沖縄本島北部や西表島が世界自然遺産に登録されてから、2022年で1年。ここにしか生息していない希少な生物も多くいるが、その生態系を脅しているのが外来種たちだ。今、情報通信テクノロジーやIoTの導入で、捕獲に向けた取り組みが大きく進化しているという。
外来種対策の最前線に迫る。

やんばるの森にすむ 沖縄の希少生物たち…天敵は外来種

2021年7月26日、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」が、ユネスコの世界自然遺産に登録された。

本島北部にのみ生息し、絶滅危惧種に指定されている、ハナサキガエル。乱獲や外来種の脅威によって数が減少している、クロイワトカゲモドキ。絶滅が危惧されている天然記念物の、ヤンバルクイナ…。

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これら「やんばるの森」(やんばる=山原。沖縄本島北部の山地の通称)にすむ希少な生き物たちを守るため、課題となっているのが、外来種の対策だ。

中でも、ヤンバルクイナを捕食するマングースを捕まえるのは、一筋縄ではいかない。

外来種の生態を知り希少生物を守る…最前線で働く研究員

野生生物保護に導入された、情報通信テクノロジーやIoT技術。「IoT」とは「Internet of Things」の略で、様々なモノをインターネットで繋いで、通信できるようにする技術のことだ。

環境省と県は2000年から、外来種であるマングースの防除事業を続けている。その捕獲方法は、主に罠。周囲には24時間自動で撮影するカメラを設置している。

このデータを解析しているのが、島嶼(とうしょ)生物研究所の研究員・手塚彩門(てづか・さいもん)さんだ。

島嶼生物研究所 研究員・手塚彩門さん:
マングースがこの罠周辺で、どういう動きをしているかどうかを把握する。餌の匂いに反応するんですけど入らなかった。そういうときもあるんですね。その場合も全部データになりますので記録します

沖縄テレビアナウンサー・後間秋穂:
県内にどれくらい罠の数があるんですか?

島嶼生物研究所 研究員・手塚彩門さん:
今140台ですね。カメラは半分設置していて、70台ですね

大宜味村(おおぎみそん)塩屋から、東村(ひがしそん)の福地ダムにかけて、マングースの侵入防止柵が設置されている「SFライン」。このラインより、北の地域のマングース根絶を目指しているという。

2020年度に捕獲されたマングースは、33匹。最も捕獲数が多かった2007年度と比較すると19分の1にまで減少していて、捕獲されるエリアも年々狭くなっている。

2020年度(左)と 2007年度(右)のマングース捕獲数の比較。数が減り、エリアも狭くなっている
2020年度(左)と 2007年度(右)のマングース捕獲数の比較。数が減り、エリアも狭くなっている

完全に排除するためには、さらにマングースの生息域を絞っていく必要がある。

しかし、捕獲数の減少により、新たな課題も生まれているという。

島嶼生物研究所 研究員・手塚彩門さん:
今500枚までいったんですけど、このフォルダだけで900枚ぐらいあるんですね。よく目が疲れます。眠くなります

手塚さんが確認しているのは、罠に設置されたカメラで撮影された画像だ。

1か月間に撮影される写真データは2万枚以上。マングースが映っていないか1枚1枚確認すると、3日もかかる。そもそも、目視で確認する作業は簡単ではない。

写真の中のマングースを探し出す難しさ

島嶼生物研究所 研究員・手塚彩門さん:
次の写真でマングースはどこに写っているでしょうか?これは難しいと思います

この画像のどこかにマングースが…?!
この画像のどこかにマングースが…?!

手塚さんがそう言って1枚の写真を見せてくれたが…一見すると、動物はどこにも写っていないように見える。

沖縄テレビアナウンサー 後間秋穂:
ちょっと待ってください…

島嶼生物研究所 研究員・手塚彩門さん:
ヒントは右上です

沖縄テレビアナウンサー 後間秋穂:
これ?!

島嶼生物研究所 研究員・手塚彩門さん:
正解ですね。本当に見えにくいと思いますけど、拡大したらマングースのお尻なんですよ

沖縄テレビアナウンサー・後間秋穂:
ちなみに手塚さんは何秒くらいで見つけられました?

島嶼生物研究所 研究員・手塚彩門さん:
5秒くらいでした

沖縄テレビアナウンサー 後間秋穂:
5秒…?!

島嶼生物研究所 研究員・手塚彩門さん:
慣れですね

マングースが映っているのは、2万枚の写真のうち、わずか1割ほど。生息数が順調に減る一方で、目視での仕分けは取りこぼしの恐れがあり、研究員の負担大きいままだ。

「IoT」導入で仕分け作業3日→○時間に…!劇的変化

こうした状況を聞きつけ協力を申し出たのは、情報通信テクノロジー・IoTを活用した自然保護プロジェクトを進める、沖縄セルラー電話だ。

沖縄セルラー電話・渡真利光訓さん:
この大量の画像を人手で仕分けしているという課題を伺った。そこに当社が持つ通信を活用した新しい技術を、ここで貢献できないかということで取り組みを開始した

2022年7月から導入されたのは、写真にマングースが写っているかどうかをAIが自動で判別するシステム。

これにより、3日かかっていた仕分け作業が、なんとたった1時間に短縮できた。

島嶼生物研究所 研究員・手塚彩門さん:
すごく早くなります。とても嬉しいですね。何時間かかる作業も、10分で終わらせたのですごいと思いました

これにより、手塚さんが確認するのはAIが自動判別したデータのみとなった。二重のチェック体制となったことで、より正確なマングースの生息状況の把握や、効率的な罠の設置につながることが期待されている。

また、仕分けの精度をさらに高めるため、マングースが写る写真にラベル付けをしてAIに学習させる「アノテーション」という作業を続けているという。

沖縄テレビアナウンサー 後間秋穂:
AIだから全部自動でパッとやってくれるのかなと思ってたんですけど、人の手で1回学習させてからなんですね

沖縄セルラー電話・冷水晴香さん:
色んな撮影地点の背景とかも学習に混ぜて、偏りなく勉強させるというところが大事です

外来種がいない本来のやんばるの森を目指す

やんばるで20年以上にわたり、マングースの防除事業に取り組んできた金城道男(きんじょう・みちお)さんは、最新のテクノロジーの導入を高く評価する。

沖縄島北部地域マングース防除事業検討委員会・金城道男さん:
この技術で、簡単にそれが識別できれば本当に有難いですよね。色んな企業がそれぞれの得意分野で、自然の保全に寄与してくれるっていうのは本当ありがたいですね

金城さんは、やんばるの写真からマングースの姿が確認できなくなる日を、心待ちにしている。

沖縄島北部地域マングース防除事業検討委員会・金城道男さん:
何年もそこで写らないっていう風になれば、そこはいないんだろうなっていう

沖縄セルラー電話・渡真利光訓さん:
今後は、沖縄の希少生物の生体の調査・把握という所に活かしていけるように。例えばヤンバルクイナであったりケナガネズミであったり、こういったものの検出モデルを作っていきたい

世界に誇る、やんばるの森。そこに住む貴重な生き物を守る取り組みは、情報通信テクノロジーで日々進化している。

(沖縄テレビ)

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