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青々としたマツに、葉のふちが赤みを帯びたカエデ。普通の盆栽とは違い、真っ黒な“炭”の器が目を引くが、器の黒さで緑が引き立っているのに気付く。草木を炭の器に植えた盆栽「炭盆(すみぼん)」だ。
元々は炭焼き職人の趣味だったが、その世界観に魅了された夫婦が商品化。魅力を広めている。

真っ黒な炭が引き立てる盆栽の魅力…炭焼き職人の趣味に魅了された夫婦

100人余りが暮らす、長野市信州新町の信級(のぶしな)集落。「炭盆」はこの山あいの集落に移住してきた浅野知延さん(39)・優美子さん(46)夫婦が手作りしているものだ。

作業する浅野さん夫婦
作業する浅野さん夫婦

炭盆を制作する 浅野知延さん:
(炭の器は)大きさと形がすべて違うので、すべて一点もの
妻・優美子さん:
年数経っていくと変化もみられるし、植物の毎年の成長も楽しめる

2人は東北の出身。夫の知延さんは会社員時代、転勤の多い暮らしをしてきたが、「農業をしたい」と思い立ち、2016年に長野市の「地域おこし協力隊員」に参加。信級で米作りに力を入れてきた。

浅野知延さん:
自然が豊かで、水がおいしい。自然に生かされた生活というのが魅力的

そんな信級で、浅野さんは「炭焼き」と出会った。

Q.器によさそう?
浅野知延さん:

大きさも大きいですし、しっかりしている

窯から炭を取り出す作業を見守るのは、近所に住む関口近夫さん(87)。60年以上、炭焼きをしてきた名人で、浅野さんの「師匠」だ。

関口近夫さん(左)
関口近夫さん(左)

関口近夫さん:
俺と違って感性がいい。この夫婦にはびっくりしている

実は、関口さんが「炭盆」の生みの親。昔から趣味で作っていたそうで、自宅にはたくさんの炭盆が並んでいる。

Q.植物植えるのが好きだった?
関口近夫さん:

それしかないだ、俺は。自分の人生観が変えられればいいなと思って作っていた

関口さんの家の庭に飾られた炭盆
関口さんの家の庭に飾られた炭盆

浅野さん夫婦は、関口さんの炭盆を見て衝撃を受けたと言う。

浅野知延さん:
炭という素材自体も素晴らしいのと、それと美しさが一緒になって、今までありそうでなかった組み合わせで、多くの人に見せたいなと

都内の物産展にも出品 2017年~本格的に制作開始

提供:浅野さん
提供:浅野さん

魅力を知ってほしいと2016年、都内で開かれた物産展に出品したところ…。

浅野知延さん:
大都会にオアシスがあるような。通る人皆が「癒される」と興味を示してくれて、反応を見ながら、すごいものかもしれないと

その後、2人は「炭盆」と正式に名付け、2017年から本格的に制作を開始。炭焼きは、関口さんから手ほどきを受けた知延さんが担当。炭にしているのは建築廃材などだ。

浅野知延さん:
次につながる循環するようなものを作りたいなと思って。信級の炭盆は、ただ焼かれて捨てられちゃうものを再利用して作って、第二の人生じゃないですけど。それを楽しんでもらう

以前は首都圏などに出向いて販売してきたが、コロナ禍になってからは市内での店頭販売やネット通販に力を入れている。2022年4月にオープンした長野市飯綱高原の「森の駅Daizahoushi」でも販売している。

「森の駅Daizahoushi」で販売
「森の駅Daizahoushi」で販売

炭盆を見た人:
玄関にいい。すてきですよね

炭を焼くコストもあることから、価格は小さな多肉植物のもので2000円程度、盆栽仕立てのもので5000円程度から。根腐れを起こしにくく、植え替えの必要もないなど管理は簡単だという。

体験して良さを知ってほしい ワークショップにも注力

この日、浅野さん夫婦の工房に来客があった。

炭盆を制作するワークショップ
炭盆を制作するワークショップ

浅野知延さん:
なかなか炭ってまじまじと見ることはないかもしれないけど、年輪とかもすごくきれいで、一個一個に個性があっておもしろい

体験しに来た鴨林さん:
ガタガタしていると楽しく見えそう

器を選んでいるのは、市内で喫茶店を営む鴨林さん親子だ。店に飾るため、この日、「炭盆」作りに挑戦した。器に続き、植える植物を選ぶ。

浅野知延さん:
器が小さいので、こちらの多肉植物から選んでもらいます

器と植物が決まったら、いよいよ植え付けだ。ポットから器に移し、土を補う。

形を整え、最後に器ごと水洗いして汚れを落とせば、世界に一つだけの「炭盆」の完成だ。

炭盆作りを体験した・鴨林さん(息子):
すっぽりはまる感じがよくて、これを選んだ
炭盆作りを体験した・鴨林さん(母):
横からびよって出ているのが気に入っている。炭って生活に近いような遠いようなあまり接したことがない素材だったんですけど、生きているものって感じがして、一緒に育てられるなと

後日、古民家を改修した鴨林さんの喫茶店を訪れると、多肉植物の炭盆が客を迎えていた。

かつて炭焼きは信級に限らず、山あいの農家の副業として盛んに行われていたが、今はわずかだ。浅野さんは炭盆を信級集落に足を運んでもらうきっかけにしたいと考えていて、今後はワークショップにも力を入れることにしている。

浅野知延さん:
せっかくなら大自然の信級に来てもらって、実際に自分で植え付けしてもらう。そうすると愛着が湧いて、水をやるたびに信級を思い出してもらったり癒されると思うので、ぜひ体験してもらいたい。炭盆がきっかけで信級に訪れてみたいなとなれれば一番いい

素朴で心を癒してくれる炭盆。山あい暮らしもほうふつとさせる逸品だ。

(長野放送)

長野放送
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