いま高専が熱い。

高専と呼ばれる高等専門学校が生まれたのが、日本が高度成長期を迎えた1962年。今年60年目を迎えた高専が、なぜあらためて注目されているのか?取材した。

eスポーツ、阿波踊りロボットから地域連携まで

徳島県阿南市にある阿南工業高等専門学校(以下阿南高専)。ここでは本科と専攻科の計839人の学生たちが(5月1日現在)、機械や電気、プログラミングなどの情報や建設、化学の知識や技術を学んでいる。

徳島県にある阿南高専は839人の学生たちが学んでいる。
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徳島阿波おどり空港に降り立つと、施設にあるのは阿南高専の学生が制作した「阿波踊りロボット」だ。そのユニークな姿は、高専ロボコンでも多くの人を魅了した。

また阿南高専ではeスポーツにも積極的に取り組んでいる。全国トップレベルの実力を持つeスポーツ研究会では、所属する15人の学生が日々トレーニングを行っている。

高専ロボコンで多くの人を魅了した「阿波踊りロボット」

もちろんそれだけではない。

阿南高専では「Society 5.0」の時代に向けて、地域企業と連携し学生たちが企業課題の解決を目指す。また「大人の高専」と名付けてリカレント教育の場を提供しデジタル人材を育成。さらには地元の小中学校に学生が出張しSTEAM教育を行うなど、自治体との連携も密にしている

その集大成としてキャンパス内に地域・海外との交流拠点「フェニックスプロムナード」を計画中だ。

キャンパスを地域・海外の交流拠点に変える計画も

テクノロジーとデザイン、起業家精神を学ぶ

そして同じ徳島県の神山町に2023年4月に開校予定の私立高等専門学校の「神山まるごと高専(仮称)」。一見奥深い山間の過疎地域に見える神山町だが、海外から移住したアーティストや、「風の人」と呼ばれる一定期間滞在の人々で地域に創造と活気があふれている。

神山まるごと高専を創業した、クラウド名刺管理サービスのSansan株式会社社長の寺田親弘氏もこの地に魅了された一人だったという。

神山まるごと高専は全寮制で、初年度学生数は40人の予定だ。

「いま、高専は最も注目されている学びのシステム」だとして、授業はアクティブラーニング型の講義と課題解決型の実践的学習を組み合わせる。学ぶのはテクノロジーとデザイン、そして起業家精神だ。

テクノロジーではプログラミングやアルゴリズム、AIやデータ分析など、デザインではWebから建築設計、映像、3DCG、ゲームエンジンまで学ぶ。そして毎週様々な起業家講師が訪れ、生徒たちと体験を共有する。

徳島県神山町に神山まるごと高専が来年開校予定だ

高専の良さを生かしながら他分野を取り入れる

学校長に就任する予定の大蔵峰樹氏は、国立福井工業高等専門学校の卒業生で現在ZOZOTOWN創設メンバーの一人だ。神山まるごと高専開校に向けた想いを大蔵氏はこう語る。

「私自身が高専卒業後、仕事を通じて学んだことは、技術者がデザインや起業家精神の知識と本質を理解していることの重要さです。そして、これらの複合的知識と経験を持ち合わせた人材は Society5.0 社会においても重要だと考えます。これまでの高専の良さを活かしながら、他分野を取り入れた新しいカリキュラムで様々な可能性を示せるようにチャレンジしていきたいと思います」

学校長に就任予定の大蔵氏も高専出身だ

「何かやってみたい、作ってみたい」気持ち

東京工業大学の益一哉学長は神戸高専の出身だ。益学長に「なぜいま高専なのか」、その魅力を聞くとこんな答えが返ってきた。

「私が高専に入ったのは昭和45年(1970年)、高度成長期です。多くの友人、私もそうですが、中学校を卒業した時点で、何かやってみたい、作ってみたいという気持ちを持っていました。最近多くの高専生と話しても、同じ気持ちであることを知りました。これこそ高専の伝統を築き上げてきた大きな強みだと思います」

益学長は子どもだった頃、モーター駆動のプラ模型を作ったときに規定以上の電圧で動かしてみると、「パワーアップするけれどモーターが焼き切れたので何故だろう」と思ったことが高専を目指す原体験としてあったという。

「昔は家庭の電気容量がそんなに大きくなく、良くブレーカーが落ちました。電機製品を沢山使うと駄目らしいということは分かったのですが、コンセントをワイヤでショートさせてみるとブレーカーが落ちたので、電流がたくさん流れるとマズいのかも知れないと思った。こうした原体験が、中学校を出てすぐに何かをやってみたいという気持ちに繋がったと思います」

東工大の益学長「高専を目指した理由は、何かやってみたいと思ったから」

多様性がイノベーションを起こす源泉に

益学長に高専への期待を聞くと、「多様性がイノベーションを興す源泉」だと答えた。

「多くの高専は数クラスで、1年生から5年生。専攻科の2年もいれると7つも年齢の離れた学生がひとつの場所で学んでいます。また出身も高校に比較すると広域から集まっています。この多様性が将来もイノベーションを興すひとつの源泉であると期待したいです。国立高専機構では、我が国の高専教育をアジア新興国での技術者教育として拡げようとしています。この試みは非常に重要です。アジアの国との連携は、アジアへの貢献のみならぶ我が国の成長と発展のひとつです」

一方で、高専が抱える課題とは何か?益学長はこう強調する。

「高等学校レベルの様々な教養科目(理系、文系)、さらには大学レベルの専門科目を5年間で学ぶことは、やはり詰め込み的な要素があるかと思います。また、理工系という同じような考え方を持った人の集まりということもあります。これを理解した上で、多様な考え方や多様な経験を積めるように、教える側は強く意識する必要があると思います」

多様性がイノベーションを産む源泉に

次の産業を作り支える人材輩出を期待

高専は今年創立60年を迎えた。最後に益学長に「今後高専はどうあるべきか?」を聞いた。

「最初の高専が創立したのが昭和37年(1962年)、我が国の高度成長を支える技術者養成が喫緊の課題となっていた時です。いま日本のみならず世界の産業は当時とは大きく変化し進化成長しています」

そして益学長はこう続ける。

「翻って高専の学科構成などをみると、本当に日本の産業を発展させるものに進化しているだろうか。昨今騒がれているデータサイエンス、AIを初めとする情報分野。日本の次の産業を創り、支える人材を産むことの重要性を今一度認識して、高専が大きく進化成長することを期待したいです」

日本の次の産業を創り、支える人材を産む

初任給やタテヨコの連携が今後の課題

高専は今国立で51、私立が3、公立が3,そして神山高専が加わると2023年4月から58高専となる。独立行政法人国立高等専門学校機構(国立高専機構)の坪田知広理事はこう語る。

「高専は設立時から、手を動かしながら知識を習得してアウトプットするということをやっていた。つまり60年前からアクティブラーニングをやっていて、時代が追い付いて来た感じです。今後はこれまで扱ってこなかった農業や医療も取り入れ、大学と組んで医工連携や農工連携も進めていくのが大事です」

そして坪田理事はこう強調する。

「高専の求人倍率は20倍以上あると言われる中、高専生が有する実践的な知識やスキルに応じた初任給(現在は大卒以下がほとんど)や入社後のキャリアパスが整備されればと思います。また学校間の交流がもっとあってもいいなと思っています。生徒が移動しなくてもリモートで他校の先生の授業を受けられるとか、大学とも連携することが今後の課題ですね」

日本の経済成長の原動力となってきた高専。次世代に向けたアップデートへの期待は大きい。

次世代に向けたアップデートへの期待は大きい

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

記事 429 鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。