ロシアによる侵攻を受けて、ウクライナのトップバレリーナが、神戸に避難している。
終わりの見えない異国での暮らしの中で、生きる道を取り戻す姿を追った。
(外国語を日本語に翻訳した部分は『 』で表します)

戦火を逃れたバレリーナ 娘とともに神戸へ

オレナ・ドブリャンスカさん。
世界各地で公演を重ねてきた、ウクライナのバレエ劇場の最高位のバレリーナだ。

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オレナさんのこれまでの人生は、ステージと共にあった。
しかし、2月に始まったロシア軍の侵攻で、所属していた劇場が閉鎖。
オレナさんの活躍の場は、奪われた。

細かな細工が施された頭飾りは、オレナさんが大切にウクライナから持ってきたものだ。

オレナ・ドブリャンスカさん:
友人のバレリーナが作ったの。(避難のとき)他にもいろいろ持ってきたかったけど、無理だった

オレナ・ドブリャンスカさん:
『リニューアルされた飛行場の滑走路は爆撃されました。爆弾で破壊されたのです。私の家のすぐ近くで起きたことです。国から国へと避難して、どうなるのか分からなかった。明日、何が起こるかさえも分からなかった』

故郷のオデーサでは、夫や親戚たちと一緒に暮らしていたオレナさん。
爆撃が激しくなる中、兵士になった夫を残して、娘との避難を余儀なくされた。

ウクライナを出て1カ月半、ヨーロッパ中を転々としてたどり着いたのが、日本だ。
支援してくれたのは、オデーサから神戸に移り住んでいた先輩のバレリーナだった。

オレナさんは、神戸市の支援を受けて市営住宅に住み、避難してきた他のバレリーナたちと協力しながら生活している。

「戦争が起きていなければ…」避難民として暮らす日々

サーシャさん:
おはようございます、ありがとうございます、こんにちは、こんばんは…
『(話せる言語は)日本語、英語、ウクライナ語と…ロシア語は、話せるけど話したくない。ロシア…』

神戸に来て数カ月。8歳の娘のサーシャさんは、少しずつ日本での暮らしに慣れてきた。

けれど、オレナさんはもうずっと、バレリーナとしてステージに上がることができていない。

オレナ・ドブリャンスカさん:
バレエは、みんなと力を合わせて作った世界のようなもの。お互いの魂を合わせて作り上げる、大切な子供のような存在。つらくなったときは、戦争が起きていなければ、どんな生活をしていたかを想像します

言葉も文化も違う日本で、生計を立てる道を模索していたオレナさん。
支援してくれた先輩の紹介で、バレエのコンクールで講師を務めることもあるが…

オレナ・ドブリャンスカさん:
(体を)長い線のように…
『ごめんね、英語が上手じゃなくて。私が言いたいこと、理解できる?』

トップバレリーナでも、避難民として生活する今、一から仕事を見つけるのは簡単ではない。

コンサートへの出演依頼 踏み出した第一歩

日本に避難して2カ月がたったある日、オレナさんの元に、思いがけない話が舞い込んできた。

守山俊吾さん:
『こんにちは!お会いできて光栄です』

オレナさんの状況を知った指揮者の守山俊吾(80)さんが、自身のコンサートで急きょバレエの演目を追加。
オレナさんが出演することになったのだ。

守山俊吾さん:
私たち音楽家も何かできないかと考えて、こういうコンサートを企画しました。戦火の中で本当に生きるか死ぬかという中でも、芸術に対して踊りに対して、真摯(しんし)に向き合っている姿を見ていただいて、私たちはそれを肌で感じて、彼女たちをサポートできたらと思ってる

オレナさんはウクライナで兵士となった夫と、毎日、何度も電話で話している。

オレナさんの夫 エヴゲンさん:
『こんにちは!(電話越しに写るペットの猫について)うちの猫だよ』

オレナ・ドブリャンスカさん:
『猫のスーザナよ』

家族との暮らし、ステージでの舞い。奪われた時間を取り戻すべく、オレナさんは練習に励む。
コンサートへの出演が、日本で踏み出す新しい一歩だ。

オレナ・ドブリャンスカさん:
『私が願うことは一つ、戦争ができるだけ早く終わること。(私が踊ることで)皆さんにも応援していただきたいです』

「生きる道」を取り戻す…日本で舞う白鳥

6月、大阪で開かれた、ウクライナの人道支援コンサート。
今も侵攻を受けている故郷のためにできることは、ここで最高のパフォーマンスを見せること。
オレナさんは、サン・サーンスの名曲「瀕死(ひんし)の白鳥」を舞う。

白いチュチュに身を包み、美しく舞うオレナさん。
故郷から持ってきたティアラが、照明を浴びてキラキラと光る。
譜面台の並ぶコンサートホールが、在りし日のウクライナのバレエ劇場になった4分間。

最後は娘のサーシャさんも一緒にステージに上がり、万雷の拍手に応えた。

観客:
特にバレエがよかった。つま先とかがきれい

観客:
お父さんが戦争に行かれてるという話も聞いて、娘がいるので同感して感動しました

観客
悲しそうなね、最後倒れこむ…ウクライナの現状を見るようで、早く戦争が終わってほしいと思うだけです

コンサートを聴きに来た観客の心を、オレナさんのバレエは揺さぶった。

オレナ・ドブリャンスカさん:
『日本の人々が私たちの窮状に気を配ってくださり、とても感謝しています。私はバレリーナとして、日本の観客を喜ばせたい。今後、うまくいくことを願っています』

平和な故郷に帰れる日がいつになるのか分からない。
それでも、オレナさんは舞い続ける。

(関西テレビ「報道ランナー」2022年6月28日放送)