一定の違反歴がある75歳以上のドライバーが免許を更新する際に、実車試験での合格を義務付ける改正道交法が、きょう施行される。2019年に東京・池袋で母子2人が犠牲になるなど、相次ぐ高齢ドライバーによる重大事故をうけた対策の一環だ。

実車試験 合格しないと更新できず 免許失効に

警察庁によると、去年1年間で、75歳以上のドライバーによる車やバイクの死亡事故は346件。死亡事故全体のおよそ15%をしめ、統計が残る1986年以降最高の割合となった。免許人口10万人あたりの件数では、75歳以上が75歳未満のドライバーに比べて2倍以上にのぼった。

事故の要因は、アクセルとブレーキの踏み間違いやハンドル操作のミスが目立った。去年末で75歳以上のドライバーは、全国で590万人。こうした重大事故を減らすために始まるのが「運転技能検査」いわゆる「実車試験」だ。

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免許更新時の通知書のサンプル(警視庁提供)
免許更新時の通知書のサンプル(警視庁提供)

過去3年間に11種類の違反をした75歳以上のドライバーが対象。その違反とは「信号無視」、逆走など「通行区分違反」、追い越し車線走行など「通行帯違反」「スピード違反」Uターンなど「横断等禁止違反」「踏切不停止等」「交差点右左折方法違反等」「交差点安全進行義務違反等」「横断歩行者等妨害」、前方不注意など「安全運転義務違反」、携帯電話など「ながら運転」。

この11種類のうち1つでも違反をした75歳以上のドライバーは、運転免許試験場や自動車教習所に出向き、試験を受けることになる。更新期限の6カ月前から何度でも繰り返し受験できるが、期限内に合格しないと免許を更新できない。と言うことは、期限内に合格しない場合、免許が失効となる。

試験は10分程度 信号無視・逆走で一発不合格

それでは、この運転技能検査=実車試験とは、どういうものなのか?制度が始まるのを前に東京品川区の鮫洲運転試験場で、試験の様子が公開された。対象となるドライバーは、助手席に検査員を乗せて、運転技能に問題がないかチェックを受ける。

警視庁は、10日、運転技能検査=実車試験のデモを公開した(東京・品川区)
警視庁は、10日、運転技能検査=実車試験のデモを公開した(東京・品川区)

試験では、1200メートル以上の道路を使用。「指定速度走行」「一時停止」「右折」「左折」「信号通過」「段差乗り上げ」の6項目で点数をつけられる。運転免許を取得する際の技能試験をイメージしてもらうと分かりやすいかもしれない。

試験は、減点方式で、100点満点中70点以上で合格となる。信号無視や右左折の間違い、逆走などは40点減点のため、一発失格だ。取材した日は、アクセルとブレーキの踏み間違い事故が多発していることから、「段差乗り上げ」試験の様子が公開された。

アクセルを踏んで段差に乗り上げた直後に、ブレーキを踏むことができるかどうかが試される。タイヤが、段差を乗り越えて、1メートル以上進んでしまった場合、不合格となる。

「段差乗り上げ」の実演の様子。1メートル以上、進んだら不合格だ。
「段差乗り上げ」の実演の様子。1メートル以上、進んだら不合格だ。

年間15万人が実車試験 混乱は?

実車試験は、何度でも受けられるが、その度に3550円の手数料が必要だ。担当者は「高齢運転者から免許を取り上げるものではない。認知や身体機能の低下を認識して安全運転に努めてもらうためのもので、安全運転をフォローする場となる」と説明した。

警察庁では、実車試験に、複数回、不合格となった人には、免許の自主返納を勧めるケースも想定しているという。全国で免許を自主返納した人は、去年1年で51万人以上にのぼり、このうち半数以上が75歳以上だった。

新しい”免許”更新制度が混乱なく運用されるのか。課題も多い。
新しい”免許”更新制度が混乱なく運用されるのか。課題も多い。

実車試験を受けることになるのは、免許を更新する75歳以上の7%、年間15万人が見込まれている。ただでさえ、各地の自動車教習所は、高齢者講習や認知機能検査で混雑していて、受けるまでに何日も待たざるを得ない状況だ。

そんな中、実車試験が始まることになる。対象者は、更新期限内に、スムーズに試験を受けることができるのか。制度は混乱なく運用されるのか。さらには、試験の採点に公平性を保てるのかなど、課題は少なくない。

(フジテレビ社会部・尾瀬真澄、石田真美)

社会部
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