シリーズ「名医のいる相談室」では、各分野の専門医が病気の予防法や対処法など健康に関する悩みをわかりやすく解説。

今回は筑波大学付属病院 血液内科 医療科学類教授の小原直医師が、完治が難しい血液のがん「多発性骨髄腫」について解説。「白血病」との違いや、他の病気を引き起こす危険性とコロナの重症化リスク、さらに最新の治療法と予防法についても解説する。

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多発性骨髄腫とは

多発性骨髄腫は、血液の細胞の中で抗体やタンパク質を作る形質細胞が悪性化した「形質細胞のガン」です。タンパク質を多く作る細胞が無制限に増える病気なので、腎臓が悪くなったり、貧血が脆くなる病気です。

完治するのが非常に難しく、大体60代~80代の比較的高齢の方に多い病気です。頻度は低いですが、30代~50代の方もたまに発症します。男性の方が多少多いです。

肺がんや乳がんに比べると比較的珍しいがんですが、年間約数千人の方が発症すると言われています。

代表的な症状は、貧血腎機能障害です。骨を脆くするホルモンを出すので骨粗しょう症によって年齢の割に異常な骨折をしたり、免疫を司る細胞の悪性化なので感染症に非常に弱くなります。

初期の症状は明確なものが無いことが多く、現在の日本では健康診断で見付かる場合が多いです。検診で貧血があったり、尿の所見がおかしいといった腎機能障害などで見付かる場合が多いです。

また、骨が痛いとか骨折をきっかけに整形外科を受診して多発性骨髄腫が見付かる場合もあります。

多発性骨髄腫は比較的ゆっくり進行することが多い悪性疾患と言われています。ただ、個人差があり、ゆっくりな方は10年とか非常に長い時間をかけて進行しますが、早く進行してすぐに治療が必要になる人もいます。

血液のがんの一種、白血病との違い

白血病も多発性骨髄腫も血液の細胞の一部が悪性化した疾患ですが、悪性化する細胞が違います。

骨髄の中では白血球がいろんな段階を踏んで成熟して全身にばらまかれるので、どの段階で悪性化したかで症状や治療が全く異なります。

多発性骨髄腫は、形質細胞というタンパクを作る細胞まで分化した細胞が悪性化したもの。

白血病は、その前の血液細胞が成熟するかなり早い段階で遺伝子異常が起きて悪性化していろいろな症状を起こす病気です。

別の病気につながる可能性も

多発性骨髄腫の親戚で、アミロイドーシスという病気があります。

アミロイドーシスは、多発性骨髄腫の原因となる形質細胞が異常なタンパク質を産生して、それがいろいろな臓器に溜まっていくことで臓器障害を起こす病気です。

心臓、消化管の胃とか腸、あるいは神経などにアミロイドという異常なタンパク質が蓄積することで臓器障害心不全、腸に溜まれば吸収障害が起きます。

また、血液疾患全般としてコロナウイルスは非常にリスクがあります。

その中で多発性骨髄腫は、免疫を抑える薬をよく使ったり、ステロイド剤をよく使うので、治療中の人はコロナウイルスが重症化する非常に大きなリスクがあります。特にクラスターが起きた時は、重症化して亡くなる方がかなり多く報告されたので、今後も非常に注意する必要があります。

治療法と予防法

具体的な治療法は、何種類かの抗がん剤を組み合わせて行います。広い意味では抗がん剤ですが、ここ数十年で新しい薬、新規薬剤といって、多発性骨髄腫を特に攻撃する分子標的薬を複数組み合わせて治療することが多いです。

これにステロイド剤を組み合わせるのが最もスタンダードな治療です。

新規薬剤は、プロテアソーム阻害剤免疫調整薬が主に使われています。

若年の特に70歳以下の方で体力のある人は、自家移植といって、自分の造血細胞をとっておいて大量の抗がん剤をやった上で造血を回復させる治療を行うことが多いです。

比較的難しい疾患なので、治療が長く継続されることがあります。患者さんの費用負担も増えます。多くの場合は、高額医療制度で収入に応じて一定以上の医療費は負担してくれるので、ほとんどの場合はこの制度を利用しています。

完全に治すのはかなり難しいです。現在では様々な薬を組み合わせて、さらに取り替えていくことも行われているので、10年、10数年と元気でいられる方がいます。ほぼ治ったと言える方もごく一部いることも事実です。

ただ多くの場合は、治療をやっていくうちに効かなくなり、別の治療に切り替えることを繰り返すことになります。

多発性骨髄腫の予防のためには基本的にはバランスよく食べて適度に運動することが主治医から勧められます。

治療でステロイド剤を多く使いますが、ステロイド剤は副作用として糖尿病や高脂血症になることがあります。もともと糖尿病や生活習慣病がある人は少し治療がやりにくくなることがあるので、普段から生活習慣を改めることは間接的に悪くないです。

それから検診で見付かる方が多いので、日頃からしっかりと検診を受けることが重要です。

記事 1 小原直

所属:筑波大学医学医療系医療科学・血液内科
職名:教授
生年月日:1970年8月13日
略歴:1995年3月 筑波大学医学専門学群卒業・1995年4月 筑波大学研修医・2005年3月 筑波大学大学院修了・2005年4月 筑波大学血液内科医員・2007年4月 筑波大学血液内科講師・2014年4月 筑波大学血液内科准教授・2020年6月 筑波大学医学医療系教授