77年前の沖縄戦の最中、海軍司令官が県民の苦境と後世の特別な配慮を求めた電文「沖縄県民斯ク戦ヘリ」。
戦火の中の住民の犠牲を物語る、電文の信号音が再現された。打電した通信兵の遺族が、慰霊の旅で沖縄を訪れた。

「最後はここで命を…」戦死広報で知った父の死

沖縄・豊見城市にある旧海軍司令部壕。2022年から77年前の1945年6月6日、戦況が悪化していく中、大田實司令官はこの壕から海軍次官に電文を宛てた。

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「沖縄県民斯ク戦ヘリ」その内容は、戦火に追われた県民の厳しい状況を伝え、戦争が終わった暁には特別の配慮を求めたもの。電文から7日後、大田司令官と幹部は手りゅう弾で自決した。

大田司令官が自決した6月13日に執り行われる2022年の慰霊祭当日、壕の中で電文の信号音が再現された。

荒川一登通信兵の息子 荒川恒光さん:
ここで自決した遺体が3体あったということで、私もここで父が亡くなっていると思っております。やっぱり通信兵っていうのは最後まで司令官の側で、あるいは指令室の側で業務をやらなきゃいかん立場だったと思いますので、最期はここで命を全うしたんだろうと思っております

大田司令官の電文を打電したとされる荒川一登通信兵の息子、荒川恒光さん。終戦から2年後に届いた1枚の戦死広報で、荒川さんは父・一登さんの死を知らされた。

荒川一登通信兵の息子 荒川恒光さん:
生きていないっていうことを確認したうえで、戦死広報はきたんで、だから何もなくって。
ただ白木の箱に、どこの石かわからないようなのが入ってた程度で

遺品となった印鑑「生きている間はここを訪れたい」

父親の遺骨は、旧海軍司令部壕から戦後に収集されているはずと、手を合わせてきた。
遺骨も遺品もないまま時は流れ、警察庁の技官となった荒川さんは50年前の1972年、本土に復帰したばかりの沖縄に赴任した。

父親の名前が刻まれた熊本・火之国の塔を参拝しようと、着任直後の6月1日、訪れた摩文仁で父の遺品とめぐり合う。

荒川一登通信兵の息子 荒川恒光さん:
これがその印鑑なんですね。入ってたのはこの袋で、これを見た瞬間、こういうのを残りを持ってたもんだから、それで見た瞬間も、これは間違いないということで出してもらって、確認したっていうことだった

父と母が揃いで作った黒檀の印鑑。余った材料はいつか息子の印鑑になると母が保管し、荒川さんに引き継がれた。

荒川一登通信兵の息子 荒川恒光さん:
父に会うっていうことの気持ちが強くて、やっぱりこの地に眠ってるっていうことは間違いないことなんで、だからやはり私が来れる間は行きたいなという気持ちで

父親が最期を迎えた場所、そして県民が巻き込まれた地上戦の犠牲の大きさを、あの電文から感じている。

犠牲の大きさ伝える電文…日本人が忘れてはいけないこと

荒川一登通信兵の息子 荒川恒光さん:
沖縄の方々が犠牲になっておられる方々多いし、大田司令官の「沖縄県民斯ク戦ヘリ、後世特別のご高配をたまわらんことを」と。この言葉っていうのは、私達日本人は忘れてならないことだと思うし

大田司令官の電文(原文を現代文に直したもの): 
沖縄に敵の攻撃が始まって以来、陸海軍とも防衛のための戦闘に専念し県民をほとんどかえりみる余裕もありませんでした。県民は、青年も壮年も防衛のために駆り出され、残った老人・子ども・女性のみが砲爆撃の下でさまよい雨風にさらされる貧しい生活。一本の木、一本の草さえすべてが焼けてしまいました。沖縄県民はこのように戦いました。県民に対して後世特別のご配慮をしてくださいますように。

【原文を現代文に直したもの】
【原文を現代文に直したもの】

再現された信号音…戦争知らない世代にその重みを

父はどんな思いで電文を打ったのか。県民に強いられた苦難を思い、荒川さんは沖縄を訪れている。

荒川一登通信兵の息子 荒川恒光さん :
モールス符号で再現されました。通信兵として従事したお父さん。モールス信号を聞き、この壕で改めて、当時のことを思い描いています。大田司令官以下、海軍壕に眠る御霊のご冥福をお祈りいたします

第一級陸上特殊無線技士などの資格を持ち、今回、信号音を再現させた古堅政尚さんは平和への願いをこめて再現に取り組んだ。

信号音を再現させた古堅政尚さん:
音声で、その当時の電報をきちっと伝えていく。そうすれば、より理解できるんじゃないかなというところが出発点です。このような電報が二度と打たれるようなことがないことを、私は願っております

再生装置を旧海軍司令部壕の資料館に提供して、訪れた人がいつでも聞けるようにした。
沖縄戦で強いられた犠牲を思い綴られた電文は、77年経った今、再現された信号音にのって戦争を知らない世代にその重みを伝えていく。

(沖縄テレビ)

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