6月21日の「世界ALSデー」に合わせて公開されたミュージックビデオ。出演している岡山県倉敷市の男性は、全身の筋肉が衰え、やがて死に至る難病「ALS」と闘っている。

決断の時が迫る中、残された時間に向き合う男性の姿を追った。

自分で食事ができなくなり、体重は18kg減

決断を下す日が迫っていた。

直樹さん:
迷惑をかけている、という気持ちが大半を占めているので。ここで迷惑をかけ続けてもよいのか

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倉敷市に住む直樹さん(43)。今から4年前、指定難病ALSと診断された。ALS(筋萎縮性側索硬化症)は、全身の筋肉が次第に動かなくなる原因不明の病気で、発症後3年から5年で自発呼吸ができなくなり、やがて死に至る。現在、治療法はない。

全国で約1万人、岡山県内では約180人がこの難病と闘っている。

2021年7月、直樹さんが夫婦で経営する理容室。理容師として10年以上歩んできた直樹さんだが、ハサミが握れなくなり、わずかに動く左手を使って仕事をしていた。

1年前は自分で食事ができていた直樹さん、今ではそれもままならなくなり筋肉が低下。体重は18kg減った。病気は日ごとに進行している。

この先に待ち受けているのは、人工呼吸器をつけるかどうかという命の選択。

直樹さん:
想像の世界だが、自分で呼吸ができなくて、自分で思ったことができない…。体を動かせないというのが、果たして幸せなのかなというのは、常に思っている

人工呼吸器装着に苦悩 妻「生きてほしい」

人工呼吸器をつけるのはALS患者の3割。つけることで命をつなぎとめることはできるが、体はやがて動かなくなり、寝たきりの状態になる。

1日でも長く生きたい。延命することで、家族の負担になりたくない。相反する2つの選択肢に、直樹さんとその家族は揺れていた。

直樹さん:
何もしない、呼吸器もつけないし、おなかに穴をあけて栄養を取るなども一切しない。家族に対する思いが、何もしないという選択が正解なのか、どういう手段を使ってでも生きていくのが正解なのか、まだわからない

妻・弥佳さん:
常に痛みと闘いながら、家族のために生きてくれているので。これ以上なかなか言いにくいが、本当はどうにかしてでも生きていてほしい

倉敷市で家族4人で暮らす直樹さん。突きつけられた選択に向き合いながらも、前を向くことを決して忘れていない。

直樹さん:
健康だった時は、生きる意味というのは多分、わからなくて。今こうやって病気になって、本当に大事なものが自分の身の回りにいっぱいあるということにも気付いたので。なるべく笑って過ごせるように、やっていくことはできるかな

生きる力を…難病と闘う家族へ

そんな直樹さんのもとに、ある依頼が舞い込んだ。シンガーソングライターとして活動するHanaさんが、直樹さんの思いに共感し、新曲のミュージックビデオの出演を依頼したのだ。この日はその撮影日。

シンガーソングライター Hanaさん:
命がある限り、いろいろな可能性もある。限られた世界の中でも、一生懸命前を向いている人の姿を撮りたいと思っていた

音楽活動をしていた知人が、ALSと診断されたことがきっかけで音楽の世界に飛び込んだHanaさん。活動の収益は、ALSの支援団体や医療機関に寄付している。

今回の新曲には、ALSなどの病気と闘う人やその家族に向けて、生きる力を与えたいという思いが込められている。

撮影後、Hanaさんは、直樹さんとその家族に向けて生歌を披露した。

I will be your voice to sing
I will be your hands to link
君がそこにいれば それでよくて
Don't give up for me Don't give up for me
どんな時も 側にいるよ
I'm always by your side

直樹さん:
体が動いていた頃を何回も考えて、悔しいという気持ちが今まであって。前向きに生きていけるという気持ちが強くなった

不治の病に立ち向かう直樹さん。ALSがつないだ新たな出会いは、折れそうになるその心に再び温かな炎をともした。

(岡山放送)

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