コロナ禍で一時は札所の閉鎖が相次ぎ、お遍路さんが減っていた四国遍路。
大型連休を前にした4月、愛媛・松山市の山あいにある無料の接待所が再開した。新緑の遍路道に重なり合う“人情物語”を追った。

お遍路さんのお接待の風景…コロナ禍で一変

四国八十八ヶ所霊場・第46番札所の浄瑠璃寺。若葉がかおる新緑の季節、愛媛県内は多くのお遍路さんを迎える季節でもある。

この記事の画像(18枚)

松山市久谷地区の山あいにたたずむ「坂本屋」も、そんな場所の1つ。

(Q.まずは何から?)
坂本屋運営委員会・伊賀上千淑さん:

お掃除から

坂本屋は、もともと明治末期から大正に建てられた遍路宿で、今はお遍路さんにお茶や食べ物をふるまう、お接待所になっている。
以前はお遍路さんと一緒に食事をすることもあったが、2020年春に状況は一変した。

新型コロナの感染拡大で札所の閉鎖が相次ぎ、お遍路さんも激減。坂本屋も、感染状況を見ながら開けたり、閉めたりを繰り返してきた。
毎年3月から始まるお接待だが、2022年は例年より1カ月遅れの4月3日に再開した。

坂本屋運営委員会・伊賀上千淑さん:
あっ! ヤモリ。おひなまつりをいつもするんだけど、今年はしなかったんだっけ…。だから、あんまり汚れていない

四国遍路の難所乗り越え…「お接待」が優しく出迎え

この日、最初のお接待。

坂本屋のスタッフ:
お茶…これ?

坂本屋のスタッフ:
これにしよか!

伊賀上さんたちのグループは、今シーズン初のお接待。お茶っ葉が見当たらず、あたふたしたが何とか解決。

お遍路さん:
山口県と広島県。元職場の同僚というか、そんな感じ

こちらのお遍路さんは、2018年10月から札所巡りを始め、ゴールデンウィークなどの長期休暇を利用しながら、八十八ヶ所を何回かに分けて巡る「区切り打ち」で歩き、遍路に挑戦している。

お遍路さん:
回りきれたらいいかなっていう思いで始めて。コロナ禍があったから、途中なかなか来れなかった

坂本屋は、久万高原町にある第45番札所・岩屋寺から、四国遍路の難所のひとつとされる三坂峠を越えて、一気に下った先にある。

坂本屋に着くまで、お遍路さんが乗り越えてきたのは、長く険しい道のり。疲れたお遍路さんを、「お接待」が優しく出迎える。
お接待は、午前9時から午後3時まで。
“掃除しながら” “自分たちのお昼の支度をしながら”お遍路さんを「待つ」。この「待つ」時間も、皆さん何だか楽しそう。

坂本屋運営委員会・菅野肇会長:
ようやくお遍路さんをお接待できるようになったということで、会員のみなさんもね、まだかまだかという感じで、早くお遍路さんに会いたいという感じで期待してたんで

6度目の四国遍路の人:
ホント来るか来ないか、わかんないのにね。GWはサラリーマン遍路ですよ。よくね、歩くなんてどこでもいいじゃないっていう人はいるんだけど。こうやって来るか来ないかわかんないのにさ、あちこちあるじゃないですか、お接待場所が。私財を投じてやってる方もいらっしゃって、そういうのはありがたいし。
初めに回った時は、いいデトックス。もうストレスまみれでさ、こっち来ると解毒剤みたいな。遍路道は解毒剤。すっきりしてる

江戸末期の納め札も…脈々と受け継がれるお接待文化

坂本屋を目指して、サイクリストもやってきた。

松山からきたサイクリスト夫婦:
(イチゴを食べて)おいしい! 甘い! きょうは何かいいことがあるんじゃないかと思ってたんです。こんなご褒美が待ってた

母親と息子のお遍路さん:
親子です

坂本屋のスタッフ:
優しい息子さんですね

母親:
もう坂なんか心拍数すごいね、私はね。だから、先行って待っててくれるんで

坂本屋のスタッフ:
心配です? 子どもにとっては

母親:
心配?

息子:
心配よ

お接待への御礼として、お遍路さんが渡す「納め札」。
菅野さんが見せてくれたのは…何と江戸時代の納め札。

坂本屋運営委員会・菅野肇会長:
これ、江戸末期のもの。納め札を昔はこういう風に紙に自分で書いて。ちょんまげを結った人が、ここを歩いているような雰囲気

お接待の文化が、この場所で脈々と受け継がれてきた証し。

坂本屋運営委員会・菅野肇会長:
やればわかると思うんやけど、おもてなしする方、お接待する方も心地いい

地域に根付く「お接待の心」と、お遍路さんの「感謝の心」が、コロナ禍の今も新緑の遍路道で重なり合っている。

(テレビ愛媛)

テレビ愛媛
テレビ愛媛

愛媛の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。