欧米で感染例が相次いで確認されている「サル痘」。
サル痘は「サル痘ウイルス」で引き起こされる感染症で、重症化すると「天然痘」のような発疹が全身に広がる。
もともとは中央・西アフリカの熱帯雨林などで確認されていたが、欧米での広がりをうけて、日本では、後藤茂之厚労相が5月24日、記者会見で「国内での感染は確認されていない」とした上で「発生動向を監視し必要な対応を取っていきたい」と述べている。
サル痘は昔からある病気…どうしていま感染が確認されている?
日本でも感染が広がる可能性はあるのだろうか。予防対策はあるのだろうか。国立感染症研究所の研究員の経歴があり、サル痘にも詳しい、岡山理科大学の森川茂教授に聞いた。
――サル痘はどんな病気?見つかったのはいつ?
サル痘は、1958年にポリオワクチン製造用に世界各国から霊長類が集められた施設で、カニクイザルの天然痘様疾患として初めて報告されました。サルに天然痘様の症状が出ることからサル痘と命名されました。
――人間への感染が確認されたのは?種類はあるの?
ヒトのサル痘は1970年にザイール(現在のコンゴ民主共和国)で、天然痘様疾患として初めてWHOに報告されました。その後、中央・西アフリカの主に熱帯雨林で散発的に流行しています。2017年からはナイジェリアで比較的規模の大きい流行が継続し、患者総数は500名を超えています。
コンゴ民主共和国には強毒な「コンゴ盆地型」サル痘ウイルスが分布していますが、西アフリカには比較的弱毒の「西アフリカ型」サル痘ウイルスが分布します。前者の患者の致死率は1〜10%とされ、人から人への感染も多いです。西アフリカ型は軽症で死亡する例は少ないとされていましたが、ナイジェリアでの流行では致死率が3%程度と高く、人から人への感染がおきています。
――欧米で感染者が増えているのはどちら?
幾つかの遺伝子配列が解析され、ナイジェリアで流行している西アフリカ型であることが分かりました。アフリカでは人から人への感染も報告されていますが、アフリカ外でのサル痘では、これまでは患者からの二次感染は極めて少なく、あっても1名程度で終息していました。今回は、人から人への感染で感染拡大していますが、これは初めてのケースです。
感染時の症状や特徴…治療薬はあるの?
――感染時の症状は?特徴があれば教えて。
ヒトのサル痘の潜伏期間は7〜21日(平均12日)で、その後、発疹、発熱、発汗、頭痛、悪寒、咽頭痛、リンパ節腫脹が現れます。リンパ節腫脹はヒトのサル痘で特徴的な所見となります。重症例では、天然痘と臨床症状が類似します。通常発疹は、水疱、膿疱、痂皮(かさぶた)へと2週間程度で移行して脱落します。
――サル痘は治療できるの?後遺症などはあるの?
重症化しなければ自然治癒します。後遺症は皮膚の病変部位が斑点となって残ります。重症化する要因は、ウイルスの病原性、感染したウイルス量、感染した人の免疫力などによると考えられます。免疫状態の悪い人は重症化しやすいと考えられています。
――感染が疑われたらどうなる?治療薬はあるの?
臨床的には確定診断できないため、国立感染症研究所に検体を送って実験室診断で、サル痘かどうかを調べることになります。米国には、有効な治療薬で承認されている抗ウイルス薬があります。EUや英国でも抗ウイルス薬は使われているようです。いずれも日本で承認された医薬品ではないので、「医師が個人輸入して患者の同意を得た上で使用する」ことは可能ですが、一般医薬品のようには使用できません。
日本国内で流行の可能性はあるのか
――日本国内に流入する可能性は?新型コロナのように爆発的に広がることはある?
今回の流行では、サル痘の患者と濃厚に接触した人が感染していると考えられるため、接触した人が潜伏期間内に入国すれば、国内で患者が発生する可能性はあります。(新型コロナのように爆発的に広がることは)ないと思います。
新型コロナウイルスとは、感染経路などが異なるからです。サル痘ウイルスは、皮膚病変や血液体液との接触感染、大きな飛沫を近くで比較的大量に浴びることなどで感染するためと考えられます。
――サル痘にはワクチンなどの予防接種はあるの?
サル痘には、天然痘の根絶に使われた天然痘ワクチンが有効ですが、(天然痘が流行した)当時に使用されたワクチンは副反応が強いために、今は製造されていません。今の日本国内には、非常に副反応の弱い「細胞培養痘そうワクチン」が承認ワクチンとして製造されていますが、天然痘がバイオテロに用いられた場合の緊急時ワクチンとして国家備蓄されているもので、一般には流通していないため、一般人がワクチンを受けることは出来ません。米国では、天然痘とサル痘に有効なワクチンが2019年に承認されています。このワクチンは、カナダ、EUでも承認されています。
――昔に天然痘ワクチンを受けていた場合は免疫が残っているの?
そのような調査も行われていて、1回しか種痘(ワクチン接種)していない場合には、徐々に免疫が低下しますが、2回3回種痘を受けた方は数十年経っても抗体が充分維持されていることが多かったです。
――サル痘に感染しないために避けるべき行動などはあれば教えて。
サル痘患者の血液、体液、飛沫、皮膚病変にはウイルスがいて、衣類やリネンはウイルスに汚染していることも考えられます。また、皮膚病変は痂皮化して脱落しますが、細胞に感染性ウイルスが大量に含まれています。乾燥したウイルスは非常に安定で感染性があるため、これらにはふれない様にして消毒あるいは滅菌するようにしたほうがいいでしょう。患者との接触も避けた方がいいでしょう。
後藤厚労相は、27日、サル痘の予防には天然痘ワクチンが有効との報告があるとした上で、「テロ対策の観点から、国内において生産・備蓄を行っている」と明らかにした。
サル痘は日本では感染症法の4類感染症に指定されていて、診断した医師はただちに最寄りの保健所に届け出る必要がある。感染経路は感染者との性交渉などが考えられ、爆発的に感染が広がる可能性は低いということだが、今後の状況を注視したい。