脳出血で療養していた立命館アジア太平洋大学(以下APU)の出口治明学長が、4月から校務に本格復帰した。筆者は復帰後初めて出口氏にお会いし、近況や世界情勢についてお話を伺った。(出口氏は倒れて1年3カ月がたった今も右半身にまひが残り、思うような発話は難しいためインタビューは一部筆談で行った)

ウクライナの学生受け入れと経済支援を表明
APUでは20日、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の影響で教育や研究を続けられなくなった学生を一時的に受け入れると発表した。さらに現役または入学予定の学生のうちウクライナ侵攻によって修学が難しくなった学生への渡日、生活、住居、授業料などの経済支援も行う。
この発表の中で出口氏は「戦争によって多くの若者の学びの機会が失われてしまっていることをとても悲しく思っています。APUは『APUで学んだ人が世界を変える』としています。私たちはこれからも紛争や戦争のない平和な未来を実現することを目指して、人材育成に努めていきたいと思います」とメッセージを送った。
「1週間でキーウ陥落のプーチンの読みは外れた」
日本を代表する知の巨人である出口氏に、筆者はいまのロシア・ウクライナ情勢について聞いた。出口氏は最初に「一刻も早く終わってほしい」と語ったうえで、こう続けた。

「しかしいつ終わるかは、まったくわかりません。大国ロシアは1週間でキーウが陥落すると思っていた。ところがゼレンスキー政権は反骨精神で抵抗し、プーチンの読みは外れた。当てが外れたプーチンは東部地域に行ってマリウポリを落とそうとしている。しかしマリウポリが陥落しても終わるかどうか」

そして出口氏は「ただし時間がたつにつれて戦争のコストはロシアのほうが重くなる」と続けた。
「もともとロシアはクリミア半島と東部2州を支配したいと考えていた。そのためには時間がかかっても徹底的にやるだろう。しかし時間がたつにつれ、ロシアのほうがウクライナより戦争コストが上がってくる。ロシアはいずれ戦えなくなる可能性があるが、それがいつになるのかはわからない」

「1日も早く学生と一緒に学びたいと想っていた」
出口氏に「いまの日本のウクライナに対する姿勢をどう見るか」聞いた。
「G20はG7+オーストラリアと中国はじめインド、インドネシア、ブラジル、メキシコで割れている。日本はアメリカ・バイデン政権についていくと決めたのだから、これからもついていくでしょう」

最後に筆者は「倒れた後リハビリを続けながらどんなことを想っていたのか」と伺った。
すると出口氏はこう答えた。
「早くAPUに帰りたい、一日も早く学生たちと一緒に学びたいと想っていました。いま留学生が64ヵ国・地域約700名まで入国できましたが(4月21日時点)、まだ約500名の留学生が入国できていない。一日も早く入国させたいです」
「僕も続けます。一緒にチャレンジしましょう」
4月1日の入学式で出口氏は学生たちにこう語った。
「僕は去年、脳出血で倒れましたが、早くAPUで皆さんと会いたい想いで、この1年間リハビリをがんばってきました。ぜひ、皆さんはAPUでたくさんの人と出会い、本を読み、広い世界を旅して、いろんなことにチャレンジしてください。僕もチャレンジを続けます。いっしょにチャレンジしましょう。世界に平和な一日が一刻も早く訪れますように」
追記:
インタビューが終わり出口氏と握手すると、動く左手の握力の強さに筆者は驚いた。そして別れ際、出口氏は「わたしもがんばりますから」と笑みを浮かべた。いまでも様々な書を読み続けている出口氏。学びとチャレンジを続ける出口氏に、筆者はあらためて深く感銘を受けた。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】