2025年に施行される「拘禁刑」。受刑者の年齢や特性に合わせた刑務作業と、再犯防止に向けた指導につなげる狙いがあるというが、服役後、保護観察所で希望する支援を受けられなかったと、再び事件を起こした事案から考える。

薬物依存や性犯罪、受刑者の年齢 それぞれに必要な指導を

拘禁刑とは、刑務作業を義務付けた「懲役刑」と、義務化されていない「禁錮刑」を一元化したもの。導入には、受刑者の年齢や特性に合わせた刑務作業と、再犯防止に向けた指導につなげる狙いがある。

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薬物依存や性犯罪などの受刑者には、再犯を防ぐ教育プログラムを。若い受刑者には、基礎学力などを身につけたり、出所後の就労支援などに力を入れる。また、身体的な衰えが深刻な高齢受刑者には、出所後の社会復帰に向けた体力や認知機能の回復を図るリハビリなどの取り組みが進められることになる。

福島県内での再犯率は50%を超え、高齢者の再入所率は67.7%。再犯の防止とともに、罪を犯した高齢受刑者の社会復帰も課題となっている。

保護観察所からの支援得られず「死ねということか」

2022年7月20日、殺人未遂罪で判決を受けた住所不定・無職の70歳の男。判決によると、男は2021年11月に福島県のJR福島駅西口で男女2人を包丁で刺し、無差別に他人を殺傷しようとした。

判決公判で福島地方裁判所の三浦隆昭裁判長は、「保護観察所に支援を断られた恨みから犯行に至った動機は極めて身勝手というほかなく、出所直後に短絡的に犯行に及んだことは、厳しい非難に値する」と指摘。

争点だった「殺意の有無」については、「人が死ぬ危険性の高い行為と認識していた」として殺意を認定した。その上で「規範意識は乏しく、真摯な反省の態度も見られない」として、男に懲役11年を言い渡した。

男が繰り返し述べた保護観察所への恨み。「事件を起こし、報道されれば、保護観察所の職員の対応が世間に非難され、恨みを晴らせると思った。保護観察所に断られた時の悔しさと情けなさで、部屋で何回涙を流したかわかりません。ここでやるしかないと思いました」などと凶行の動機を明らかにした。

男は2009年に自宅アパートに火をつけた放火罪で服役し、2017年に出所。その後、保護観察所で更生施設への入所や生活支援などを求めたところ、希望する支援を受けられなかったとしている。男は、この時の気持ちを「どうしよう。自分に死ねということなのかと思いました」と述べ、強い恨みを持ったとしている。

警察官に取り押さえられた70歳の男
警察官に取り押さえられた70歳の男

その直後、所持金が底をついたことなどからコンビニエンスストアで強盗未遂事件を起こし、再び服役。服役中に今回の犯行を計画し、出所した当日に包丁を購入するなどして、3日後に駅前で男女2人を切りつけた。

地域住民の理解が重要 入所の判断や見極めには難しさも

福島保護観察所によると、本人の希望や前科などを総合的に判断して支援を検討しているという。

住む場所の支援を希望した場合は、更生保護施設の入所が検討されるが、一般的に放火など重大事件の前科や再犯を繰り返している場合や、更生の意欲が低いと判断される場合には、施設への入所は難しいケースもあるとしている。

就労や住居の確保など、社会復帰の準備期間として出所者のよりどころとなる更生保護施設は、地域住民の理解が欠かせない。実際に建設の際に大きな反対運動が起きたこともあり、入所の条件は地域住民の意向も踏まえて細かく規定されている。

福島保護観察所は「地域社会との関係は重要で、入所の判断や見極めには難しさもある」としている。

再犯防止には「出所者を排除しない心と行動が大切」

犯罪や非行をした人の更生保護などに詳しい福島大学の高橋有紀准教授は、出所者の立ち直りを支援する社会作りの重要性を訴えている。

更生保護に詳しい福島大学の高橋有紀准教授
更生保護に詳しい福島大学の高橋有紀准教授

福島大学 高橋有紀准教授:
支援が受けられず、本人としては絶望感であったり、不信感というのを強めてしまった部分はあると思います

福島県内の場合、出所者の社会復帰を支援する更生保護施設は1カ所。定員は24人と、全ての希望者を受け入れることはできない。

出所後の働き先として協力する民間企業などは県内に447社あるが、実際に雇用に至っているケースは10社にとどまっている。

適切な行き場のない出所者の約6割が1年未満に再び罪を犯していて、高橋准教授は出所した人を排除しない心と行動が大切だとしている。

福島大学 高橋有紀准教授:
私たちには関係ないというのではなくて、私たちや自分の身近な機関でも何かすることができたんじゃないかと受け止めてもらうことが、今後似たような事件をまた起こさないという観点でも非常に大事かなと思います

再犯を防ぐためにも、更正の意志を持つ人の不安を取り除き、受け皿を作ることが課題となる。

(福島テレビ)

福島テレビ
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