厚生労働省が中止していた、子宮けいがんを予防する“HPVワクチン。その積極的な勧奨”が、4月から約9年ぶりに再開した。新潟県医師会広報委員会の協力のもと、医師に詳しく聞いた。

増加する“子宮けいがん” 初期段階でも妊娠できなくなるおそれ

杉山萌奈アナウンサー:
日本では毎年約1万1000人が発症し、そのうち2900人あまりが命を落としている子宮けいがん。失わなくていい命が失われたり、妊娠できなくなったりする人が年々増えています

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新潟大学大学院 工藤梨沙 助教:
先進国の中で子宮けいがんが増えてきているのは日本だけ。世界の流れから取り残されている状況

子宮けいがんについて話を聞いたのは、新潟大学大学院の工藤梨沙助教。「先進国では30年後に子宮けいがんをなくせる可能性がある」と言うが…

新潟大学大学院 工藤梨沙 助教
新潟大学大学院 工藤梨沙 助教

新潟大学大学院 工藤梨沙 助教:
このままでは日本で子宮けいがんはなくせない。先進国から置いて行かれるだけでなく、発展途上国も今世紀中に子宮けいがんをなくすことを目標に活動しているので、そこからも取り残されてしまう危険性がある

子宮けいがんの原因は、HPVウイルスの感染。性交経験のある女性の過半数は一生に一度は感染機会があるありふれたウイルスだ。

感染しても9割は免疫の力で自然に排除されるが、1割はずっと感染した状態に。そして、前がん病変を経て、数年以上をかけ、子宮けいがんへと進行していく。

子宮けいがんの進行
子宮けいがんの進行

新潟大学大学院 工藤梨沙 助教:
手術で子宮をとることになったり、放射線治療で卵巣機能がなくなってしまったりするので、子宮の病気ということで妊孕性(妊娠するための力)を初期の段階でも失ってしまうことがある

HPVワクチン接種化も2か月で「積極的な推奨せず」

こうした状態を防ぐためのHPVワクチン。16歳までに接種すれば子宮けいがんの発症リスクを7割減らすことが見込まれるワクチンで、日本では2009年に承認、2013年に定期接種化。

1994年度~99年度までに生まれた女子は5割~8割程度接種していたが、副作用が疑われる報告が相次いだことにより、接種化からわずか2か月で厚労省は「接種することを積極的に勧めない」と発表した。

新潟大学大学院 工藤梨沙 助教:
当時、様々なことが報道され、それを見たお父さん・お母さん・本人が心配することは当然だったと思う

ワクチンの安全性が不安視され、接種率は2000年度生まれから大幅に減少。今は2%程度にとどまっている。工藤医師は「その影響はとても大きい」と訴える。

HPVワクチン接種率
HPVワクチン接種率

新潟大学大学院 工藤梨沙 助教:
2000年生まれの方からは、HPVの感染率が接種前の状況に戻ってしまっている。浸潤子宮けいがんになる人が年間4000人前後、子宮けいがんで亡くなる人が1000人前後増えることが見込まれている

子宮けいがんで亡くなる人は年間1000人前後と見込まれている
子宮けいがんで亡くなる人は年間1000人前後と見込まれている

感染者や死者をこれ以上増やさないために、政府は積極的に接種を勧める取り組みを約9年ぶりに再開。

(Q.国の姿勢が変わったことは)
新潟大学大学院 工藤梨沙 助教:
非常に大きな進歩。私たち産婦人科医はもどかしい思いをしていた

再開された積極的なワクチン推奨 気になる安全性は

杉山萌奈アナウンサー:
各自治体から個別に送られる予診票。新潟市は5月下旬に発送するということです

対象年齢の小学6年生~高校1年生相当の女子と、接種を逃した1997年度~2005年度生まれは救済措置として無料で受けることができる。

HPVワクチン接種対象
HPVワクチン接種対象

しかし、心配なのはワクチンの安全性。接種した人の半数以上は、接種部分の痛み・赤み・はれ、3割ほどは倦怠感・頭痛などがみられるという。

また、まれに不安がある状態で接種すると、失神・動悸・震えがその場で起きたり、字が書きにくい・手足が動きにくいといった症状が遅れて出てきたりすることもあるという。

新潟大学大学院 工藤梨沙 助教:
ただ、これはワクチンの成分による影響ではなく、痛いことが起こったことに対する反応。安全性は定期的にモニタリングされていて、WHOは“ワクチン接種を勧めることを変えるような明らかな副作用はみられない”という報告をしている

妊娠したときの流産・早産を防ぐ重要な役割もある子宮けいぶ。そのがんを防ぐために強力な効果があるのはワクチン接種。

新潟大学大学院 工藤梨沙 助教:
10年以上経ってから、やっと効果・恩恵が得られるワクチン。目先の効果が得られず、接種をためらうこともあると思うが、“あの時に打っていればよかった”と思っても戻れないので、将来の自分の命・妊孕性を守るために、ぜひ接種を検討していただけたら

“安全性・有害事象”についての情報は、日本産科婦人科学会など信頼性のある発信源から得て、納得したうえで接種することが大切だ。

(NST新潟総合テレビ)

NST新潟総合テレビ
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