1人暮らしや核家族が多くなった時代の家族の負担を減らしたいと、三重県の仏壇店・寺・石材店がタッグを組み、コンパクトな一人用の墓石を開発した。移動が可能で、寺の管理費用が月額制のこの墓石は、新しい供養の形となるかもしれない。

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妻と次男を続けて亡くし…困り果てた男性がたどり着いた小さな墓石

この日、名古屋市にある金山総合駅の南口で毎月開催される「金山にぎわいマルシェ」に、新しいタイプのお墓を紹介するブースがあった。

このブースでは、妻と次男を立て続けに亡くしたという80代の男性が、家族の供養について熱心に質問をしていた。

男性(80代):
長男がいるけど、横浜で所帯を持っている。話をしたら、「墓を作っても面倒見切れない」と…

苦楽を共にした妻と、次男の死。残りの人生を2人の供養にと考えている男性だが、頼みの長男は地元を離れて横浜で生活している。先祖の墓も遠い場所にあり、80歳を超えた男性には、新しく墓を建てる余裕もない。

困り果てた男性がたどり着いたのが、ブースで紹介されていた高さ23センチ、縦・横20センチほどの小さな墓石だった。「偲墓(しぼ)」と呼ばれる一人用のこの墓石は、骨壺と一体になっていて、費用や墓地などの様々な悩みを解決に導く、新しい供養の形が備わっている。

男性(80代):
核家族になってきているので、これは自然の流れ。移動できる墓を買って、あとは(月に)3300円のお世話料。寺に行かなくても弔ってもらえるなら、妻は喜ぶだろう

仏壇店×寺×石材店がタッグ 核家族が増える今“皆に負担少ない”供養を

偲墓は、三重県の仏壇店と寺の住職、そして石材店がタッグを組んで開発した。供養を知り尽くす三者が掲げる特徴が、“負担の軽減”だ。

偲墓の特徴の1つが「移動できる」ことだ。普段は提携する寺で安置して供養してもらうが、寺から寺へ移動させることも可能となる。例えば転勤で引っ越す時も、転居先から行きやすい寺に移して供養してもらうことができる。

もう1つの特徴は「明朗会計」だという。偲墓の購入費27万5000円の他に、寺の管理費用として毎月3300円を支払う。納骨や永代供養などの費用も含まれているので、追加料金は一切かからない。さらに、必要な期間だけ利用できるシステムで、いつでも解約が可能。解約すると墓石は廃棄され、遺骨は永代供養墓へ。その際の埋葬費用も必要ない。

偲墓を開発した1人、三重県松阪市にある仏壇店「佛英堂(ぶつえいどう)」の5代目・野呂英旦さんは、お寺や石材店から年々減り続ける供養についての相談にのっているうちに、この仕組みを考えついた。

野呂英旦さん:
供養してあげたい、でも遠方にいるとか、年を取ってきたからとか…。無理のない形で寺にもお布施をお支払いして、うちにも利益があって、利用者にも低額でご利用いただける仕組みを作りたかった

いまや全世帯の9割以上が一人暮らしや核家族だ。少子高齢化が進むこの時代に、墓や仏壇の新たな所有は難しいと考える人が増えたと、野呂さんは話す。

そこで誕生したのが、関わる全ての人の負担が少ない供養の形だった。

再利用も視野に開発…きっかけは産廃業者も引き取らない持ち主不明の墓石

偲墓にはもう1つ、これまでの墓石にはない大きな特徴がある。

野呂英旦さん:
最後に永代供養墓にお骨を移した後、お寺で砕いて崩していただけるようになっている

この墓石がハンマーで砕くことができるのには、あるワケが…。

三重県津市で、300年以上の歴史を持つ真宗高田派の寺院「浄誓寺(じょうせいじ)」。
この寺の住職・稲森栄政さんも偲墓を生み出したメンバーの1人だ。稲森住職は長年、持ち主不明の墓石に頭を悩ませていた。

稲森栄政住職:
もともとうちの檀家だった方々、多分。消息がわからない人たち。「墓じまい」してもらえればこうはならなかったけど、ほったらかしにされて…

供養する人がいなくなり置き去りにされた墓石が、寺の隅に積まれていた。仕方なく寺で供養をして処分をしようとしても、そもそも墓石は硬く丈夫な石でできているため、機械でも砕きにくい。産廃業者も引き取りたがらないため、多くが野ざらしになってしまっていた。

写真下部、積まれた「持ち主不明」の墓石
写真下部、積まれた「持ち主不明」の墓石

稲森栄政住職:
転勤イコール、ほったらかされる。墓のことは頭にない、どこにお墓があるか分からない。そもそも、法事に子供を連れてくる親御さんが減っている。もう大きく文化が変わってきている

全国の「墓じまい」の件数は、1999年は6万7270件だったが、2020年には12万490件と、20年でほぼ倍になった。

特に愛知県の件数は、10倍近くになっているという。最後に壊すことが可能で再利用も視野に入れた偲墓は、放置される墓石の増加に一石を投じる仕組みでもあった。

供養の仕組みを評価 「グッドデザイン賞」を受賞

浄誓寺にはこの日、2021年に夫を亡くした女性がお参りに来ていた。この女性は、熟慮の末に偲墓を選んだという。

女性:
(亡くなったのが)急だったので…。お互いの両親がお墓を持っていなくて。子供もいますけど負担にならないように。亡くなってしまったけど、思う気持ちは大切にしたい

人の思いに寄り添い、それぞれの事情に合わせて選べる偲墓は、2021年に「グッドデザイン賞」を受賞。コンパクトなデザインだけでなく、これまでの供養の形を大きく変えた仕組みが評価された。

野呂英旦さん:
先祖の墓を継ぐ時代じゃなく、人それぞれがお墓を選ぶ時代になってくる。これからも、どんどん改善を重ねていきたい

家族の負担を減らしたいと開発された偲墓は、新しい供養の形になっていくのかもしれない。

(東海テレビ)

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