家族に代わって家事や介護を担う子ども、ヤングケアラーについて、北海道が支援を本格化させている。そこでキーワードになるのが、子どもたちの「居場所」だ。

2015年に取材班が出会った、ヤングケアラーの高校生の少女。孤立する中で見つけた、彼女の“居場所”が、未来を開く一筋の光となった。
2022年春に大学を卒業し、今度は、誰かの“居場所”を作る側になろうとしている。

不安と孤独…「ヤングケアラー世帯」の現実

中学生の17人に1人いるとされている、ヤングケアラー。
札幌市の大学生、尾崎瑠南(おざき・るな)さん(当時21)もそんな1人だった。小学生の頃から、精神疾患のある母親のケアを続けてきたのだ。

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母親の代わりに、2人の弟と家事を分担していたという。

瑠南さん:
小学2年生の頃から(母親の)うつの症状もひどくなって、洗濯・掃除・調理。母親が調子悪い時は、病院に付き添った

母親の直美さん(仮名)は、家で自傷行為をすることもあった。そのケアも、瑠南さんの役割だった。

瑠南さん:
(母親が)自傷行為しそうな時は、危ないものを隠したり、ターゲットが自分にされそうな気がしてちょっと怖くて

母親の直美さんは、症状を子どもたちに説明することは難しく、孤立していた、と振り返る。

母・直美さん(仮名):
子どもたちに分かるように説明するのが難しい。うちの母さんは『何にもしないでただ寝てる人』って言われたことはあります

家庭との距離を置く"居場所"が救いに「支えてくれる存在がないと」

そんな中、瑠南さんの心の支えになった場所がある。生活保護やひとり親世帯の子どもの学習支援を行う、認定NPO法人「Kacotam(カコタム)」の教室だ。

ここで、仲間やスタッフと共に、勉強や食事などをして過ごすうち、家庭の悩みも話すことができるようになったのだ。

瑠南さん:
家庭に問題を抱えている子どもが多いので、たまに愚痴言ったり、一緒に遊んでいるだけで気が紛れたり、いい友達と巡り合うことができました

2015年、当時15歳・高校1年生の瑠南さん(左から2人目)
2015年、当時15歳・高校1年生の瑠南さん(左から2人目)

高校2年生の時には、大切な場所がもうひとつできた。カコタムが一軒家を借り、子どもたちの居場所「ゆるきち」を作ったのだ。

2016年、「ゆるきち」で過ごす当時16歳・高校2年生の瑠南さん(右端)
2016年、「ゆるきち」で過ごす当時16歳・高校2年生の瑠南さん(右端)

母親との関係が悪い日も、ここに来ると安心したという。カコタムの理事長・高橋勇造さんも、「家庭との距離をおくために、ゆるきちで過ごす時間を提案したのは覚えている」と当時を振り返る。

瑠南さん:
支えてくれる存在がいないと…正直ここまで生きていたかも分からないレベルなので

"距離"がお互いの安定に… 救われた経験を次の"家族"へ

その後、瑠南さんは勉強を続け、大学に合格。リハビリなどを担う作業療法士を夢見て、作業療法学を専攻した。この時、ひとり暮らしを始めて距離ができたことで、母親との関係も安定したと感じている。
そして2022年春、大学を卒業した。

母親の直美さんも、卒業式に駆けつけてくれた。

母・直美さん(仮名):
いろんな苦労を、しなくてもよかったはずの苦労をさせてきてしまったので、申し訳ない気持ちはいっぱいあるんですけど、ここまで立派に成長してくれて。もう言葉が出ないです

瑠南さん:
最後の卒業式、見てもらえてよかったかなと思います

苦難を乗り越え、瑠南さんはついに、4月から作業療法士として病院で働き始めた。

瑠南さん:
まず、こちらの方で練習してみましょうか。一度立ち上がっていただきます

働くかたわら、カコタムで学習支援のボランティアも行い、子どもたちの気持ちに寄り添えるよう気を配っている。

瑠南さん:
いつもいる人だけど、話を聞いてくれる身近なお姉さんというか。困っていても困ってなくても、話してもらえる存在になりたい

ヤングケアラーが居場所を見つけ、自分らしくいること。それは、孤立する家族にとっても大切なことだと感じたと話す。

瑠南さん:
家庭の中に一歩でも入ってくれる大人がいたら、子ども側も助かると思いますし、保護者も相談できる相手ができたら、不安を抱え込んだりしないのかな

安心できる居場所、信頼できる大人。今度は、自分がそんな存在になろうとしている。

(北海道文化放送)

北海道文化放送
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