ペンション街に吹く新たな風。長野県原村のペンション5軒が、八ヶ岳中央農業実践大学校の寮として、学生の受け入れを始めた。ペンション街に活気を取り戻そうと奮闘するオーナーを取材した。

農業を学ぶ学生の生活拠点に

4月1日、たくさんの荷物を部屋に運びれ入れるのは、神奈川県出身の戸張佳音さん(18)。八ヶ岳中央農業実践大学校の新入生だ。

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ここは原村ペンションビレッジにある「ペンション せこいあ」。戸張さんの新たな生活拠点になる。

八ヶ岳中央農業実践大学校の新入生・戸張佳音さん:
自然豊かな中で街の光も少なくて、夜は星空がきれいというのを聞いたので楽しみ

この春から5軒のペンションが、大学校の寮の役割を果たすことになった。「せこいあ」はその一つ。オーナーは中村洋平さん(41)だ。

ペンションのオーナー 中村洋平さん
ペンションのオーナー 中村洋平さん

オーナー・中村洋平さん:
若い学生たちがここで過ごすことが刺激になればいいと思うし、地域が元気になっていくきっかけになれば

老朽化の寮を建て替えられず…街に活気を

中村さんはペンションを営む両親のもとに生まれ、ペンションビレッジで育った。幼少期の1980年代はペンションブーム。最盛期、村内には120軒近くのペンションが営業していた。

オーナー・中村洋平さん:
カウンタックが来たり、フェラーリが来たり、バイクで若い人たちが都内から来たり。若い男の人や女の人が常に、原宿みたいに外を歩いてたり遊んでる。そんな感じの活気がありました

しかし、若者の旅行スタイルの変化やオーナーの高齢化などで、現在のペンションは半分の60軒程度。そのうち約20軒は新型コロナの影響もあって営業していない。

原村ペンションビレッジ
原村ペンションビレッジ

オーナー・中村洋平さん:
何かきっかけがあればペンションは何とかなる、というのが僕の考え方。正直なところ、もったいないなと。僕にとってはここがふるさと。何らかの形で残していきたい

中村さんは都内のIT企業に勤めていたが、2016年にUターン。ペンション街を活性化させる会社を立ち上げ、ペンションを一棟貸しのホテルにするなどの事業を手掛けてきた。

そこに、近くの八ヶ岳中央農業実践大学校から学生寮の話が舞い込んだ。農業を学びたい若者を全国から受け入れてきた大学校。2020年度の新入生は14人だ。

八ヶ岳中央農業実践大学校の入学式(4月8日)
八ヶ岳中央農業実践大学校の入学式(4月8日)

学生数は減少傾向で国の補助も削減され、財政難に陥っている。そのため老朽化した寮を建て替える余裕がなく、ペンションに受け入れを打診したのだ。

八ヶ岳中央農業実践大学校・大杉立校長:
非常に苦しい財政状況にあるから、大がかりな修繕をすることができない。(ペンションには)学生が住むために改修し協力してもらい、私どもとしてはありがたい

オーナー・中村洋平さん(3月31日):
「ペンション せこいあ」は築40年以上たっている。ボロボロなので大変は大変

打診があった中村さんは、高齢のオーナーが営んでいた「ペンション せこいあ」を買い取ってリノベーション。4月に学生13人を受け入れた。

「みんなで食事楽しい」人が集う場所を目指して

4月17日、学生の新生活がスタートした。

1年生:
志望は野菜です

オーナー・中村洋平さん:
野菜って全部?

1年生:
全部です

中村さん(右)と1年生が語り合う
中村さん(右)と1年生が語り合う

教師が管理人として常駐しているが、中村さんも時折顔を出している。

食事は、ペンションから歩いて5分ほどのレストランに料理を取りに来てもらう。夕食の時間、久しぶりに若者の声が響くペンション。

1年生:
こうやって楽しく話しながら食べられるところがいいな

2年生:
ペンションだと皆とわいわい騒げるし、楽しく過ごせる

オーナー・中村洋平さん:
外から見た時に明かりがついたペンションはあまりないので。毎日、明かりがついているのはいいことだな

若者の姿が戻ったペンション街。中村さんは観光に限らず、人々が集う場所にしようと引き続き「ビレッジ再生」に取り組む考えだ。

オーナー・中村洋平さん:
今までのペンションという業態だけでなく、働く人や商売する人、いろんな方がここで何かできる、小さくてコンパクトな「村」のようなものを体現できたらいいな

(長野放送)

長野放送
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