子どもたちの可能性を無限に広げる。そのための環境をつくるのが大人の役割だ。湘南、東京、福岡で行われている学びの取り組みを取材した。

困難を乗り越えて生きる力を養う

神奈川県藤沢市の湘南海岸近くにある築85年の日本家屋が、湘南ホクレア学園(以下ホクレア)だ。

ホクレアはドイツで生まれオランダで発展したイエナプランを学習コンセプトにした、6歳から12歳の子ども12人が通う今年開校したばかりのオルタナティブスクール。

江ノ電江ノ島駅近くの日本家屋が湘南ホクレア学園だ
江ノ電江ノ島駅近くの日本家屋が湘南ホクレア学園だ
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バイリンガル教育を目指し英語を公用語として使い、コミュニケーションスキル、起業スキル、そしてアウトドアスキルを身につけさせる。建学の精神は「どんな世界でもサバイブできる子を育てる!」だ。

どんな世界でもサバイブできる子を育てる!
どんな世界でもサバイブできる子を育てる!

ホクレアの創設者である理事長の小針一浩氏は、これまでいくつかの会社を起業してきた。

しかし「先天性奇形障害を持って生まれた息子との時間を最優先にしたくて、2016年にすべての仕事を辞めて湘南に移住した」という。

小針氏はホクレアをつくった理由をこう続ける。

「その後、息子は3歳で急性リンパ性白血病を患ったものの、多くの人の応援もあって、生まれてから6年かけて闘病生活がひと段落しました。一方でこれから起きる困難も乗り越え生きていくための力を養ってほしいと考えるようになりました。その後息子の小学校を検討する際に、いろいろな学校に行ったのですが、ほとんどが大人の世界観に子どもが縛られていて。それなら子どものポテンシャルを開花させるような学校を自分でつくってみようと思ったのです」

創設者の小針さん「子どものポテンシャルを開花させる学校を自分でつくろうと思った」
創設者の小針さん「子どものポテンシャルを開花させる学校を自分でつくろうと思った」

「自分で決める」を大切にする

子どもたちには小学生のうち世界中に仲間をつくってもらいたい。だから学校の公用語は世界共通語の英語だ。またホクレアでは「自分で決める」を大切にする。文科省の学習指導要領をベースにして、教員(キャプテンと呼ばれている)は一人一人の学習状況に沿った課題を与えるものの、何をどのように学ぶのかは子どもが毎週初めに計画を立てて学習アプリなどを使いながら実行していく。学びも子ども自身が決めていくのだ。

何を学ぶか子どもが毎週計画を立てて実行する
何を学ぶか子どもが毎週計画を立てて実行する

小針氏は「小学校で習った理科や社会の内容って、いま覚えていませんよね」と語る。

「ホクレアではプロジェクトベースラーニングというか、子どもたちの興味や目的に紐づいたものを学んでいくかたちにしています。例えば野菜を育てる中で、光合成や栄養素を学んだり、魚を獲りたいと言ったら、その魚の生態系を江ノ島水族館に聞きに行ったり、漁業という地域の産業を学んだり。船をつくりたいとなったら、作り方を本やYouTubeで調べて、浮力を計算して、材料を集めて、組み立て、そのデザインまでこだわってみる。こうやって子どもがいま興味を持ったものを、学びに紐づけていくんです」

野菜を育てる中で光合成や栄養素を学ぶ
野菜を育てる中で光合成や栄養素を学ぶ

「やりたい!」気持ちを制限しない

またホクレアでは子どもの「やりたい!」という気持ちを大切にする。

「ビーチを清掃していると、ビーチグラスという割れたガラス瓶が丸くなったものがあります。それを子どもたちが拾ってくると、お金に替えることができるのが分かって。そうすると子どもたちから『ビーチグラスで買い物ができるお店をつくろう』といろいろな発想が出てくるんです。僕ら大人はその発想に制限をかけることなく、チャレンジできる環境を作ってあげることで、子どもたちに起業家マインドが養われていくと思っているんですね」

授業中にカヤックやライフセービングのレッスンを受ける
授業中にカヤックやライフセービングのレッスンを受ける

ホクレアは海や山が近い。だから授業中にカヤックに乗ったりライフセービングのレッスンを受けたりできる。さらにサバイバル力の一つとしてアウトドアスキルを大切にしている。

「例えば巨大な地震や津波があったときに、山に逃げ込んだけどライフラインがなくなった。そのときにまず自分の身を守れること、そして仲間や友達、家族を守れるスキルがあれば生き残れる。だから入学したらナイフの使い方に慣れさせたり、アウトドアアドバイザー指導のもと湧水の見つけ方、浄水・煮沸をする意味や火の起こし方を学んで、お米を炊いてカレーを作るフィールドワークもします」

ランチの支度も子どもたちが行う
ランチの支度も子どもたちが行う

学ぶことは生きる希望に繋がる

次に紹介するのは「子ども同士が学び合う」プログラミングクラブだ。

福岡県福岡市に本拠地を構える一般社団法人Kids Code Club(キッズコードクラブ)。キッズコードクラブは2016年に設立し、これまで子どもたちにプログラミングを教えてきた。

しかしコロナ禍が始まった2020年12月に「放課後プログラミングクラブ」と名付けたオンライン上のバーチャル会場を創設。放課後プログラミングクラブは参加費無料で週に2回開催し、これまで約170回行っている。一般公開している教材の利用者は延べ47万人だ。

