型で作ります。刃体の硬度を高めるために焼き入れをしたり磨いたりして、組み立てて1丁のハサミにしていきます。
――開発で苦労したところ、工夫したところは?
苦労はハサミの持ち手を樹脂で成形する際に思うようにいかず、傷のような跡が残ってしまい、複数の金型修正を行うロスが発生したことです。金型にシボ(ボツボツの細かい模様)を入れることで解決しました。工夫はヘッドをキャップとして見立てたことや、刃体に弦やフレットを表現したこと、ボディ裏面にバックコンター(ギターを弾きやすくするための加工)を再現したことなど、ギターの形状にリアルに近づけようと試みたことです。
――なぜ、クラウドファンディングで先行販売した?
当社はこれまでも日本刀型のペーパーナイフやハサミなどを量産前にクラウドファンディングをおこなってきました。関の刃物のブランドと共に広くPRすることができ、結果、多くの支援者を募ることができたため、今回も同様に実施しました。
“ギターっぽさ”が安全面の配慮にも
――ハサミとしての切れ味や使いやすさはどう?
関の刃物職人が1本1本丁寧に刃付けをし、均等な刃をつけているため、切れ味抜群です。刃体にはフッ素コーティングを施し、テープなどの粘着物がくっつきにくくなり、使用性もアップしています。ギターヘッドに見立てたキャップをつけることで、刃が剝き出しにならず、安全面にも配慮しました。
――ギターの形状は使い勝手に影響はする?
決して「使いにくい」ということがないように、持ち手の穴径を持ちやすいように設計しているため、使いやすいハサミとして仕上げております。
――ギターとして使うようなことはできるの?
弾くことはできません。フレットや弦は印刷なので、刃の表面に凹凸はありません。
――こんな場面に役立ててほしいなどはある?
スタンド付きのため、使わない時でも立てかけて飾れるため、部屋のインテリアとして楽しんでもらいたいです。リビングやオフィスに飾って、周りの人の注目を浴びて欲しいです。
キャップが刃を保護するので安全性もあり、スタンドに立てかけておけばインテリアとしてもなかなかの存在感だ。音楽好きだけでなく、気になる人は、手に取ってみてほしい。