一斉休校や学校行事の中止など、コロナ禍が教育現場に大きな変化をもたらす中、理想の学びを追い続ける小学校の先生とクラス児童の姿を追った。

リコーダー片手に教室を出る子供たち。学校で行われる音楽の授業は、いま様変わりしている。

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4年生:
外で何回も吹いているので当たり前って感じ

直接のコミュニケーション減少…それならタブレット通して

他にも大きな変化が。コロナ禍でタブレット端末を使った授業が増えた。
気づけば、この3年間は昼ご飯は友達と話しながら食べていない。子供達のコミュニケーションは減少した。

4年生A:
みんなでしゃべれないのがさびしい。これがずっと続くんだったら嫌だ

4年生B:
コロナが出てから、友達と遊ぶ機会が少なくなったのでコロナが嫌い

広島市佐伯区にある「なぎさ公園小学校」。
コロナ禍で変わる教育現場に、全力で向きあっている先生がいる。山川夏依先生。

教師になって4年、担当教科は体育。この日の授業では幅跳びだが、山川先生が突然配り始めたのはタブレット。子供達は幅跳びをする友達の撮影を始めた。

この授業の目的は、自分の跳んでいる姿を客観的に見て、正しいフォームなのか確認すること。
しかし、それだけではなく、子供達は映像を見ながらどんなフォームで跳べば記録が伸びるのか意見を交わしはじめた。山川先生が心がけているのは、人と人をつなぐ授業だ。

なぎさ公園小学校・山川夏依先生:
この子達は1年生の終わりからコロナに入っているので、どうしても話し合い活動とか接触ができなかった分、タブレットを介してならできるので導入しています

「自然体験多いとコミュニケーション力が高まる」理想の教育目指し広島に

山川先生が、子供達のコミュニケーションを大切にするのには理由がある。
山川先生の出身は北海道。大学では野外教育を専攻し、自然体験の経験が多いほど自己肯定感が上がり、コミュニケーション力が高まることを学んできたという。

山川夏依先生:
私が目指している教育は、子供のうちから自然体験や野外教育を体験して、生きる力を身に着けること

なぎさ公園小学校は自然の中で子供達の感性を養うことに力を入れていることから、山川先生は理想の教育を抱えて広島にやってきた。

しかし、待っていたのは新型コロナウイルスの感染拡大。その影響で、学校の自然体験は軒並み中止になった。3年前からテントが使われたことは、まだ一度もない。

山川夏依先生:
本物の体験が最近少なくなってきていると思うので、絶対に子供達にも経験させてあげたい

5月中旬、3年ぶりに以前の「野外学習」が行われることになり、山川先生の顔にも笑顔が戻った。先輩の先生に、コロナ禍でもできる野外活動を提案。

山川夏依先生:
身体接触なしでも協力できるプログラムにしたいので、ミッションで距離をとっていても協力できるもの

清水將先生:
接触を積極的にしないとなると、グループでやったという形にならないかもしれないから、そこが心配

原光太郎先生:
ちょっとだけでも一瞬立ち止まらせたい。今の活動がどうだったか

山川夏依先生:
そのために困難が必要。全部うまくきれいにいったら、振り返りにもならない。机の授業ではない、いつもと違う状況に新しい自分に気づくか、友達に気づかせてもらう意味で振り返りは大事

野外学習まであと二日。子供達の楽しむ様子を思い浮かべながらミッションを考える。
理想の教育まであと少しだ。

「どんな声かけが必要か」子供たちに考えてもらう

ついに始まった4年生の野外学習。子供達は「雨の日に虫がどこにいるかを探す」など、数々のミッションに挑む。

4年生:
虫発見、イモムシいる

山川夏依先生:
探せれたので5点

子供達は助け合いながら攻略していく。

山川夏依先生:
協力の声かけ、どんな声かけた?

4年生A:
「集まって」とか「〇〇君行きすぎだよ」とか

山川夏依先生:
言い方が優しかったんだよね。もし乱暴な言葉で「早くきてよ」だったら、どんな気持ち?

4年生B:
こわい

山川夏依先生:
集まりたくないよね

4年生C:
こわくて逃げたい

4年生D:
でも優しすぎたらあんまり集まらない

山川夏依先生:
じゃあどうしたらいい?

山川先生が大事にしているもの。それは、成功や失敗ではなく、友達への声掛け。どんな声掛けが必要だったのか、子どもたちに考えてもらう。

そして山川先生が考え抜いた、とっておきのプログラムがスタート。

声を掛け合い協力する力を引き出す…とっておきのプログラム

山川夏依先生:
恐竜の卵があるんです。みんなのミッションは、その卵を運ぶ。これを一人一つ持ってください

ルールは、仲間と入れ替わりながら卵が転がる道を作り、離れた場所にあるゴールまで運ぶというもの。子供達にとってはかなりの難題だが、子供達にあえて困難を与え、意見を交わす状況を作る。

4年生A:
カーブになりすぎているからスピードが出すぎるので、だいたいこれぐらいがいい

4年生B:
たぶんスタートが高すぎてスピードが出て、落ちたんじゃなくてはみ出した

4年生C:
まだ曲がっている。しゃがめばいい。たぶんいけると思う。この体勢のままだったら絶対いけるよ

大事なのは、ここから。自分達の声掛けは正しかったのか振り返る。

4年生D:
「絶対できるよ」とか、声かけを言っていたから、みんな勇気をもらって成功したんだと思います

4年生E:
意見を批判するようなことを言ったから、次からは褒めることを多くしたい

山川夏依先生:
どういうときが言葉きつくなった?

4年生の子供たち:
聞いてくれない。失敗したとき。無視したとき。〇〇さんのせいで失敗

山川夏依先生:
よく気づいたね

自分の知らなかった一面を友達に気づかされ、成長する。山川先生が追い続ける教育がようやく実現した。

山川夏依先生:
私も、あんなに子供達が相談してやっているところを初めて見たので、やっと叶ったという気持ちでした

コロナ禍で、密なコミュニケーションを取ることが難しくなったと言われる教育現場。子どもたちの成長を考える現場の先生たちの試行錯誤は、まだ始まったばかりだ。

(テレビ新広島)

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