ウクライナ侵攻の経済的損失はGDP4年分に
ロシア軍はウクライナで破壊の限りを尽くしているが、その損害額は建物や道路などのインフラだけでも880億ドル(約11兆4400億円)にのぼり、経済的損失の総額はウクライナの国内総生産(GDP)のほぼ4年分に達するという試算がまとまった。
調査を行ったのはキーウ経済大学院大学(KSE)で、2月24日にロシア軍が侵攻を開始して以来破壊したインフラを現地調査だけでなく衛星写真の分析などを行って探し出し、4月26日現在で被害額を次のようにまとめた。

まず道路は、2万3574キロメートルにわたって破壊され損害額は294億8000万ドル(約3兆8300億円)に上り、住宅は合計3万2182平方キロメートルのアパートや一戸建てが砲撃やミサイルで破壊されて損害額は283億1500万ドル(約3兆6800億円)が消滅したと試算した。

このほか、橋梁289カ所、民間空港11カ所、病院など231カ所、中高等学校866カ所、幼稚園535カ所などで損害総額880億ドルとなっている。

これらはいずれも直接的な損害だが、間接的にはGDP損失や投資の損失、労働力の流出などに加えて防衛費の増大や被災国民への支援などの支出を考慮すると、この戦争による損失の総額は5640億ドル(約73兆3200億円)から6000億ドル(約78兆円)に上るとKSEの報告書は試算している。

世界銀行の資料によれば、2020年のウクライナのGDPは1554億9900万ドル(約20兆2150億円)である。今回ロシア軍は、この国の人たちが4年近くコツコツ働いて生み出した稼ぎに匹敵する有形無形の資産を破壊したことになる。

ロシアからの賠償金でウクライナ再建?
実はKSEのこの調査プロジェクトは「ロシアに支払わせる」と名付けられており、いずれロシアに対して損害賠償を要求するための資料として役立てるために調査を行っているという。
「ウクライナは再建します。ロシアの資金で」
ウクライナのゼレンスキー大統領もかねてよりこう言っており、ロシアに賠償を求めてゆく考えを明らかにしている。

事実ウクライナ政府は、オランダのハーグにある国際司法裁判所(ICJ)に対してこの問題を提起しており、3月16日に聴聞会が開かれていた。
ウクライナ国営の通信社「UKRINFORM」は4月4日、この問題でウクライナ政府の代理人を務める人物の話として、ICJはまず今回のロシアによるウクライナ侵攻が国際法に違反するか審議し、違反したと判断すればロシアに対して賠償を命ずることになるだろうという見通しを伝えた。

賠償問題が具体化するのは、ロシア軍との停戦などで区切りがついてからのことになるだろうが、そうする間もウクライナではロシアのミサイルが飛び交い損害はまだまだ増え続けている。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】