守られていなかった二つの「黄金則」
安倍元首相銃撃事件の際の警備は、米国のシークレットサービスの「黄金則」を二つまで守っていなかったとされる。

そう指摘したのは、米国のフォックス・ニュースのキャスターで、保守派の評論家として知られるダン・ボンジーノ氏。
同氏は1999年から2011年まで米大統領を警備するシークレット・サービスの「スペシャル・エージェント(特別警備官)」を務め、ジョージ・W・ブッシュ大統領の身辺警護を担当したほかシークレット・サービス訓練所の教官もした経歴の持ち主なので、今回の事件をどう見るか注目していたが9日、自らの番組「 UNFILTERED(濾過されない情報)」で、現場では警備の「黄金則」が一つならず二つも守られていなかったと断じた。

「黄金則の一つは要保護者ファースト」
番組では司会のボンジーノ氏がゲストでやはりシークレット・サービスOBのチャック・マリーノ氏を紹介した後「警備の「ゴールデン・ルール(黄金則)」の一つに「要保護者を守ることを最大限に、問題への対応は最小限に」という原則があるのに守られていなかったと言う。
演説中の安倍元首相の背後で銃声と白煙が上がり元首相が振り返ると一瞬おいて2発目の銃声がして元首相が崩れるように倒れ、警備の係官は「要保護者」の元首相ではなく「問題」の銃撃した人物の上に折り重なるように捕らえている映像を見せてこう言う。

ボンジーノ氏:
チャック、我々は警備の際は「要保護者ファースト」で(銃撃など)「問題ファースト」にしてはいけないと叩き込まれたね。でも今回はそうではなかったね
マリーノ氏:
その通りだね。それとショックからか警備陣の反応にポーズ(遅れ)があったね。銃犯罪が極めて少ない国なのである種の油断があったのかもしれないね。それと、容疑者が元首相の背後から近づけたことは大きな問題だよ

ボンジーノ氏:
さっきシークレット・サービス時代の友人と話したのだが、彼はボクがシークレット・サービス時代は前向きに歩くよりも、後ろ向きに歩く方が多かったなんて言っていたよ。もちろん冗談だけど、ボクらが任務につく時はいつも要保護者の「ザ・シックス(6番)」と呼ぶ後方を護っていたね」
「黄金則の二つ目はザ・シックス(6番)を警戒せよ」
ボンジーノ氏はここで1995年のイスラエルのラビン首相の暗殺現場の映像を見せながら話を続ける。
「暗殺者は首相の後ろにいる」
「誰も「6番」を警戒していない」
「そして、背後から暗殺者が近づいて銃撃が起こる」
「それでおしまいだ」
「首相は殺された」
「「6番」を護らなければならない」
「それは警備の「黄金則」なのだ」
ボンジーノ氏はここでも「鉄則」よりも大事だという意味でか「黄金則(ゴールデン・ルール」という表現を使った。
警備で守る人物の背後をなぜ「6番」と呼ぶのかインターネットで調べてみると、時計の文字盤に倣った表現だということが分かった。正面は「12番」右を「3番」左は「9番」で、背後は「6番」になる。軍隊で「3番から敵が襲撃!」と言うように使われた用語が警備や警察でも引用されるようになったのだとか。

それはともかく、今回の安倍元首相銃撃事件の警備の問題は国家公安委員会で検証され要人警護のあり方が再検討されるようだが、米国のシークレット・サービスの「黄金則」も参考にされることだろう。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】