Kids Code Club は福岡市に本拠地を構える
Kids Code Club は福岡市に本拠地を構える

キッズコードクラブを設立した理由を、代表理事の石川麻衣子氏はこう語る。

「自分は困窮家庭に生まれて大学を中退したものの、パソコンが好きでプログラミングを独学で勉強して、ウェブ制作会社を起業し自立することができました。だから学ぶことは生きる希望に繋がると思ったので、子どもたちに無料でプログラミングを学べる場をつくったのです」

石川さんは活育教育財団主催のNEA(Next Education Award)で最優秀賞を受賞
石川さんは活育教育財団主催のNEA(Next Education Award)で最優秀賞を受賞

子ども同士が学び合うプログラミング

しかし放課後プログラミングクラブでは、大人が子どもにプログラミングを教えない。大人は作品作りのレシピを提供するだけだ。その狙いを石川氏はこう語る。

「これまでイベントをやってきて、大人が一方的に子どもに教えている状態にすごく違和感がありました。だから子ども同士が向かい合うかたちにしたときに、どんなことが起こるのかなと興味があって、放課後プログラミングクラブではプログラミングスキルのある子どもたちに、他の子どもに教えてくださいと伝え、子ども同士で学び合ってもらいます。そうするとただ学ぶだけでなく、多様な子どもの居場所としても機能するようになりました」

オンライン上のバーチャル会場で子どもたちはプログラミングを学び合う
オンライン上のバーチャル会場で子どもたちはプログラミングを学び合う

オンライン上のバーチャル会場は、子どもの特性別にエリア分けされているのが特徴だ。筆者もアバターを使いながら会場内をウロウロしたが、それぞれのエリアで子どもたちが楽しそうにプログラミングをやっていた。 

「話すことが苦手な子どもはチャットで参加したり、“いいね!”を押し合ったりと、それぞれが貢献して自分の居場所を見つけることができるようにしています。画面の端っこにいた子どものアバターが日に日に真ん中に近づいてきて、その子の声を聞けたときは本当にうれしかったですね」

プロセス自体に学びが詰まっている

東京都内にある新渡戸文化学園。ここには「VIVISTOP NITOBE(ヴィヴィストップ ニトベ)」という、子どもたちがアートやサイエンス、テクノロジーを自由に学ぶ場がある。

一見すると大きな図工室のようだが、よく見ると3Dプリンターや専門的な工具が揃うまさにものづくりの空間だ。

VIVISTOPは子どもたちがアートやサイエンス、テクノロジーを自由に学ぶ場だ
VIVISTOPは子どもたちがアートやサイエンス、テクノロジーを自由に学ぶ場だ

ここでチーフクルー(ここでは大人はクルーと呼ばれる)を務める山内佑輔氏は、元小学校の図工の教員だ。これまで山内氏は子どものクリエイティビティを育む授業を実践してきた。

「私は図工の専門家ではなかったので、子どもたちの自主性に任せてきました。子どもたちが自分のアイディアをかたちにできる手伝いをし、たとえ出てきたものがぐちゃぐちゃであっても、『そのプロセス自体に学びが詰まっているんだよ』と子どもにも保護者にも伝え続けました」

山内さん「子どもたちの自主性に任せてきた」
山内さん「子どもたちの自主性に任せてきた」

大人と子どもがワクワク学び合う

2020年に山内氏が新渡戸文化学園に移り、VIVISTOPの立ち上げを行った。ここにはあらかじめ用意されたプログラムはない。先生と子どもが一緒になって、自分たちの興味を深め、思いを実現する活動をしている。さらに学校外からものづくりのプロも訪れて、子どもたちとワクワクしながらものづくりをして学び合う場となっている。

取材当日は放課後になると子どもたちが続々とやってきた。高校生グループは自分たちのアイヌ研究を小冊子にするべくタイトルのロゴ制作に取り組んでいた。

グループの1人は「アイヌ民族についてみんなに知ってもらおうと小冊子をつくるプロジェクトをやっています。ここではプロのデザイナーさんに話を聞きながら、プロジェクトのロゴをつくろうとしています」と語る。

高校生「プロジェクトのロゴをつくろうとしています」
高校生「プロジェクトのロゴをつくろうとしています」

子どもが自由に発想できる場をつくる

また、別のテーブルでは3Dプリンターを使って“寿司”を制作している中学生がいた。

「ここに3Dプリンターがあると聞いて、一度使ってみたいなと来ました。まずは自分の好きなものを作りたいと思って、いくらが好きだから作ったんです。そうしたら先生から『じゃあ寿司をシリーズで作ってみようよ!』と言われて。やってみると簡単で楽しいです。3Dプリンターの使い方は先生に教わりましたが、あとはもう自分でどんどんやる感じですね」

「3Dプリンターを使って、自分の好きなものを作りたいと思った」
「3Dプリンターを使って、自分の好きなものを作りたいと思った」

他の子どもたちも部屋に入った途端、黙々と自分の作業に取り組んでいた。山内氏はこう語る。

「ここに来る子どもたちは、やりたいことをすぐに始めます。何をしているのか聞き合ったり、教えてあったり、互いに影響し合いながら、自分の”やりたい!”を形にしていきます。ここでは大人は指導者や教える人ではなく、子どもたちに寄り添う仲間の感覚に近いです。子どもが自由に発想できる場をこれからもつくり続けていきたいです」

子どもが自由に、可能性を広げる場をつくる。それが大人の役割なのだ。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】