高齢者が要介護状態になることを防ぐ「介護予防」に着目した、新しい形の介護事業所が、広島市にオープンした。取り組みを取材する中で、高齢者介護の課題も見えてきた。

「介護予防」に特化…コロナ禍にオープンした新タイプのデイサービス

広島市中心部にある、黒と茶色のツートーンカラーのちょっとおしゃれな建物。

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一見するとカフェのようにも見えるが、やって来るのは…若くても70代の高齢者たち。80代、90代は当たり前だ。

何が行われているのかのぞいてみると…、血行をよくする足湯や、足のマッサージ。

利用者A:
気持ちがいい
介護員:
足が温かいよ。足が温かくなった

足でマッサージをする「フーレセラピー」も行われている。

利用者:
ここに来れば、みなさんと会える。家だったら1人ぽつんと部屋にいて。だからここに来るのが楽しみなんです

この施設は、広島では珍しい、介護予防に特化した短時間型のデイサービス「ケアチームたなごころ」だ。2021年2月、コロナ禍の真っただ中にオープンした。

ケアチームたなごころ・小坂京子 社長:
1人で家にいると気分も落ち込んでしまうし、体も弱ってしまう。そういう時だからこそ集って元気になれる場所が必要なのではないかと思ってオープンしました

社長の小坂京子さんは、20年以上介護の仕事に携わってきた。重度の介護者のケアや看取り介護をしていく中で、気づいたことがあったという。

くみ取られていない“軽度の人たち”のニーズ…介護保険の仕組みは

小坂京子さん:
どうも介護保険の仕組みの中で、ニーズが上手くくみ取られていないゾーンがあるという所が軽度のみなさんだった

2000年に施行された介護保険は、介護が必要な人にその費用を給付してくれる保険で、40歳になると加入が義務づけられ保険料を支払う。介護度は軽いほうから「要支援」が2段階、「要支援」よりも重い「要介護」が5段階あり、介護度が重いほど支給の限度額が大きくなる仕組みだ。

小坂京子さん:
介護度が軽い人たちの介護予防(総合事業)だけだと、報酬単価の関係もあってなかなか採算が取れない。だからどこの事業所も重度の人も受け入れて、一般的な介護保険と抱き合わせた形での事業の展開になっているのだと思います

事業所を経営していくためには、重度と軽度の両方の人を受け入れる必要がある。ここに今の介護の問題があると小坂さんは思っている。

重度の人にケアが集中「軽度の人は放っておかれる」

小坂京子さん:
デイサービスに通っているみなさんは結構我慢しているというのが、話を聞く中であった。どうしても職員は介護度が重い人の方にケアが集中してしまうので、自分たちとしては同じ様にサービスを受けたいと思って行っていても、自分で出来るからということで、ご自身たちの感覚としては放っておかれている

デイサービス利用者:
前の所は面白くないのでやめた。私たちは、ぼさっとテレビを1時間も2時間も見ていないといけない

デイサービス利用者:
同じような程度の人と話がしたいんだけど、そういう人がなかなかいなくて

高齢者はみな同じではない。程度に合わせた細やかなケアの必要性に、小坂さんは気づいていた。

人それぞれ…程度に合わせた細やかなケアを

小坂京子さん:
もちろん看取りとか重度の方のケアはものすごく大切で重要なことですが、足りてはないかも知れないが一生懸命やってくれるみなさんが他にもいる。ただ軽度の所に目を向けると、あまりそこを一生懸命やっている人たちってまだまだ少ないのではないかなと思う

小坂さんの思いを後押しした人がいた。会社の立ち上げを担当した、専務の吉田さんだ。お母さんの介護の経験から、介護予防の大切さを痛感していた。

ケアチームたなごころ・吉田恵 専務:
家族の立場としたら、介護予防の時期に何をすればいいのかが分からない。要介護になって、その後寝たきりになってという高齢者のレールみたいな入り口を体験をした立場としては、こういう時期にアドバイスをもらえたり、寄り添ってもらえたりがあればずいぶん違うという体験をした

それぞれの思いがひとつになって誕生したのが、介護予防に特化した介護事業所だった。短時間型デイサービスでは、いきなり体操や運動をするのではなく、足湯やマッサージで体を温め、痛みやむくみを取っていく。長い介護の経験から小坂さんはこの大切さを感じていた。

小坂京子さん:
むくみだったり関節の痛みがあると、体操したり、運動の機械に乗ることが難しい。まずは痛い所やむくんだ所を取ってからでないと、体を動かすことに参加できないのではないかという方たちがいる

利用者に好評なのが「フーレセラピー」と呼ばれる、足で施術するマッサージだ。足を使うことで、広い範囲で圧や振動を与えることができる。

数々のプログラムに自家製のおやつも付いて、このデイサービスは1回1350円。事業としてやっていけるのだろうか?

小坂京子さん:
そうですね。、みなさんにも大丈夫なのですかと聞かれますし実際大丈夫ではないですね。(軽度対象の)総合事業だけでやろうと思うと

今の介護保険制度の中で事業を経営してゆく事は難しいが、一方で小坂さんは、この介護事業所に新たな可能性を感じている。

高齢者だけでない地域交流の場になれば

小坂京子さん:
子育て中のお母さんたちとか、一般の方たちにも利用していただいて、ここが地域の交流の場になっていけばいいと思う。国が目指している地域包括ケアシステムという“出来る限り最後まで自宅で、住み慣れた街で、住み慣れた家で生活しましょう”というサービスの中の1つとして、こういう形があると思ってもらえればいい

高齢者はみんな同じではない。段階に応じた細やかなケア。制度を含めてもう一度、「老い」を見直す時が来ているのかもしれない。

(テレビ新広島)

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