299人が犠牲となった長崎大水害から40年。その犠牲者の9割近くが、土砂災害によるものだった。長崎市内には、今もなお対策工事ができていない危険な急傾斜地が数多く存在している。

斜面と生活が一体…急傾斜地をパトロール

長崎市の茂木地区にある大崎町。天草灘に面し、斜面地を利用したビワの栽培が盛んな一方、土砂災害によって大きな被害が想定される「土砂災害警戒区域」が、町内に55カ所ある。

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40年前の長崎大水害では、町のいたるところで土砂災害が発生し、高齢の男性1人が行方不明となった。道路が寸断されて町は孤立し、海上保安部の巡視艇やヘリコプターが救援物資を運んだ。

大崎町自治会・山﨑勝則会長:
家は浸水した。当時、そのあたりは配水管がつまってプールに。雨がひどく降る時は不安ですね

2022年6月、県の担当者が町内の崩壊の危険性がある急傾斜地をパトロールした。

県治水砂防ボランティア協会・古川章さん:
(長崎大水害で)やられたところは復旧はしてるが、ここは未整備で残っていた。

この場所は、住民の生命などに著しい危害が生じるおそれがあるとして、「土砂災害警戒区域」のうちの「特別警戒区域」に指定されている。広さは約2,600平方メートルで、うっそうとした竹林が広がっている。

テレビ長崎・平仙浩教アナウンサー:
竹林のすぐそばまで来ました。距離をとっているが、それでも圧迫感があります。さらに、竹林のすぐそばに住宅があります。今も、お住まいの方がいるそうで、斜面と生活が一体となっている地域です

隣接する急傾斜地は、長崎大水害から数年以内に補強工事が行われたが、この場所は取り残されたままだ。

町民:
もし崩れたら、海岸まで土砂で埋まるのではないですかね。いつそういった状況になるか、やっぱり心配ですね。

対策工事の費用は数億円…全地権者の同意必要など“高いハードル”も

急傾斜地の下には、10軒以上の住宅や公民館がある。住民たちが危険と隣り合わせの中で暮らし続けてきたのには、「ある理由」があった。

町民:
農地を取られるんですね。ビワ山があったんですが、そこを渡したくないと、(一部の地権者が)反対して

急傾斜地の対策工事の費用は、数億円に上ることもある。県や市に対策工事を要望するには、土地の「無償提供」が必要で、地権者全員の同意を得なければならない。
このような高いハードルもあり、県内で対策工事が必要な急傾斜地4,100カ所余りのうち、工事を終えたのは1,201カ所と、全体の3割にも届かない現状がある。

また急傾斜地では、対策工事をすることで別の問題が発生するおそれもある。

町民:
あの上に家がある、民家が。竹を切ったら風が当たるんですよ。竹が切られたら、その家の屋根は飛ばされるのではと心配している

大崎町を含む茂木地区では、長崎大水害以降も大雨のたびに土砂災害に悩まされてきた。専門家は、茂木地区の地形の特徴に注目している。

長崎大学大学院工学研究科・蒋宇静教授:
大崎町を含む茂木地区においては、地質条件として強度が弱い。すべりやすい構造になっておりますので、潜在的に地滑りが発生しやすい。雨が降って水が集まりやすい地形にもなっている。災害が発生していなくても、平常時でも防災意識を持っていただきたい

人口の半数超が高齢者…災害起きても避難難しく

7月13日、茂木地区の自治会などが、県の長崎振興局を訪れた。
大崎町は、ようやく地権者全員から土地の「無償提供」の同意が得られ、急傾斜地の対策を要望した。県は他の条件も満たしたことから、来年度から事業に着手できるよう手続きを進めるとしている。

長崎振興局・植村公彦建設部長:
早期の事業着手に向けて、努力してまいりたい。対策ができるまでに相当な時間がかかると思うので、住民の皆様も日ごろから身の回りの危険なところを把握していただいて、いざという時、どう対応したらいいか考えていただければ

40年の歳月を経て、前進し始めた急傾斜地対策。

しかし、工事の完了までには、少なくとも5年以上がかかると見られている。

大崎町自治会・山﨑勝則会長:
(災害が起きても)高齢者は家から出たがらない。足が悪い、耳が遠いとか、そこらへんがネック、避難するにあたって。家は建て替えたらいいが、人は生き返りませんから

大崎町の人口の半数以上は高齢者だ。
少子高齢化が進む地区で、いかに人命を守るか。ハードとソフト、両輪での対策が急務だ。

(テレビ長崎)

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